1月24日に第97回選抜高校野球の出場32校が決定する。トーナメント一本勝負の夏の甲子園とは異なり、前年秋の地区大会の成績を参考に、直接対戦していないチームの優劣が論じられることも多いことから、“不可解選考”も毎年のように俎上に上げられる。そんな中から、近年(21世紀以降)における不可解選考三題を選んでみた。
まず、「史上最悪の選考」としてネット炎上の事態を招いたのが、2022年の聖隷クリストファー落選事件だ。
前年秋、静岡2位校として東海大会に出場した聖隷クリストファーは、1回戦で津田学園に11対4と7回コールド勝ち。この試合でエース・主将の弓達寛之が右肩骨折のアクシデントに見舞われたが、次戦以降、控えの2投手がエースの穴を埋め、打線の援護を得ながら快進撃を続ける。
準々決勝では2点を追う9回に一挙3得点で鮮やかに逆転し、岐阜1位の中京を4対3で下す。準決勝の至学館戦では5点を先行されるも、6回に追いつき、5対5の9回表に3点を勝ち越されると、その裏に4点を挙げ、奇跡の逆転サヨナラ勝ち。かつて浜松商、掛川西を甲子園に導いた上村敏正監督も「漫画みたいなことが起こりました」と感激で声を震わせた。
決勝の相手は県大会決勝で敗れた日大三島。序盤に2点を先行も、4回に逆転を許し、3対6で敗れたものの、翌春のセンバツは、「35年ぶり静岡勢2校は確実」(「報知高校野球」2022年1月号)とされ、日大三島とのアベック出場が実現すると思われた。
ところが、選考委員会では、東海地区2校目は、準決勝で日大三島に5対10で敗れた岐阜2位・大垣日大が逆転選出され、聖隷クリストファーは地区大会で3勝したにもかかわらず、補欠になった。
理由は「個人の力量に勝る大垣日大か、粘り強さの聖隷クリストファーかで賛否が分かれたが、投打に勝る大垣日大を推薦校とした」(鬼島一司委員長)というもので、失点の少ない大垣日大のほうが「甲子園で勝てる」とされたからだった。だが、「個人の力量」に軍配が上がったことに、釈然としないものがあったのも事実。
世論も聖隷クリストファーの落選に納得できず、出場校を1校増やし、同校を33校目として出場させてほしいという趣旨の署名運動まで起きたが、センバツは当初の決定どおり32校で行われた。
世間の大逆風を受け、立場上、初戦敗退が許されなくなった大垣日大は、1回戦で21世紀枠校の只見に6対1で勝利したが、組み合わせに恵まれた感もあり、2回戦では星稜に2対6で敗れた。
一方、春夏通じて甲子園初出場が幻と消えた聖隷クリストファーは、昨夏も県大会決勝で掛川西に敗れるなど、あと1歩の状態が続いている。
◆ 選出理由は「センター返しのできる粘り強い打線」
準決勝で地区大会優勝校相手に互角に戦ったにもかかわらず、まさかの落選に泣いたのが、2009年の鳥取城北だ。
鳥取1位の同校は、中国大会でも1回戦で出雲北陵に1対0、準々決勝で島根1位・邇摩を8回コールドの11対1と連破して4強入り。準決勝では、この大会で優勝した倉敷工と延長12回の末、1対2と惜敗したが、同じ準決勝敗退組で、島根2位・開星が3点差で敗れていたこと、3枠目の比較対象となる四国地区の準決勝敗退2校も僅差の敗戦ではなかったことから、選出は確実と思われた。
ところが、選考委員会では、開星が準々決勝で広島1位・広島新庄の好投手・六信慎吾を打ち崩したことを評価、四国地区の準決勝敗退校・尽誠学園との比較でも、「(内野手)全員が腰を落としてしっかり守る基本に忠実な守備」で上回るとされ、逆転選出となった。
1988年にも中国大会4強の江の川が不可解な落選をしているが、鳥取城北も同じ悲劇を味わうことになり、あと味の悪さを残した。
今年は、前年の近畿大会で大阪1、2位の履正社と大阪桐蔭が初戦敗退し、3位・大院大付も準々決勝で東洋大姫路に0対4と完封負けしたことから、98年ぶりに大阪から出場校なしの可能性も取り沙汰されている。
実は、2003年にも、前年秋の近畿大会で大阪代表3校が揃って初戦敗退し、出場校ゼロの可能性があった。
同年は1位・近大付が東洋大姫路に2対4、2位・東海大仰星が平安に1対3、3位の大阪産大付が近江に0対9で敗れ、いずれも準々決勝に勝ち進むことができなかった。
近畿の6枠は原則として8強の中から選ばれるため、1927年以来76年ぶりに大阪から出場校ゼロになる可能性も強かった。
ところが、選考結果は、8強の南部、育英、箕島の3校が落選し、未勝利の近大付が逆転選出となった。
南部、育英はいずれも1点差で惜敗だが、同じ県からすでに智弁和歌山、東洋大姫路が選ばれており、「大阪代表を1校も出場させないわけにはいかない」という配慮から、地域性で救済されたとみることができる。
しかし、近大付の選出理由は「センター返しのできる粘り強い打線」という不思議なもの。ネット上では“センター返し枠”と皮肉られ、「地域性を理由にしたほうがまだまし」の声も相次いだ。
今年は大阪勢で唯一8強入りした大院大付がギリギリで選出される可能性を残しているが、はたしてどんな結果が出るか、1月24日の選考委員会が注目される。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)