バスはその日の天候や交通渋滞に左右されるので、予定時刻に遅れることも珍しくありません。会社員の町田薫子さん(仮名・35歳)は通勤時間帯のバスの中で、思いもよらない出来事に遭遇した経験があると語ります。
「ある日、バスに乗るなり、大きな怒鳴り声をあげる男性に出くわしました。すると、目が合ったと勘違いした相手に言いがかりをつけられてしまって……」
◆時間に余裕を持ってバスに乗り込むことに
その日は、初めて会社に出勤するということもあり、早めに家を出たそうです。
「結婚を機に仕事を辞めたのですが、このたび子どもを保育園に預けて働き始めることにして。やっとの思いで就職先を見つけ、初出勤の日は余裕を持って早めにバスに乗り込みました」
バスの到着は少し遅れており、座席がいっぱいだったのでつり革を持って立つことにしたと言います。
◆大声で不満をぶちまける男性が現れて…
「すると、次のバス停で50代くらいの男性が乗車してきました。彼はすぐに『バスが10分も遅れているじゃないか!』と大声で怒鳴り散らして。静かな車内に響き渡るように何度も舌打ちを繰り返したのです。そのあまりの剣幕に驚いて、私は彼の姿をふと見てしまいました」
そうすると、にらみつけられたと勘違いした相手がグッと近づいてきたのだとか。
「彼は、怒りで血走った目で『何見てんだよ!俺にけんか売ってんのか』とたんかを切りました。私は、どうにかこの場を乗りきろうと『そんなつもりはなかったんです』『気に障ったのなら謝ります』とひたすら相手をなだめて。あまりにも詰め寄ってくるので『誰か助けて』と、いつ声をあげようかと悩んだくらいです」
◆助けてくれた男性の言葉に衝撃
次の瞬間、近くにいた30代くらいの男性が助けに入ってくれたそう。
「すぐさま『八つ当たりするのもいい加減にしろ』『バスが遅れるなんてよくあることだ』と50代くらいの男性を叱り飛ばしてくれました。そして、最後に痛いところをつかれぐうの音も出ない彼に『こんなオバサン相手に大声を出すことはないだろう』とダメ押ししたのです。私のために相手を厳しく注意してくれたものの、同世代と思われる男性に“オバサン”呼ばわりされたことにショックを隠し切れませんでした」
その後、50代くらいの男性はすぐに黙り込んだと言います。でも、悲しげな薫子さんの顔を見て「ざまあみろ」と言わんばかりにニヤニヤ笑っていたのだとか。
「このタイミングで、会社が近くなったのでバスの降車ボタンを押しました。けれども、50代くらいの男性が目の前に居座るので『降りるのでそこを通してください』と声をかけたのですが……。なぜか彼はモタモタするばかりで一向に動こうとしません。一体何がしたいのかと思い内心いらいらしました」
すると、さっきまでやり合っていたせいか、運転手が「これ以上、揉め事を起こすようなら二人ともバスを降りてください」とアナウンスしたと言います。
◆話し合いを申し出たものの…
「彼の煮え切らない態度にだんだん嫌気が差してきました。まだ出社まで時間があったため『他の人に迷惑がかかるので、降りて話をしましょう』『不満があるのなら、私が話を聞きますよ』と声をかけたのです。そしたら、50代くらいの男性は『そんなこと言われなくても、最初から俺はここで降りるつもりだったんだ』とにらみつけてきて。『オバサンに用はない』と捨て台詞を吐いたものの、私にダメージを与えるために発言したことが見え見えでした」
相手がわざと「オバサン」という言葉を使ったと気がついたので、薫子さんはめげずに「なんて頑固なオジサンなの」と反撃したそう。同じバス停に降りる割には「行動を起こすのが遅い」と感じたのだとか。
「結局、私と50代くらいの男性はそのバス停で一緒に下車しました。しかし、降りるなり、彼はそそくさと逃げてしまって。初出勤なのに思わぬ形でトラブルに巻き込まれ、かなりむしゃくしゃしていたので、いったん心を落ち着かせるため近くのコンビニに寄ることにしました」
そこのイートインでコーヒーを飲んでから、薫子さんは気持ちも新たに出社したと言います。
◆新しい会社で挨拶、まさかの上司が…
「早速、職場の人たちの前で挨拶をすることになりました。『本日付で入社いたしました町田薫子です。結婚を機に退職したのですが、今回ご縁がありこちらで働かせていただくことになりました』『一生懸命頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いします』と自己紹介をして。
その後、社長に『この人が君の上司だよ』と紹介されてびっくり。なんとさっきバスでけんかになった50代くらいの男性じゃないですか。まさか同じ会社だったとは夢にも思っていませんでした。今までの振る舞いを見るに、とてもいい上司とは思えず……。入社したばかりなのにすでに先が思いやられます」
信じがたい現実を目の当たりにした薫子さん。もう二度と同じ時間帯のバスには乗るまいと思っていたものの、相手が同じ職場となると、嫌でも顔を合わせることになるでしょう。これから長いお付き合いになるので、つかず離れずの距離感を心がけたいところです。
<取材・文/菜花明芽>
―[乗り物で腹が立った話]―
【菜花明芽】
ライター。ゾッとする実録記事を中心に執筆中。カフェでのんびり過ごすことが好き。