営業の生産性を上げるため、ある企業が1000万円以上かけてSFA/CRMを導入した。しかし、3年たっても期待した成果が出ていないという。「営業活動を見える化すれば目標達成できるはず」。そう豪語していた営業マネジャーは、今では頭を抱えている。いったい何が問題だったのか?
理由は、営業マネジャーに進捗管理の本質が理解できていなかったからだ。
今回は、そもそも進捗管理とは何なのか? なぜシステム導入だけでは目標達成できないのか? について解説する。経営者はもちろんのこと、営業マネジメントに携わる方々は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●多くのマネジャーが誤解している「進捗管理」とは?
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進捗管理とは、一般的に「どれだけ進んでいるか」「どこに問題があるか」「予定通りに進めるために何をすべきか」を把握し、必要に応じてサポートを行うことだ。
しかし、進捗管理とは何かと尋ねられたら、多くのマネジャーは、
「タスクの見える化だ」
「スケジュール管理のことだ」
「目標達成までのプロセスをしっかりと見ることだ」
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と答える。そう思い込んでいるから、高額なシステムを導入したものの、全く活用できないのだ。
●進捗管理の本質を誤解すると、こうなる!
以前、次のようなマネジャーがいた。
「SFA/CRMを導入すると、営業活動が全て見える化される。スムーズに進捗管理ができるようになって、データ分析も簡単になるはずだ」
しかし、このように思い込んでいるマネジャーの下では、とても残念な結果になりがちだ。
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「せっかく高額なシステムを入れたのに、一向にデータが集まらない」
「データが集まらないから、分析もできない」
「誰も入力しないから、結果的に以前のExcel管理に戻ってしまう」
なぜこうなるのか? それは、マネジャーが進捗管理に入る部分と入らない部分を、しっかりと理解していないからだ。
繰り返すが、進捗管理とは、
「どれだけ進んでいるか」「どこに問題があるか」「予定通りに進めるために何をすべきか」を把握し、必要に応じてサポートを行うこと、である。
従って進捗管理に入らないのは次の2つだ。
1. 目標・タスクを明確化し、段階的に分解する
2. 可視化(見える化)を徹底する
そして、進捗管理に入るのは次の3つである。
1. 定期的に振り返り・レビューを行う
2. 適切なコミュニケーションと早期エスカレーションを行う
3. 定量・定性の両面から進捗を評価し、柔軟に調整する
それでは、これら5つのポイントを詳しく解説していこう。
●1. 目標・タスクを明確化し、段階的に分解する
「今期はこのぐらいの売り上げを達成しよう」と抽象的な指示をしても、部下は具体的に何をすればいいのか分からない。進捗を測ることもできない。
まず、大きな目標を細かい単位に分解するのだ。
「毎月この商品を5本売る」
「新規のお客さまに毎週3件アプローチする」
「既存のお客さまは四半期に1回は訪問する」
このように、一つ一つのタスクを具体的に決めていく。とても重要なプロセスだが、これは進捗管理するための準備といえる。
●2. 可視化(見える化)を徹底する
可視化(見える化)は、目標を達成するための「見取り図」と言ってもいい。空から見た地図のようなものだ。
例えば、毎月商品を5本売るという目標を立てたとする。それを達成するために、
・今、誰に営業をかけているのか?
・商談はどこまで進んでいるのか?
・今月中に成約する可能性はどのぐらいあるのか?
