電通・博報堂をサイバーエージェントが猛追? 広告業界を生き残るヒントを探る

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2025年01月31日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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成長を続ける広告市場、各社が生き残るには?(出所:ゲッティイメージズ)

 この10年間、年平均で2%の成長を遂げ、2023年時点で7.3兆円規模となった広告市場。市場環境が激変している中で、今回は、広告会社が今後の戦略で求められる多面性についてお伝えしたいと思います。


【画像】明暗分かれたインターネット・テレビ、今後の生き残りモデルなど図版を見る(全8枚)


●広告業界「3つの変化」とは


 業界に特に大きな影響を与えたのが、次の「3つの変化」です。


(1)インターネット広告の飛躍的拡大


(2)コンサル、ITといった異業種の参入


(3)クライアントが要望するレベルの高まり(データ分析力や内製化力が向上)


 これらの変化は、広告会社に「新しい商品が台頭し既存商品がシュリンクしていく」「新たな競合が現れ顧客数が減っていく」「業務負荷増大と低価格化が進み収益性が悪化する」といった四面楚歌のような状況をもたらしました。


 いくつかのデータを確認しましょう。


 次のグラフは、インターネット広告費と地上波テレビ広告費の推移です。2020年に市場規模が逆転し、2023年には約1兆円の差が開いています。インターネット広告が拡大し、テレビ広告が縮小しているのが明確に分かります。


 テレビCMが減少傾向の一方、次のデータからは動画広告の成長が今後も見込めることがうかがえます。


 まとめると、紙媒体やマス媒体などを主体としてきた広告会社や、営業スタイルが値引きや接待ありきで、マーケティングスキルで勝負できていない広告会社が、現在苦境に立たされているのです。


●生き残るには、具体的にどうすべきなのか


 こうした中で勝ち残るには現状のポジションに安住せず「拡大」のベクトルを明確にする必要があります。ベクトルは、次のように整理できます。


 従来は、広告領域が主戦場でした。中でも商品やノウハウ、媒体を拡大していくのは大変です。折込広告やフリーペーパーが主体であった会社が、インターネット広告を事業の柱にするには相当な経営変革が必要だからです。


 しかし、困難であっても広告領域を拡大、もしくは主力商品をシフトしていくことは必須の市場環境です。その上で、上面にあるターゲット拡大をしていかなくてはなりません。


 現状の主軸がどこに位置するかによりますが、地方に特化している広告会社であれば、地元エリアの大手開拓か、その地域以外に支社を出す選択肢などが挙がるでしょう。特定の業種に強みを発揮してきた企業であれば、別の業種にノウハウを転用しないと業績拡大が難しい局面が訪れています。右側面にあるような、事業ドメインを拡大する異業種への参入も多くの可能性を秘めています。


 図にあるような代表的な企業は、広告会社とは一線を画すビジネスモデルやノウハウで高い成長性と収益性を保持しています。この多面的で「立体パズル」のような戦略のうち、自社がどこに向けて舵(かじ)を切るのか、最適な一歩を必ず見出さなくてはなりません。


 ここまで代表例として挙げた企業と、大手広告会社との比較を見ていきます。まず広告会社大手2社の業績推移を紹介しましょう。両社とも売り上げと収益は伸長しているものの、営業利益高は減少傾向です。業界のトップ2社が、大変類似した傾向になっているのが分かります。


 次に、前出の図に代表例として記した企業を加え、売り上げの成長性と営業利益率、営業利益高を見ていきます。右上のゾーンが成長性、収益性ともに高いゾーンです。大手広告会社3社よりも高いポジションにあることが分かります。


●電通・博報堂とサイバーエージェントの違いとは?


 サイバーエージェントは売り上げでは電通とまだ差があるものの、営業利益は博報堂を追い抜き、電通の背中が見える位置まで来ています。この収益性の違いは、ビジネスモデルに起因します。具体的には、多角的であること、自社独自サービスやストック型収益が組み込まれていることが大きな特徴です。


 アクセンチュアは戦略やIT導入などのコンサル事業から、広告計画・制作まで領域を拡大し、8年間で売り上げが約4倍の成長を遂げています。ブレインパッドやサイボウズは分析力や業務改善力という強みを武器に、ストック型サービスを提供し、安定的な経営基盤を実現しています。


 これら6社の従業員1人当たり粗利高と、営業利益高を比較したのが次のグラフです。1人当たり営業利益の観点では、電通や博報堂を他の企業が上回っています。


 もちろん新しい事業領域に踏み出すことはリスクも伴います。踏み出すか否かは、経営者の拡大意向や挑戦の精神の多寡によるでしょう。スピーディーかつ、圧倒的な量的拡大や収益性の向上を目指す経営者であれば、新しい事業領域への参入が自然の道となるはずです。


●マーケ・DX組織の整備が優先課題


 広告領域の範囲内で拡大を目指すとしても、整備すべきことがあります。マーケティング組織とDX組織です。小売業やIT企業を例に取ると分かりやすいので、次の図に示しています。


 マーケティングの4分類である、「商品」「価格」「チャネル」「販促」に対し、小売業やIT企業は組織やルールが明確です。一方、広告会社の多くは商品開発組織がありません。販促を売り物にしているにもかかわらず、自社の販促が手薄なのです。


 広告会社は、顧客に提供しているノウハウを、もっと自社のマーケティングとDXに生かすことが必要です。自社のマーケティングができずして、顧客のマーケティング成功せず、と捉えなくてはなりません。


●「粗利ミックス」も重要だ


 マーケティング・DX組織の強化に加えて「粗利ミックス」の考え方も浸透させなくてはなりません。小売業は商品や売場を粗利ミックスで考えて構成します。広告会社も売り上げばかりを追わず、利益ベースの設計が必要です。


 顧客側が払う金額が同じ「100万円」であっても、広告会社側の粗利が5万円の場合と30万円では、6倍も利益貢献度に差が出るのです。当たり前の視点ですが、この基本を見失うと大変です。戦略設計の際には必ず盛り込まなくてはいけない視点なので、忘れないようにしましょう。


 今回は、広告会社の戦略で求められる多面性を、代表的企業の業績例なども交えて解説しました。変化が激しい広告業界を勝ち残るために、少しでもお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


(佐久間俊一)



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