錦織圭「おじさんは、がんばっています」 後輩から「神」とあがめられる35歳の日本代表愛

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2025年02月02日 18:20  webスポルティーバ

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「神が降臨するんで......」

 自身の試合を快勝で終えた西岡良仁は、コート上でそう言うと、「めちゃめちゃ応援してください!」と二度叫んだ。

 テニス国別対抗戦「デビスカップ」(以下:デ杯)の日本対イギリス戦。日本の1勝2敗という背水の陣で挑んだ西岡は、英国のシングルス1〜ジェイコブ・ファーンリーを接戦ながらストレートで破り、最終決戦のステージを整えた。

 その舞台に降臨する「神」とは、錦織圭──。西岡の叫びには、前日のシングルスで敗れた錦織を、観客の力も借り是が非でも後押ししたいという、切なる願いが込められているようでもあった。

 デ杯は2日間(1月31日・2月1日)で行なわれ、両国のシングルス2選手が相手を入れ替えて対戦。そこにダブルス1試合を加えた最大5試合のうち、3勝したチームの勝利となる。

 その初日にファーンリーに敗れた錦織は、「ここ半年で一番、悪かった」と感じた自身のプレーに、深い落胆を覚えていた。

「自分のテニスが戻ってきたと思っていたのに、まだこういうプレーが出るのかと。自分への......劣等感というか、マイナスな部分がすごく大きかった」

 デ杯の全日程を終えたあとに、錦織が明かした。

 そしてその錦織の落ち込みを、当然ながらチームメイトたちは察していただろう。とりわけ、錦織不在の間、エースとして日本代表を支えてきた西岡は、錦織が背負う重圧も含めて共感できていたはずだ。

 デ杯は、選手たちが主戦場とするATPツアーとは主催団体が異なり、ゆえにフォーマットも切り離されている。勝ってもランキングポイントは得られず、スケジュール的にもツアーとの連動性は低い。現に錦織も西岡も、2月3日に米国テキサス州ダラスで行なわれるツアー大会参戦を予定しており、その意味でもデ杯出場の負担は大きい。

 それでも今回、日本代表の一員に名を連ねた理由を、錦織はこう語った。

「たぶん普通だったら、僕もデ杯に出てないと思います。自分自身がランキングを上げないといけないことと、ケガが出やすい自分の体を考えた時に、あんまり無茶はしたくないところではあります。

 でも、やっぱりみんなの熱い思いと、デ杯で2連覇するイタリアの強さを見た時、日本も強さを見せられたらという思いから、日本をどうにかしてワールドグループに戻したいという気持ちが、去年から徐々に高くなってきました」

【錦織が最終決戦で意識して臨んだこと】

 現在のデ杯は、上位8カ国が一会場に集い頂点を競う「ワールドカップ方式」を採用している。日本は今回の英国戦に勝てば9月の予選決勝に勝ち進むことができ、そこで勝てば前述した8カ国による「ファイナル」への出場権を得られる。

 今の日本はメンバー的にも状況的にも、そのステージに立てる可能性が高い。だからこそ、現在29歳の西岡も、あるいは26歳で今回のデ杯ではダブルスで出場した綿貫陽介も、「このチームでファイナルに出たい」と熱く語った。

 そのふたりの想いを知る錦織は、「西岡選手と綿貫選手の気持ちの強さに勝てるかわかんないですけど」と謙遜しつつも、ファイナルへの想いを「めちゃめちゃあります」と言った。

 今回のデ杯初日に「ここ半年で一番悪い」プレーに終始した理由も、おそらくはこの強い思いにある。

「自分の緊張と焦りと、相手のよさとが重なった。相手のプレーが前回対戦した時より全然よかったので、自分から攻めなくてはと焦り、悪循環になった。ナンバー2とはいえ、デ杯で代表を背負うことも重荷になっていたのかな」

 初戦の敗戦を、錦織が振り返った。そしてデ杯の難しいところは、ふだんのツアーなら敗戦から次の試合まで日が開くのに対し、翌日には試合があるところ。

「いろいろ考えましたね。これくらい悪い試合で負けて、また翌日試合をするので、どうにか自信をつけて......」

 その葛藤の末に、錦織は「焦らず、チャンスが来たら攻める」こと、そして「サーブで腕を振り抜くこと」を意識し、試合に入ったという。結果、ビリー・ハリス戦での錦織は、自身のファーストサービスでは83%でポイントを獲得。ラリー戦でも緩急自在にコースを打ち分け、相手を動かし、機を見てトリガーを引くように強打を叩き込んだ。

 コート外に追い出されながらも、ポールを回り込むように弧を描くショットで、ライン際をえぐるスーパープレーも披露。相手にブレークを与えず、自身は3度ブレークし、1時間13分の快勝で幕を閉じた。

【錦織が恥ずかしそうに放った言葉】

 勝利の瞬間、安堵の笑みをこぼし控え目に喜ぶ錦織に、弾かれるように飛びついたのは西岡だった。15歳で米国IMGアカデミーに留学し、錦織と練習してもらう機会も多かったという西岡は、英国戦シングルスで2勝をあげた日本勝利の最大の功労者だ。

 今回、出場の機会はなかった内山靖崇は、緊急招集に応じ欧州遠征を切り上げて駆けつけた。

「来るかどうか悩んだけれど、やはり添田(豪)くんが監督なのも大きいし、圭くんがメンバーに入っていることも自分にとって、参加する非常に大きな要因になった」と内山は言う。

 ダブルス要員として代表に初選出された柚木武は、大学を経てプロとなった26歳。196cmの巨躯から打ち下ろす時速220キロ超えのサーブは、英国の元世界1位ペア相手にも猛威を振るった。結果は6-7、6-7の惜敗ではあるが、ダブルススペシャリストとしての可能性を大いに示した。

 そんな柚木を錦織も、「今回初めて濃密な時間を過ごした」うえで「将来性がある」と評する。何より西岡については、「どう考えても今回は、西岡君の2勝が大きかった」と手放しで称賛した。

「昨日、僕が吹っ飛ばされたファーンリーにしっかり勝ってくれた。相手によってプレーを変えられる頭のよさも見られた。チーム全体もそうですし、西岡選手への信頼度もすごく上がったなと」

 後輩たちの成長を頼もしく見守る錦織は、「自分の立ち位置として、一番経験もあって、年齢も上。けっこう、みんな年齢下なので」と言うと、少し間を開け、恥ずかしそうに笑いながら続けた。

「そこに溶け込めるように、おじさんは、がんばっています」......と。

 後輩からは親しみも込めて「神」とあがめられる、自称「おじさん」----。35歳を迎え、なお成長を求めて葛藤もする彼は、年齢とともに深まる仲間への愛着を自覚しながら、強い日本代表を示すべくコートに立つ。

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