「おひとりさまツアー」は割高なのに、なぜ利用者が増えているのか “自己紹介なし”の理由

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2025年01月30日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「おひとりさまツアー」が人気、なぜ?

 2005年に「おひとりさま」が流行語大賞にノミネートされてからはや20年、今やすっかり定着した「おひとりさま消費」。コロナ禍を経て需要が加速し、いくつかの旅行会社が販売する「ひとり旅ツアー」の売り上げは、過去最高を記録した。


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 1997年に参加者全員が1人で参加するひとり旅ツアーを販売したクラブツーリズム(東京都江東区)では、売り上げが右肩上がりに伸びている。近年は特に反響が良く、国内のひとり旅ツアーは毎年、過去最高を更新し、2023年度は前年比133%に伸長した。


 2008年ごろから、ひとり旅ツアーを販売している阪急交通社(大阪市)でも、2024年の国内外のひとり旅ツアーの売り上げが過去最高に。特に海外旅の需要増が顕著で、2024年の海外のひとり旅ツアー参加人数は前年比2.5倍となった。


 両社とも、ひとり旅ツアーの販売数が年々増え、内容も多様化。メイン顧客のシニアだけでなく50代以下の参加者も増加するなど、すそ野が広がっているという。誰かと過ごすのが定番というイメージのあるクリスマス関連のひとり旅ツアーも活況だ。


 なぜ、おひとりさま専用ツアーの人気が幅広い層に広がっているのか。阪急交通社 東日本営業本部 メディア営業二部 営業二課 課長の後藤沙織氏、クラブツーリズム ライフデザイン旅行センターに所属する4人(支店長 新村健史氏、事業プロフェッショナル 丸山勝己氏、リーダー 小林雅子氏、リーダー 水野椿氏)に取材した。


●「コロナ禍」と「円安」で、ひとり旅人気が加速


 60代以上の「アクティブシニア」をターゲットとするクラブツーリズムでは、「一緒に旅行に行ける配偶者や友人が亡くなってしまった」という顧客の声を受けて、1997年に国内外のひとり旅ツアーを販売した。


 需要増が目立ち始めたのはコロナ禍以降。それ以前は、市場規模がそれほど大きくないカテゴリーとして穏やかに拡大してきたが、コロナ禍によって誰かを誘うことが難しくなり、おひとりさま消費の加速に拍車がかかったようだ。コロナ禍明けの2023年ごろからは、新規顧客の増加も目立つという。


 「2024年度の国内のひとり旅ツアーの売り上げは、前年比115%の見込みです。年間で約1300コースを販売しており、新たに誕生した宿泊施設を積極的に取り入れるなど常に新鮮さを感じられる商品を提供できるよう注力しています」(クラブツーリズム 新村氏)


 阪急交通社では、競合がひとり旅ツアーの販売数を増やしていたり、通常のツアーに1人で参加する客が増えていたりしたことから、2008年ごろに国内のひとり旅ツアーを販売した。一定の実績を積んだ後、2019年から海外でも同様の展開を始めた。2024年のひとり旅ツアーの参加者数は、国内が前年比1.5倍、海外が同2.5倍と反響の大きさがうかがえる。


 同社で海外のひとり旅ツアーを担当する後藤氏もまた、「コロナ禍を経て急激にひとり旅の需要が増えた」と話す。


 「コロナ禍以前は、海外のひとり旅ツアーは半年に1本催行するかどうかの状況でしたが、旅行が再開されてからはグッと催行数が増えています。1人行動が一般化してきたのに加えて、国によっては帰国条件が厳しくなったり、旅行代金が上がったりして、友人を誘いづらくなったという声をよくお聞きします」(後藤氏)


 円安の影響で海外ツアーの代金は、コロナ禍以前の2〜3倍に上昇している。友人などを誘いづらいが、それでも旅行に行きたいと考える人が、宿泊施設・飛行機・現地観光がパッケージになった利便性の高いひとり旅ツアーを選ぶようになり、需要が増しているようだ。


●参加者は女性が大半。割高だがプレミアム感が好評


 両社ともに、ひとり旅ツアーの商品には満足度を高める工夫が散りばめられている。ホテルは1名1室、バスの座席は1名で2席分確保するのが基本だ。添乗員や地元のガイドが同行して観光地を案内するツアーがほとんどだという。


 「観光地で各自がしたいことが十分にできる自由時間を確保しつつ、伝統工芸の体験などツアーでしかできない経験を盛り込みます。通常のツアー商品と比較してやや割高なこともあり、食事もややグレードが高いものを準備して、コースによっては1名1卓で提供しています」(クラブツーリズム 小林氏)


 こうした工夫は阪急交通社も大きくは変わらないが、同社では特にプライバシーを重視。ひとりを満喫できるよう販売当初から自己紹介タイムなどを設けておらず、利用者からは好評を得ているという。クラブツーリズムの国内ひとり旅ツアーでは、10年ほど前に自己紹介タイムを廃止している。


