カーリング日本選手権展望(1)
ロコ・ソラーレがトロフィーから離れたシーズンを過ごしている。
昨夏の北海道ツアーでは2大会に出場し、4位と準優勝。その後、カナダ遠征では12大会にエントリーし、11大会でクオリファイ(プレーオフ進出)を果たしている。グランドスラム4大会にもすべてクオリファイを記録しているが、頂点には一度も立っていない。
スキップの藤澤五月は今季のシーズンインの際、2月2日に開幕する日本選手権を見据えて以下のようにコメントしている。
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「アリーナアイス特有の癖があると思うので、やっぱり今までどおり(アリーナで開催される)グランドスラムに出続けるっていうことはすごく大切だなと感じています」
今年の日本選手権の会場となるのは横浜BUNTAI。アリーナ開催であることから、ロコ・ソラーレは今季、特にグランドスラムの出場数や、そこでの戦い方を重視していた。
そうした状況にあって、ツアー14大会でクオリファイ進出は13大会、うち準優勝が3度。だが、優勝はゼロ。これを「勝ちきれない」と見るか、「安定した強さ」と見るかは、解釈が分かれるところだろう。
ただ、"優勝できないシーズン"に直面するのは決して珍しいことではない。ロコ・ソラーレの場合、五輪前後に「必ず」と言っていいほど訪れる。
2018年平昌五輪のプレシーズンとなる2016−2017シーズンでは、ワールドツアー7大会、日本代表として挑んだパシフィックアジア選手権、冬季アジア大会、さらに日本選手権と、トロフィーを手にすることはなかった。
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2022年北京五輪のプレシーズン、コロナ禍にあった2020−2021シーズンも、開催された国内大会では頂点に立ったが、日本選手権は準優勝、グランドスラム2大会ではいずれも8強に終わっている。
ともに、五輪でメダル獲得という大仕事を成し遂げた、その前のシーズンでのことだ。
そんな苦悩のシーズンを送っているなか、たとえば2017年にはサードの吉田知那美が「何かを変えなければ、取り入れなければ、という気持ちはある」と、迷いや焦りを吐露している。だがその言葉どおり、ロコ・ソラーレは変化を恐れずに戦い続けたことによって、平昌五輪で銅メダル、北京五輪で銀メダルという快挙達成を果たした。
こうしたチームの変遷を振り返って、セカンドの鈴木夕湖はこう語る。
「うちらが負ける時って、だいたいカッコつけてた時だから」
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ロコ・ソラーレはこの8年間において、焦りを準備に昇華させてきた。喜怒哀楽を解放し、我慢強さと泥臭さを備えつけた。
実際、2021年の北京五輪代表トライアルでは、北海道銀行フォルティウス(当時)を相手に2連敗から3連勝を飾って日本代表に。本番の北京五輪でも予選敗退を覚悟した状況から、奇跡の準決勝進出を果たしたことは、記憶に新しい。
勝てないシーズンには、ネガティブな感情になることもあっただろう。しかしそんなことも、リードの吉田夕梨花は「スキルアップや学びに結びついたと思う」と言う。苦しい経験を、難航ではなく助走、停滞ではなく投資と割りきっていた。
吉田知は以前、「『常勝軍団』とか『美しく勝つ』なんて言葉は、漫画などで読むと面白いけれど、私たちには縁がない。私たちはダサいほうが強いんです」とも話している。
今季もロコ・ソラーレは、グランドスラムで連敗スタートからクオリファイを決めている。3点リードされた最終エンドで同点に追いつき、エキストラエンドで逆転したゲームもあった。意地でも土俵を割らない粘り強さを「ゾンビゲーム」と称し、彼女たちは笑う。そしていつの頃からか、そういった戦い方が「ロコ劇場」と呼ばれるようになった。
ロコ・ソラーレが来年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に出場するためには、今回の日本選手権で最低でも3位以内の成績を残さなければならない。だが、その条件をクリアすることは決して簡単ではない。
近年はライバルとなるチーム、SC軽井沢クラブや北海道銀行ら若手を主軸としたチームの成長が著しい。藤澤加入以降、出場した日本選手権では常にファイナル進出を果たしてきたロコ・ソラーレだったが、昨年の大会でその記録も途切れてしまった。
3大会連続の五輪出場に向けて、ロコ・ソラーレはまさしく崖っぷちの状態にある。
迎える日本選手権。初戦で昨年の準優勝チームで、今季ツアーでは負け越している北海道銀行と対戦する。あとがない"ゾンビ軍団"は、はたしてどんなゲームを見せるのか。
4年に一度の最高峰の舞台へ、"ロコ劇場"の幕は三度、上がるだろうか。