
加納さんは1987年埼玉県生まれ。高温の水蒸気で食品を乾燥させてパウダー状にする独自の装置「過熱蒸煎機」によるビジネスを展開し、食品ロス削減に取り組む人物だ。
加納さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
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食品ロスより深刻な「かくれフードロス」
加納さんを乗せた「BMW iX2 xDrive30 M Sport」は都内を走行。まずは2020年に創業したASTRA FOOD PLANの事業内容について説明してもらった。加納:「ASTRA FOOD PLAN」は、5〜10秒という短い時間で食品を乾燥・殺菌する装置「過熱蒸煎機」を開発した会社です。この装置を用いて、食品残渣(食品事業所から排出される食品のごみ)をおいしいパウダーにアップサイクルする事業を展開しているほか、食品の販売業も行っています。なお、社名に「PLAN」と入れているのは、私たちが目指すサーキュラーエコノミー(循環経済)の社会を実現するためには、単に装置や食品を扱うだけでなく、それらすべてを結びつける計画が必要と考えるからです。

加納:皆さんが普段認識しているフードロスは、製品になったあとに捨てられたものを指します。お弁当やお惣菜、家庭で購入した野菜の食べ残し、スーパーに並ぶ野菜の売れ残りなどがその代表例です。しかし、お店に出荷される前段階ですでにたくさんのロスがあることはあまり知られていません。たとえば、カット野菜工場で野菜を下処理する際に出る端切れの部分は、一日数トン単位で排出される場合も多いんです。全く知られていないフードロス。なので「かくれフードロス」と呼んでいます。実は、普通の食品ロスは年間400万トン〜500万トンほどなのですが、かくれフードロスは年間2000万トン以上に及ぶという試算も出ています。余程そっちのほうが多いのに知られていないんですよね。
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「食」への興味が深まったきっかけに
こうした「食」への探求心は、どこから来るのか。加納さんは女子栄養大学を卒業後、デパ地下などに店舗を構える総菜屋に就職したほか、老舗和菓子店のリブランディングに関わるなど、これまで一貫して食に関する仕事に就いている。その興味の原点をさかのぼれば、大手コンビニチェーン役員の父と、栄養士の母とともに過ごした家族の時間に行き着く。加納:私の両親はともに食品業界で働いていました。特に父は大手コンビニチェーンでお弁当やお惣菜の開発をしていて「感想を聞かせて欲しい」という理由から、新商品ができると必ず家に持って帰って来て、家族みんなで試食したりしていましたね。父の話は大体いつもドラマ仕立てになっていて。売り上げがどうこうではなく、人と人のつながりで新しい商品やビジネスが生まれ、発展していくというストーリーを子どもの頃からずっと聞かされていました。そのこともあって、自然と「食べ物を仕事にしたい」と思うようになっていました。
そんな加納さんの家族にある日、大きな事件が起きる。父親が会社を辞めて技術開発のベンチャー企業を立ち上げたのだ。同社では高温スチーム技術の事業化が目指されたのだが、この取り組みがのちにASTRA FOOD PLAN発足のきっかけとなる。

その思いから作ったのが「ネピュレ」という商品でした。規格外野菜や形の悪いフルーツなどを加熱水蒸気で殺菌・加熱したあとにピューレ状にし、製菓・製パンの材料として販売するという事業を展開していて、私も一時、この事業のお手伝いをしていました。
父の会社を手伝いながら、起業を決意