 人気の行き先を尋ねると、国内では離島、リゾートホテル、秘境やパワースポットめぐり、富士登山、動物園や水族館、四国の八十八ヶ所をめぐるお遍路、フェリーによる日本一周、ロケットの打ち上げ見学など個人では行きづらい場所に加え、東北の夏祭りや桜・紅葉の名所など季節限定のツアーとのこと。


 「年齢層は60〜70代がボリュームゾーンです。男女比は約8.5:1.5で女性が圧倒的に多いです。ただ、行き先によって男女比が逆転することはあり、鉄道関係やお祭り・花火などのイベント系は男性が増えます」(クラブツーリズム 小林氏)


 阪急交通社が販売する海外のひとり旅ツアーでは、トルコやエジプトといったマイナーなエリア、ポーランド、バルト三国などがよく売れている。「1人ではハードルが高いエリアが人気で、通常のツアーよりもひとり旅ツアーのほうが圧倒的に参加者が多い状況」とのこと。


 同社でも、参加者は国内外ともに70代がボリュームゾーンで男女比は約3:7で女性が多くなる。


●50代以下の女性からも支持が広がっている


 クラブツーリズムでは、ひとり旅ツアーの需要が拡大している現状から、30〜50代女性をターゲットに新たなプロジェクトを発足。同年代の女性社員によるチームを結成し、2023年上期からターゲットに特化したひとり旅ツアーを販売している。


 「今後のひとり旅商品の伸び代は若い女性層にあると感じ、30〜50代の女性が自分らしく楽しめる旅をアピールしたいとプロジェクトが立ち上がりました。同世代の5人の社員が自身の感覚や価値観を生かし、こだわりのツアーを企画しています」(クラブツーリズム 水野氏)


 特に売れ行きがいいツアーは、働く女性が参加しやすい土日で完結する1泊2日の離島旅だ。まず沖縄県・宮古島を販売したところ、まさに狙っていた40〜50代女性が多く参加。宮古島は車移動が中心となるが、レンタカーではなくバス移動ができる点も評価されたポイントだった。現在では屋久島、奄美大島、知床半島などの商品も販売し、同様に50代以下の女性に選ばれているという。


 また、「猫の日」の2月22日に、“猫の島”と称される宮城県の田代島を訪れるコースもヒット商品になった。住民よりも猫の数が多いといわれる田代島への上陸に加え、仙台うみの杜水族館や宮城蔵王キツネ村などにも訪れる内容だ。


 阪急交通社でも、ひとり旅ツアーでは全体的に50代以下の割合が増えていて、特にクリスマスに関連したツアーで40代以下の女性参加が増えた。2024年に初めて欧州のクリスマスマーケットをめぐる5日間の旅を企画したところ、普段あまり獲得できていない20〜40代の女性が目立った。そうした反響もあり、途中で出発日を追加するほどだったという。


 「それほどお休みを取ることなく働きながら参加できる日程や、一度に3〜4カ所のクリスマスマーケットをめぐる内容が支持を得たのだろうと考えます。現地で過ごすクリスマスに憧れはあっても、自身で数カ所の観光を手配するのは大変だと思いますので」(阪急交通社 後藤氏)


●課題は「ホテルの確保」や「差別化」


 シニアだけでなく、50代以下の層にも浸透し始めているひとり旅ツアーだが、企画や販売の難しさもあるという。


 「特に海外では、宿泊施設が団体客向けから個人客向けにシフトする傾向が強まっており、お部屋の確保が非常に厳しい状態です。団体ツアーはキャンセルのリスクが個人客より高いためです。しかも、2名以上で参加する団体ツアーなら参加者数に対して半分の部屋数で済みますが、ひとり旅ツアーだと全員分の部屋を確保しなければならず、余計にハードルが高くなります」(阪急交通社 後藤氏)


 近年は、全てがシングル部屋で設計されているビジネスホテルが海外にもつくられていることから、そうしたところを利用することが多いという。クラブツーリズムの小林氏も、同様の課題感があると話す。


 「1名1室での販売に抵抗感を持つ宿泊施設が多いため、新しく誕生した魅力的なところを提供したいと思っても、ツアーが組みづらい状況があります。また、どうしても2名以上で参加するツアーより割高になるため、差別化をどう図るかも頭を悩ませる点です」(クラブツーリズム 小林氏)


 同社のひとり旅ツアーは、2名で参加するときと比較して約1.2〜1.4倍の金額になるため、満足度を向上させるには特別感の提供が求められるようだ。


 単身世帯の増加などにより、両社ともひとり旅ツアーの需要は高まっていくと予測、引き続き関連商品を精力的に販売する方針だ。クラブツーリズムの新村氏は、「男性限定のひとり旅ツアーにもチャレンジしたい」と意欲を示す。


 阪急交通社の後藤氏は、「国内は美術館やガーデンめぐりといったテーマ性のある旅、プレミアムな座席を確保した祭り鑑賞など付加価値のある旅を、海外は未展開のアジアの商品ラインアップを増やしたい」と展望を話した。


(小林香織)



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  • 女性は友だち同士での旅行が多い気がする。村の集会所も女性が多い。男性はひとりが好きな人が多いと思う。
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