このように、一目で分かるようにすることが見える化である。これも進捗管理の準備段階だ。あくまでも仕組みを整備しているだけだからだ。
●3. 定期的に振り返り・レビューを行う
さて、ここからが本当の進捗管理のはじまりだ。月曜日の朝会で、
「先週はどうだった?」
「今週はどうするつもりだ?」
「ここで手が止まっているのはなぜ?」
このように、一つ一つ確認していく。このときに仕組みがあり、見える化されていると便利だ。正しい現状確認、レビューがしやすいからである。
●4. 適切なコミュニケーションと早期エスカレーション
現状を確認し、問題がありそうであれば、何らかの打ち手を考える。すぐ対処できる環境を作ることも、進捗管理の一部だ。
最後の最後まで「なんとかなるはず」と思い込んでいる部下がいたらいけない。手遅れになる前にリカバリーする。
問題が大きくなる前にマネジャーに報告・相談することを早期エスカレーションと呼ぶ。これも進捗管理において重要な取り組みだ。
●5. 定量・定性の両面から進捗を評価し、柔軟に調整する
私たちコンサルタントが陥りがちな問題だ。ついつい数字だけを見て判断してしまう。だが、数字で表すことができない情報も無視できない。お客さまの表情、部下の様子、市場の変化などの情報などだ。
「確かに今月の売り上げは達成できそうもない。しかし、新しい商品に興味を持ってくれるお客さまが増えてきた」
「明らかに感触が違います。まだ成果は出ていませんが、あと2カ月はこの方向性でいきたいです」
このように、数字以外の情報も見ながら、柔軟に対応することも進捗管理には欠かせない。進捗管理とは、単なる数字の管理ではないのだ。
●正しい進捗管理の3ステップ
高額なシステムを入れて見える化をしただけでは、進捗管理は完了しない。
Plan(計画)とDo(実行)の部分を支援するのが、SFA/CRMといった情報システムの役割だ。しかしCheck(確認)とAction(改善)の部分は、システムだけではできない。
それでは、正しい進捗管理のやり方をまとめていこう。前述した通り、まずは以下3つのステップを頭にたたき込もう。
1. どれだけ進んでいるか
2. どこに問題があるか
3. 予定通りに進めるために何をすべきか
一つ一つ見ていこう。
1. どれだけ進んでいるか
まずは、現状を正しく把握することから始めよう。いわゆる「現状認識」である。
例えば、月間目標1000万円の売り上げに対して、今月20日の時点で400万円しか売り上げがないとする。
「このペースだと目標未達だな」
と過去の実績だけを確認するのではなく、
「残りの600万円のうち、どのぐらいが見込みとして残っているのか?」
「商談中の案件は全部でいくらあるのか?」
このように、過去だけでなく未来にも目を向けて現状を把握する。
2. どこに問題があるか
次に、なぜ予定通り進んでいないのか? その問題の箇所(Where)を見つけよう。原因(Why)を追及すると、言い訳しか出てこない。それだと解決策は思いつかないものだ。
「提案前プロセスのコンバージョン率が低い。特に社歴の浅い4人の営業のコンバージョン率が、平均より20%低いです」
「見込み客の数そのものが足りないのです。昨年と比べると、一人あたり15社も足りません」
このように、具体的な数字とともに問題点を洗い出すのだ。そうすると、解決策も導きやすくなる。
3. 予定通りに進めるために何をすべきか
そして最後に、具体的なアクションを決めていく。当然、問題の箇所によって対策はまるで違う。
提案前プロセスのコンバージョン率が低いなら――
「社歴の浅い営業を集めて、お客さまの課題をどうヒアリングするか、定期的な勉強会をしよう」
見込み客そのものが足りないならばこうだ。
「展示会など、イベント企画をてこ入れしよう。営業企画部と対策を練る」
このように、一つ一つアクションプランを練っていく。ネクストアクションが決まれば、次回の進捗会議で、どのような状況か、何が問題かを確認すればいい。
●まとめ
DX推進のために高額なシステムを導入しても、なぜうまくいかないのか? 理由は、マネジャー自身が進捗管理の本質を理解していないからだ。
進捗管理とは見える化することではなく、見える化したデータを使って適切な判断とアクションを起こすこと。世の中、DXやAIといったキーワードが溢れかえっている。しかし決して振り回されてはいけない。
情報システムはあくまでも道具でしかないのだ。本当の進捗管理ができる人材を育成することこそが、DX推進の第一歩といえるだろう。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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