最近、「自分はフリーランサーだ」と伝えると、「いいね」と言われることが多くなった。その理由を聞くと「自由そうだ」「会社員より稼いでいそう」「好きなことを仕事にできていてうらやましい」という内容だった。
しかし、当のフリーランスからすると、必ずしもいい面ばかりではない。フリーランスにはフリーランスの悩みがあるのだ。
そんなフリーランスたちの本音を集めた110本の投稿の中から、厳選した65本を紹介する「フリーランスはつらいよ」展示会が2月1日〜2日に「MIL 2ND」(東京都渋谷区)で開催された。
PFUが手掛ける本イベントに、当事者たる筆者が足を運んだ。その展示内容や本展示会の狙いをレポートする。
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●フリーランスって、つらい?
JR山手線の原宿駅と東京メトロ表参道駅の中間付近、キャットストリートを北へ少し歩けば展示会会場のMIL 2NDが現れる。入口付近には「フリーランスはつらいよ」の看板を掲げたPFU社員が立っていた。聞けば彼も展示物の“1つ”だと言う。
何でPFUがフリーランス? と思う人もいるかと思うが、同社はドキュメントスキャナ「ScanSnap」シリーズをフックに、フリーランスや個人事業主を支援してきた。
会場に展示されているのは、フリーランスから集めた“本音”に、PFU社員や家族が全力でそれを再現した写真という組み合わせのパネル、本音から連想される“モノ”、そして「レンタルなんもしない人」だ。
ここでは、展示物の中から「そうそう、これなのよ」と力を込めて共感したものをいくつか紹介していきたい。
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「難しい仕事が来たとき、ついつい現実逃避してしまう」
受けた仕事はどれも“やらなければならない”ものである。そして、難しいものほど時間がかかる。分かっちゃいるけど、考えれば考えるほどパニックになる。
そして、現実逃避をしてしまう。
「テスト勉強をしないといけないのに、部屋の掃除を始めてしまう」「掃除しないといけないのに、いつの間にか読書していた」などは、筆者が学生時代から成長していないなと感じる瞬間だ。
「独り言は増えるが、人との会話は減る。」
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普段、話せる人が周囲にいないことから、心の声がダダ漏れになってしまうのもフリーランスあるあるだ。「あああ、カメラどこだっけ」「コーヒーいれていたのに、飲み忘れていたー」など、誰もいないのに口から言葉が出てきてしまう。
そのくせ、家族が帰宅すると無口になってしまうというのは、筆者だけではないはずだ。
「依頼があるのに仕事を受けられない。家事が進まない。自分の分身がほしい。」
どういうわけか、おもしろそうな仕事の時期というのは重なるものである。「あのイベントに行きたい」「こっちの発表会も取材したい」と思っても、同時刻に開催されてしまっては行くことができない。開催時間と開催場所が近く、物理的に行けたとしても、今度は原稿を書く時間がない。
フリーランスのライター職あるあるかもしれないが、イラストレーターやプログラマーであっても、おもしろそうな案件が重なるということはあるだろう。分身が欲しいというのはあるあるなのだ。自分より優秀な分身ならなお良い。
「契約がいつ切られるかビクビクしてしまうこと。」
会社員であれば、直すべきところを上司が注意してくれる。会社は人材を育てる役割も果たしているのだ。
しかし、フリーランスを会社が育てる義理はない。悪いところがあったり、それが改善されなければ切られるだけだ。「次の依頼はなんだろう?」というワクワクは、やがて絶望に変わる。その経験が増えれば増えるほど、ワクワクよりもビクビクが増える。
まさに、「フリーランスはつらいよ」なのだ。
「税務署の前を通り過ぎたとき。確定申告を思い出す。」
辺ぴなところに突如として現れる税務署の建物。特に、1月から3月の時期は、「センシティブ」な画像として認識したくないと感じることがある。
筆者の場合は、確定申告の時期だけでなく通りかかるたびに「申告の仕方を間違ってなかっただろうか」「正しく申告できていただろうか」「査察に入られたりしないだろうか」と、フリーランスを何年やっていても自信がないため、ついビクビクしてしまう。いつの日か、自信を持てるようになる日が来るのだろうか。
●フリーランスは“つよい”?
