1月23日(現地時間)、ヨーロッパリーグ(EL)リーグフェーズ第7節、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、首位を走るイタリアのラツィオの本拠地に乗り込んだが、3−1と完敗している。前半30分、左サイドバックのアイエン・ムニョスが2枚目のイエローで退場処分に。10人になった後にたて続けに失点して3−0とリードされる。後半は久保建英をはじめ主力をいっせいに下げて温存、被害を最小限にするのが精一杯だった。
45分間でピッチを去った久保が浴びた、イタリアならではの洗礼とは?
前半4分、後方からのボールを自陣に下がって受けようとした久保は、左サイドバック、ポルトガル代表ヌーノ・タバレスの背後からの強烈な寄せでボールを失い、これをきっかけに相手にFKを与えることになった。そこまで危険な位置ではないはずだったが......。
タバレスは、セリエAのアシストランキングトップで、左足のクロスを武器にしている。唸るようなクロスがラ・レアルのディフェンスを襲い、クリアしきれなかったところから、こぼれ球を蹴り込んで先制に成功。ほとんど何もないところからゴールを決めた。
ラツィオは、"勝負どころの効率性でチームを旋回させていた"と言えるだろう。いかに自分たちの強みを出し、相手の弱みを最大限に攻撃するか。その割りきりが、イタリアのクラブらしかった。
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もっとも、ラ・レアルも久保を中心に反撃を見せている。
8分には、押し込んで得た左CKからのこぼれ球を、久保が右足の強烈なシュートで狙った。21分には、右サイドでボールを受けると、タバレスと1対1になりながら押し下げつつ、下がってきた左サイドの選手とタバレスのカバーに入ったセンターバックと、計3人をひきつけ、ルカ・スシッチのミドルをアシスト。シュートはポストを叩いた。退場者が出るまでは、ほとんど互角の展開で、もし追いつくことができていたら違う結果になっていただろう。
しかし、数的有利に立った直後のわずか5分間で、ラツィオがここぞとばかりに勝負を決めた。
【極めてスペイン的な選手】
32分、イタリア代表マッティア・ザッカーニが久保に縦を遮られたことでカットイン。ライン間の味方を見つけ、そこからの連係でニアゾーンを崩すと、折り返しをザッカーニが決めた。一瞬の出来事だった。退場者が出たことで気落ちし、MFのマルティン・スビメンディがバックラインに入っていた混乱を見事についた形だ。
イタリア特有の"相手の傷口をえぐり、仕留める試合巧者ぶり"と言える。
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34分には、やはり左サイドのタバレスがほとんどフリーで速く重く落ちるような軌道のクロス。これをアルゼンチン代表バレンティン・カステジャーノスが完璧なヘディングで合わせた。急造センターバックの弱点を突いた格好だった。
これでラ・レアルは万事休すだった。
スペイン勢のクラブはボールプレーの質にロマンを求めるところがあり、イタリア勢のクラブの勝負に特化した戦い方を苦手にしている。ひと昔前ほどではないが、それは消えない伝統だろう。これは優劣というよりもかみ合わせの問題で、その証拠に、スペイン人のセリエAでの成功者、イタリア人のラ・リーガでの成功者の数は、多くの選手が行き来してきたにもかかわらず、限られている。
ラ・リーガのスペイン人選手たちは、どうやって相手の裏をかくか、タイミングをずらすか、そこにプレーの醍醐味を感じさせる。一方、セリエAのイタリア人選手はまずズレを起こさせない防御策を講じ、生じた動揺を逆に利用し、要所に配した個人によって決着をつける。対照的なスタイルだ。
そして久保は、タイミングの天才である。極めてスペイン的なプレーヤーと言える。わずかな動きで相手の逆を取って、優位に持ち込む。プレーを重ねるなかで、それを増幅させるアタッカーだ。
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「タケは相手のタイミングをずらすプレーを得意としている。敵に次のプレーを読ませない。あるいは読ませても、次に裏をかくようなプレーを繰り出せるのが特徴だ」
そう語っていたのは、Sportivaのご意見番で、ラ・レアルで強化部長などの要職を20年間も務めてきたミケル・エチャリだ。
「タケはスピード、技術、ビジョンがミックスしたプレーヤーで、たったひとつのフェイントでプレーを変化させられる。そこは、チキ(アイトール・ベギリスタイン、元スペイン代表/レアル・ソシエダ、バルセロナ、浦和レッズなどでプレー)と似ている。チキは非常にクレバーな選手で、テンポを生み出しながらサイドを支配できた。ラ・レアルで活躍した後、移籍先のバルセロナでさらに才能を開花させたように、攻撃重視の布陣においてアドバンテージが最大限に生かされていた。そのキャラクターにタケは一番近い」
あらためて、イタリアのチームが久保には最適の場所ではないことがわかったとも言えるだろう。
もっとも久保は、欧州の舞台においてラツィオのような相手にも鉄槌を下せるようにならないと、ビッグクラブでの活躍は望めない。ELリーグフェーズは残り1試合、ギリシャのPAOKサロニカ戦後に、ノックアウトフェーズ(9位から24位のチームがラウンド・オブ16進出を懸けて戦う。ラ・レアルは現在18位)に進むことが決まる。覇権を争う好機であり、ここから真価が問われる。
次戦は中2日、久保はラ・リーガで古巣であるヘタフェとの対戦である。