店舗・会員数を急拡大し、新サービスのローンチを続けるコンビニジムの「chocoZAP」。その急成長を遂げる裏では、一般的にはあまり知られていない、ジム環境の改善を急務としたRIZAPグループ社員1人ひとりによる部署や職責を超えたアナログな取り組みがある。社員自ら店舗でマシン修理や清掃を行うなど、顧客満足度の向上に努めている。RIZAPグループ執行役員財務経理本部長の千葉健人さんも、普段は財務・経理・IR統括の多忙な職務に就く中、いち社員として「マシン故障対応」に積極的に参加している。
【比較写真】ぽっちゃりお腹…肉体改造前の峯岸みなみ◆品質と満足度の向上が最重要課題 店舗運営とは縁遠い社員がマシンの故障対応をする意義
2022年7月のスタートから、店舗・会員数を急拡大し、日常のスキマ時間のジム通いをブームにしたchocoZAP。そのヒットの最大の要因は、月額3278円(税込)でジムのトレーニングだけでなく、エステや脱毛、カラオケ、ゴルフなどさまざまなサービスが使える経済性と利便性、エンターテインメント性の高さだ。そのビジネスモデルには、徹底した低コスト運営が欠かせず、DX化がそれを実現していた。
しかし、急激な事業規模の拡大にともない、物理的な対応の負荷も急上昇。SNSなどでは「機械故障」や「清掃状況」への不満の声も散見されるようになった。千葉さんは「いち社員としても、経営の立場から見ても、最優先で取り組んでいく課題だと考えていました」と語る。
「chocoZAPの会員様は若い方からご年配の方まで年齢層が幅広く、トレーニングジム利用初心者が多い中、安全性は最も大事であり、安心快適にご利用いただく環境を提供しなくてはいけない。スタートから2年間は集客を重点的に行ってきましたが、これからはそれを継続しながら、品質と満足度の向上を最重要テーマにして、グループ社員全員が一丸になって取り組んでいく課題だと認識しています」
そうしたなか、マシンごとのQRコードから会員が故障を報告する仕組みの確立や、各店舗のマシン故障や清掃の状況が一目でわかる「お店の状況わかるナビ」の開発、ローンチを含む、DX化による運営改善を行なった。加えて、RIZAPグループ社員が店舗に通い、マシン故障対応をする取り組みも実施した。
千葉さんは「僕は手先があまり器用ではないので、当初できることがあまりないのではと思っていたのですが、前述のような問題意識を持っていたので、積極的に参加したいと思いました」とし、日常の職務から離れた、慣れない業務にも邁進した。
「店舗運営の部署がやるのは当たり前ですが、私のような日常の職務から縁遠い管理部門の社員も直接かかわることに意味があります。職務領域を問わず、グループ全体で積極的に取り組んでいくことが重要です」
◆約7割の社員が自発的にマシンの故障修理対応を…近代的なDX化と泥くさい熱量の融合
ただ、そのためには、トレーニングマシンの保守、整備の素人であるグループ社員が、マニュアルを読み込むなど自ら勉強しなければならない。それは同時に、フィットネスの基本であるマシンおよびトレーニングについての知識を深め、店舗のリアルな状況を身を以て体験することになった。実際に店舗でマシンの故障修理やメンテナンスなどを実践し、そこで感じたことを千葉さんはこう語る。
「複雑な故障のため、1人ではすべての修理を終えられなかったこともありますが、そこで何が起きているのかを正確に掴むことが重要です。例えば、ダッシュボードでは把握できていなかった故障など、新たな問題点の発見につながります。その繰り返しとなる活動なので、とても有意義な取り組みだと感じています」
加えてその故障対応は、店舗運営へのサポート面においてプラスになるだけでなく、グループ社員が現場で直接マシンに触れて、感じて、得られたものを、それぞれの職場に還元することで生じるメリットもある。
「実際にトレーニングマシンに触って故障対応やメンテナンスをすることで、マシンの利用状況を始めとした店舗の実態がわかります。そこから見えてくる新たな課題があるかもしれない。それは投資家やステークホルダーのほか、関係会社や取引先とのやりとりなど、それぞれの部署や職務にフィードバックできることがたくさんあるでしょう」
この社員による故障対応をスタートしてまだ1〜2ヵ月ほどだが、すでに社員の約7割が積極的に参加している。そこには、いまの時代に希薄化した愛社精神のようなものが育まれる企業文化があるのかもしれない。
「会社が好きで、会社もそれぞれの事業も良くしていこうという意識が高い。今回のような取り組みにも、誰もが部署の壁を気にせず参加していくのが良いところです。ある種の泥くささをみんなが持っているように感じます」
こうした愛社精神や泥くささは、外部からは見えにくいところだ。chocoZAPは、システム管理された24時間無人ジムという印象があり、DX化が進むスマートな企業で泥くささととは無縁という印象もある。
「chocoZAPは、テレビCMやネット広告などのメディア露出が多い一方、企業の食堂でチラシ配りをさせていただくなども地道にやっています。そういうアナログな泥くささがあって、それをみんな率先してやっています(笑)。『DXでスマートにやればいい』よりも、『いまわれわれに何ができるんだ』という方向に意識が向く。いまの課題をみんなで解決していこうという熱量がある。昨今の社会構造で失ってしまったものが、この会社にはあるような気がします」
◆ジョブ型にはまらず、縦割りではない組織に…意見をぶつけ合い議論を戦わせることも
財務、経理やIRのスペシャリストである千葉さんは、金融機関や他事業会社のCFOなどを経て1年ほど前にRIZAPグループに転職した。そんな千葉氏が感じる同社の好きなところを聞くと、笑顔で答える。
「何かを聞けばすぐに教えてくれる。向き合ってちゃんと話をして、意見をぶつけ合って、良くも悪くも丸く収めない(笑)。議論を戦わせても、あとにわだかまりが残ったりしない。社員それぞれがプロフェッショナルで専門がありながらも、ジョブ型にはまらず、会社にとって何が良いのかを考える。縦割りではなく、会社を愛しているから、良かれと思えば何でもやる。それができるのも、良い人材を採用し、育てていく企業文化が会社に根づいているからだと思います」
千葉さんがいち社員として本業務を通して伝えたいことを聞くと「RIZAPグループのキーワードは“寄り添う”です。それは無人ジムのchocoZAPでも同じ」と力を込める。
「これだけの規模の会員数、店舗数になると、より多くの方に安心、安全、快適に使っていただく環境を確実に作っていくことが最優先事項です。それをグループ社員一丸になって取り組んでいるところです。
弊社は、来たるべき本格的な少子高齢化時代を見据えてchocoZAPを作りました。これまでになかったチャレンジをしているので、いろいろな課題が出てきているのは事実です。それに向き合って、会員のみなさまに寄り添いながら解決していく。弊社のサービスや様々なソリューションに満足してずっと使っていただけたらいいなと思っています」
(文/武井保之)