会場で壁が途切れたところから、フリーランスの語る本音の内容に変化が見られるようになる。よく見ると、パネルの下の文字が「フリーランスはつらいよ」から「フリーランスはつよいよ」に書き換えられているのだ。
ここからは、フリーランスになって良かったこと、「フリーランス、最強!」というフリーランスの本音が展示されている。こちらも紹介してみよう。
「労働基準法を無視して働ける。」
家事で中断されることはあるが、フリーランスになれば1日12時間でも16時間でも、20時間でも働ける。一般的な会社勤めではこうはいかない。もっと働きたいという欲求を満たせないのだ。
しかし、フリーランスに労働基準法は適用されない。働き放題だ。オールナイトで仕事を終わらせたときの達成感と爽快感と解放感――これを味わえるのがフリーランスの醍醐味といえよう。ただし、無理がたたると体を壊しかねないのでほどほどに。
「昼間の公園で自由に遊べる。」
全力で遊んでいる写真が、何ともいい味を出している。公園に限らず、1人遊園地、1人銭湯、1人カラオケなど、平日昼間に遊べるのがフリーランスの“つよい”ところだ。
「会社員では得られない対価の支払いが、どかっと入ったとき。」
ライターという職業で、このような経験をすることは稀(まれ)だろうし、筆者も今のところ未経験だ。とはいえ、完了した仕事に対して報酬をもらえるというのは、「フリーランスで良かった」と思える瞬間だ。
「推しのライブに基本行ける。」
収入面で安定してくると、行きたいライブのチケットを買えるようになるし、その日の予定をブロックできるようになる。平日昼間だから行けない、夕方の早い時間に開演するから周囲の目を気にしつつ早退する、といった必要がなく、思う存分に推しのライブを楽しめる。
●フリーランスになって良かった?
会場には、レンタルなんもしない人(以下、なんもしない人)が展示されていた。「なんもしない」ので受け答えもできないのかなと思っていたら、展示の一環として、応対は許可されているようだった。
「なんもしない」自分をレンタルするという、究極のフリーランスがなんもしない人だが、不安を感じることはないのだろうか。
「あんまりないですね」と、なんもしない人は語る。「将来のことをフワッと考えて、大丈夫かなと思うこともあるけれど、毎日楽しくやっているので、気が紛れていますね」と答えてくれた。
1案件、1万円という明朗会計が特徴的なサービスだが、1日の中で引き受けた最大案件数は7件だという。逆に、最も時間を要した案件は2泊3日というものもあり、1日の中での最長は17時間だという。「学生最後の思い出作りをしたい、という要望で、17時間レンタルされました」とのことだ。
フリーランスになって良かったと思った瞬間は「帰省時期をずらせたとき」だと言う。
「帰省シーズンって、どこも混み合う。会社員だったら休みをずらせないから、その混雑に寄与してしまう。でも、自分はずらすことができる立場にいる。少しでも緩和できるなら、その方がいいな、と思うのです」(なんもしない人)
会場には、フリーランス歴の長い人たちも訪れていた。その1人がフリーランス歴30年以上という、いしたにまさき氏(@masakiishitani)だ。
フリーランスの歴史が長いし、事業も立ち上げているし、クライアントをたくさん抱えているので、「つらいよ」という思いを持っていないのかと思いきや、やはり「来月のことは正直分からない」不安を持っているという。
「会社員なら、勤めている会社が来月どうなるか分かるけど、外にいる人間には分からない。そこは不安に思うし、収入が不安定という要素を自分も抱えている」と話してくれた。
とはいえ、「つよいよ」と思うこともあるという。「行きたいライブの日に、仕事の予定を入れないというのはフリーランスだからできること。会社員ではちょっと難しいでしょう」としつつ、「会社員でも、役員でも、フリーランスでも、どんな立場でも悪いところもあれば良いところもある。表裏一体なんですよ。それを勘違いしないようにしたいですね」(いしたに氏)
●1人でも独りではない
今回の展示会を開いた理由について、スタッフは「確定申告イベントを開催していく中で、フリーランスのみなさんが抱える孤独感に気付いたから」だと語る。「寂しい、回りが理解してくれない、誰にも話せないという悩みを抱えているけれど、その悩みが実は他の人にも共通している。1人だけのようでいて、実は同じ悩みを抱えている仲間がたくさんいるということを知ってもらいたかった」と説明してくれた。
「“つらいよ”という本音から、みんな同じものを抱えているという共感を得て、明日、頑張ろうという“つよいよ”に変えてもらいたい。フリーランスの人たちへのエールになれば良いですよね」と語ってくれた。
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