そんな話をしながら、加納さんを乗せた「BMW iX2 xDrive30 M Sport」は、北参道にあるカフェ「ルコワン北参道」に到着した。加納:ここで働き始めたのは2020年の冬くらいになります。父が最初にやっていた会社はダメになってしまったんですけど、また新たに父が立ち上げた会社でお手伝いをしていました。ところが、私が働き始めて2〜3年が経過したあたりで、その会社も傾いてきてしまって。「これは危ないぞ」と危機感を持ち、自分でも起業をしようと考えたんです。はじめに立ち上げようとしたのは、お惣菜を作る会社でした。そこで、まずは料理やオペレーションを勉強できそうなお店でアルバイトをするところから始めようと考え、見つけたのが「ルコワン北参道」だったんです。当時は父の会社での仕事を終えたあと、18時くらいからWワークで働き、それに加えて中目黒のフレンチでもアルバイトをしていました。
その後、加納さんは父親が開発した高温スチームの技術を引き継ぎつつ、アップデートさせていった。そして、父親の会社のメンバーで加納さんの上司に当たる人物のサポートを受けつつ、2020年にASTRA FOOD PLANを立ち上げることになった。
加納:過熱蒸煎機は、四国に社を構える機械メーカーさん協力のもと、完成しました。とはいえ、すぐに運用できるわけではなく、まずはどんな食材をどんなふうに加工できるのか実験を繰り返す必要があったんですね。その実験には私も参加していて、飛行機で四国に飛び、三日三晩粉まみれになりながら、ありとあらゆる食材をパウダーにするという作業をしていました。
加納さんが汗と粉にまみれながら開発に携わった過熱蒸煎機。その仕組みはどのようなものなのか。
加納:過熱蒸煎機では、超高温スチームの加熱水蒸気と熱風を併用しています。フリーズドライや熱風乾燥は、棚に食材を並べるスタイルですが、過熱蒸煎機の場合は、みじん切りにした食材を風で舞い上げるという仕組みを採用しています。イメージとしては、ゲームセンターやお祭りの屋台などによく置いてある、ケースの中でくじが風に舞う「エアー抽選器」みたいな感じです。あんなふうにみじん切りにした食材がぐるぐると回り、完全に乾いたものだけがてっぺんまで登って、隣のスペースに移動するというシステムになっています。
牛丼チェーンも活用する技術
過熱蒸煎機が完成した当初、加納さんは「いい機械ができたから食品残渣の処理に悩む食品メーカーさんに買ってもらおう」と思っていたという。しかし次第に「この機械で作った粉を使って、新しい事業を展開できるのではないか」と考えるようになり、その結果、食品パウダー「ぐるりこ(R)」が誕生したそうだ。加納:創業当時、営業活動で都内を中心に食品メーカーさんを訪ねて「何かお困りのことはないですか?」「工場で食品残渣は出ていないですか?」と聞いて回ったのですが、このときに、かくれフードロス問題の大きさに気付きました。たとえば、あるキムチメーカーさんでは白菜の下処理に際して、一日5トンに及ぶ白菜の芯を廃棄処分し、年間にして5億円の廃棄費用をかけていると知りました。「そんなにコストをかけているんですか」と驚きましたね。メーカーさん側も「私たちも困っているんです」とおっしゃっていて。で、あればと、白菜の芯をパウダーにすることにしたんです。とはいえ、白菜のパウダーってあまり活用方法がなくて。なので、いまだに考えています、白菜ぐるりこ(R)の使い道(笑)。その一方で、たまねぎ、ごぼう、にんじんは実際に商品化しています。たまねぎ、ごぼうは風味が強く特徴的で、にんじんはえぐみがなくなって甘さが引き立つ。そのため、非常に需要が高いんですよね。
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このように過熱蒸煎機とともに、かくれフードロス問題の解決に向けて歩みを進める加納さん。彼女にとっての「未来への挑戦=FORWARDISM」とは?
加納:かくれフードロスを当社の技術で解決するのが大きなビジョンなのですが、そのためにはアップサイクルフードの市場を開拓していく必要があると考えています。現状アップサイクルフードは、環境に配慮している反面、味と価格に課題を抱えているように感じます。環境にいいけど高い、おいしくない、では世の中に浸透していきません。なので、過熱蒸煎機によりおいしくアップサイクルした食べ物をみんなで消費するのが当たり前の社会を実現していくということが、私が今挑戦していることです。
(構成=小島浩平)
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