認知症の利用客に、どう対応する? 1万9000人の従業員をサポーターに育てたヨーカ堂の狙い

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2025年02月02日 09:51  ITmedia ビジネスオンライン

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イトーヨーカ堂の取り組みは(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 イトーヨーカ堂が、認知症の来店客を想定した施策を強化している。


【画像】認知症当事者と社員が話し合う様子、ボランティアが高齢者に付き添う「スローショッピング」の様子など(計5枚)


 2014年に導入したのが、「認知症サポーター養成講座」だ。これは厚生労働省が推進する学習会で、認知症の症状や診断・治療、当事者と接するときの心構えについて学ぶというもの。自治体や企業・職域団体などが実施しており、受講を終えた人は、認知症の人やその家族の「応援者」である「認知症サポーター」に認定される。


 導入後、イトーヨーカドーの店舗ではどのような変化があったのか。広報担当者に、具体的な取り組みを聞いた。


●従業員の不安軽減図る


 イトーヨーカ堂では、認知症が疑われる来店客への対応に、従業員が苦慮する事例が多くあったという。例えば、軽度の症状を持つ人の場合は「小銭の計算ができず、お会計が進まない」「急に出口が分からなくなる」といったケースが見られた。


 こうした困りごとは当事者にとっても外出意欲の喪失、ひいては症状の進行につながりかねない。そこで同社は、「認知症に関する正しい知識を得てもらうことで、従業員の不安を払拭し、来店客に適切な応対を行う」という目的から、認知症サポーター養成講座を導入した。


 同社では、自治体が設置する「地域包括支援センター」(高齢者向けの総合相談窓口)と連携して講座を開催。これまでに全従業員の6割に相当する、1万9000人が受講した。


 実施にあたっては、支援センターが用意する「小売業者向け」の教材を使用。受講者は認知症の症状や行動の特性、またこれらに合わせた接客の仕方について、座学・ビデオ研修・質疑応答を通して学ぶ。


●当事者に「利用しづらさ」を聞く


 従業員が講座を受講することで、ヨーカ堂ではどのような効果が得られたのか。


 参加した従業員からは「声のかけ方や接する際の態度を教えてもらったことで、安心して接客ができるようになった」との声が上がっているという。また、「家族の介護でも参考になった」という声があるとのことで、従業員の私生活へのサポートにもつながっているようだ。


 店舗にとっても「地域との連携が深まっている」と担当者は話す。地域包括支援センターと連携する背景には、「困りごとが起きたときの相談」など、センターと日常的に協力できる関係を築く狙いもあるという。


 同講座から派生して生まれた取り組みもある。


 イトーヨーカドー八王子店(東京都八王子市)では、市内の認知症当事者に買い物のデモンストレーションを行ってもらう「練り歩き隊」の取り組みを2022年に実施。デモンストレーション後は、買い物する上で不便な点を当事者からヒアリングし、分かりにくい店内表示などを改めた。


 桂台店(横浜市)では市や自治会などと連携し、「スローショッピング」の取り組みを月に1回のペースで実施している。これは、バスによる送迎やボランティアの介助などによって、高齢者が自分のペースで買い物できるようにサポートする活動だ。「高齢者が楽しみながら買い物を自分で行うことで、自信や役割を取り戻すことを目標としている」と広報担当者は説明する。


 実施にあたっては従業員からも「高齢者向けのフロアマップを作ってみては」「消耗品・日常品を見やすい位置に置いてみては」といった意見が寄せられたという。このように、「認知症サポーター」養成の取り組みが生かされているようだ。


 日常的に高齢者に接する機会が多い総合スーパーや金融機関では、認知症サポーター養成講座を取り入れるケースが増えており、イオンや平和堂も導入している。


 イオンは同講座のほか、サービス業向けの資格「サービス介助士」の取得促進も進めている。店舗作りにおいても多様な利用客を意識しており、イオンレイクタウン(埼玉県越谷市)では、大型の見やすい誘導サインや、高齢者などが優先的に利用できるベンチなどを整備している。


 いずれもCSR(企業の社会的責任)を意識しての取り組みだ。しかし、受け入れ態勢の整備によって、高齢者の「外出控え」による機会損失が低減されれば、企業側のメリットも少なくないだろう。高齢化が進む中、こうした取り組みの重要性は増してきている。



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