限定公開( 7 )
パンツに、ハトハトハトハトハト――。
色は赤・青・白。ド派手なデザインと色づかいのパンツが登場すると、SNSではこんなコメントが飛び交った。「なんだこりゃ。攻めてるな〜」「ダサいが、かわいい」「ハト柄がよくて、買ってしまった」といった具合に、おおむね好意的な声が目立った。
このパンツが登場したのは2020年のこと。イトーヨーカドーが創業100周年を迎えるにあたって、同社のロゴ「ハトのマーク」を使ったパンツを販売したのだ(期間限定)。
SNSで盛り上がったものの、売り上げは期待したほどではなかった。しかし、「ハトのマークを使ったパンツって、どんなモノなの? 実物を見てみたい」と興味を持つお客が多く、店に足を運ぶ人が目立った。
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ネットで話題になったので、商品に集客力があるのではないか。パンツは買わなくても、来店すれば何か買ってくれるかもしれない。同社はこのように考え、翌年も夏に販売。パンツだけでなく、食パンの袋にハト、お茶碗にもハト、水筒にもハト。さまざまな商品にロゴのハトを施し、そのたびにSNSで話題になったのだ。
期間限定で、ちょっとずつちょっとずつ販売してきたわけだが、2024年9月に転機があった。
ご存じのように、イトーヨーカドーは業績低迷を受け、全国で閉店が続いている。青森県の弘前店も2024年9月にシャッターを下ろすことになったわけだが、グッズの担当者はあることを考える。「閉店セールと一緒に、ハトのグッズを販売できないか」と。
トレーナーやTシャツにはハトの柄だけでなく、大きな文字で「イトーヨーカドー」と書かれている。この商品を目にした担当者は「ちょっと売れないかも」と心配したものの、それは杞憂(きゆう)に終わった。商品を手にするお客が相次いだのだ。
●店頭販売の反響
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閉店セール中に販売したハトグッズは好評で、用意していた商品は瞬く間に完売した。店じまいまでまだ時間があったため、急きょ追加生産を決めた。できたてのグッズを並べると、再びあっという間に完売。また、追加生産……。
こうしたやりとりを5回ほど繰り返していくうちに、担当者はあることを考えた。「これまでは期間限定で扱ってきたが、通年で販売してもいいのではないか。店頭だけでなく、ネットでも買えるようにしたほうがいいのではないか」と。
このような流れを受けて、今年の1月から全国の68店舗で扱っている。店頭またはネットで12アイテムを販売したところ、どのような反響があったのか。想定の1.4倍ほど売れたそうだ。
ハンドタオルやトートバッグが人気のようだが、ここで問題をひとつ。「ハトが大きく描かれているデザイン」または「たくさんのハトが描かれているデザイン」どちらの商品が売れているのか。
個人的な感想だが、「大きなハト」はイトーヨーカドー感が強く、「ハトがたくさん」はおしゃれな印象を与える。というわけで「『ハトがたくさん』のほうが売れているはず」と思っていたが、実際には「大きなハト」のほうが圧倒的に支持されているそうだ。
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いくつかのグッズがある中で、個人的に気になったのは「光る(特大)ハトロゴスタンド」(2万3980円)である。左側にハトをデザインして、真ん中にイトーヨーカドーの文字が並ぶ。アクリル製のスタンドで、サイズは縦20×横58センチ。そこそこ大きいので、部屋に置くと存在感が伝わってくる。
インテリアとして買うの? 本当に購入する人はいるの? と思っていたら、しっかり売れているようで。単価が高いこともあるが、金額ベースで見ると、全アイテムの中で「1位」だそうだ。
通年販売に切り替えたことで、今後は毎月、新商品を投入するという。今度は”光らない”ハトロゴスタンドの販売を予定していて、正式な発表があれば、再びハトマニアの間で話題になりそうである。
●ハトの魅力
それにしても、なぜ企業ロゴをあしらった商品が売れているのか。個人的には、2つの理由があると思っている。1つは「懐かしさ」である。
ご存じのように、ここ数年レトロブームが続き、昭和を感じさせるグッズがあふれている。お客からは「ハトのマークは懐かしいねえ。ちょっと買ってみようか」という声がよく聞かれるそうだ。一方、現場で働く人の受け止め方は違う。「えっ、これって懐かしいデザインなの?」と驚く声も少なくないという。
もう1つは「企業ブランドへの親近感」である。お客との接点を増やすために、企業ロゴをデザインした商品はたくさんある。例えば、スターバックスのコップには人魚(ギリシャ神話に登場するサイレン)が描かれ、AppleのPCにはリンゴのマークが刻まれている。ファミリーマートの靴下は、看板のカラーを反映したデザインになっている。
なぜ、お客は企業ロゴに興味をもつのか。ハトグッズを手にしたいという気持ちは、企業への親近感の表れではないだろうか。先ほど、大きなハトをあしらった商品がよく売れていると述べたが、オシャレさよりも企業ロゴを優先するのは、それだけブランドへの愛着を感じているからかもしれない。
さて、他社の事例が豊富にあることを考えると、なぜイトーヨーカドーは「ハト」をもっと早くデビューさせなかったのか。創業100周年のタイミングは遅すぎるように思えるが、その点について「毎日のように現場で働いていると、企業ロゴについてじっくり考えることがなくて。ですが、お客さまから『かわいい』という声をいただき、改めてハトの魅力に気付かされました」(担当者)
会社の業績は依然として厳しいが、赤・青・白のハトはどこまで飛び立つのか。売れ行きは“パタパタ”と羽ばたくかもしれない。
(土肥義則)
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