ソフトバンク孫社長が語るOpenAIとの提携 1億以上のタスクを自動化して“AIの大脳”になる

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2025年02月03日 21:51  ITmedia Mobile

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Cristalは企業が保有するソースコードや議事録などを「全部読む」(孫氏)。魔法の水晶玉のように戦略を示してくれるAIエージェントとなるという

 ソフトバンクグループとOpenAIは2月3日、新たに合弁会社「SB OpenAI Japan」を設立し、企業向けにAIエージェントサービス「Cristal Intelligence(クリスタル・インテリジェンス)」を共同開発すると発表した。


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 既に両社は、米国で総投資額5000億ドル規模の大規模AIインフラ構築プロジェクト「Stargate」を進めており、今回の日本企業向けエージェント開発は、その成果を国内企業にも本格提供する狙いがある。ソフトバンクは「企業内の1億以上のタスクを自動化する」という壮大なビジョンを掲げ、ソフトバンク・PayPay・LINEヤフー、ZOZOなどグループ企業への導入を皮切りに、大企業の業務改革を推進する計画だ。


 ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長執行役員の孫正義氏はイベントで「AGI(汎用人工知能)は想定を超えるスピードで到来しつつある。大量のデータと投資が可能な大企業から実現していく」と指摘。Cristalは企業内の膨大なシステムやソースコード、会議記録、顧客対応履歴などを一括で学習し、24時間365日稼働する“AIの大脳”になると説明した。


 特徴は「自発的にタスクを実行するエージェント化」であり、コールセンター対応やシステム改修など多様な業務を自律的に行えるという。孫氏は「まずソフトバンクグループ全体で導入し、AGIの初期形態を日本から具体化する」と意欲を示し、年間4500億円(約30億ドル)を投じる考えを明らかにした


●サム・アルトマンの展望「AIエージェントの時代へ」


 東京で開催されたイベントに登壇したOpenAIのサム・アルトマンCEOは、AIの進化を段階的に捉えていると述べた。「私たちはAIを5段階のシステムとして位置付けており、チャットbotから始まって2024年に“思考して応答する”モデル(OpenAI o1)を発表した。そして先週はコード生成モデルへさらに一歩前進した」とo3-mini-highの発表について解説し、「推論能力を獲得したモデルは、複数ステップを踏んで動ける“AIエージェント”への道を切り開く」と指摘する。


 アルトマン氏は「AIエージェントとは、ユーザーに代わって独立して作業し、周囲を観察し、意思決定して行動する存在だ。複雑なタスクも思慮深く実行できる」と述べ、同日、新たにローンチした「Deep Research」を披露した。


 Webやテキスト、画像、PDFなどを幅広く調査し、レポートを自動で作成できるサービスであり、「30分かかる作業から30日かかる作業まで対応できる」と強調している。


 さらにアルトマン氏は「GPT-3からGPT-4に至る進化がわずか数年という事実が示すように、人間が線形的に捉えがちな変化はAIでは指数関数的に進む」と述べ、必要となる計算パワーは膨大でも、十分にリターンが見込めるという見解を示した。孫氏も「インターネット黎明(れいめい)期の帯域需要のように、結局はもっと必要になる」と同意し、大規模モデルへの投資が将来を左右すると強調した。


 アルトマン氏のプレゼン後、OpenAIスタッフがDeep Researchの活用例を示すデモンストレーションを行い、営業戦略やマーケティング分析などの多様な業務タスクを自律的に処理できる可能性を示した。問い合わせフォームから営業担当への情報連携まで、エージェントが自動でこなす様子を披露し、人手依存だった業務の大幅な効率化が期待できるとアピールした。


●ソフトバンクグループでの実装


 ソフトバンクグループは合弁会社「SB OpenAI Japan」に出資し、自社の通信事業やPayPay、LINEヤフー、ZOZOなどを対象にCristalをフルスケールで導入する。孫氏によれば、開発費と運用費を合わせて年間4500億円(約30億ドル)を投じる計画だ。ただし、これはソフトバンク自身が最初の大規模事例を作るためのインフラ構築の費用を含めた投資であり、他社が導入できるようになった場合、同規模のコストを負担するわけではない。


 Cristalは、長年蓄積されてきた基幹システムのソースコードを一括で読み込み、最新のプログラミング言語への置き換えやバグ修正などを自動化する。また、営業やマーケティング領域では顧客データを学習して提案資料を生成し、コールセンターや社内会議ではリアルタイムに顧客応対や議事録作成をこなすものとなるという。


 孫氏は「Cristalを導入した企業としない企業では“マシンガンとオノ”ほどの差になる」とまで言及し、電気や自動車の有無で生産性が劇的に変化した歴史を引き合いに出しながら、AIエージェントを深く統合した企業が圧倒的な競争優位を築くと力説する。「まずソフトバンクグループで大規模導入し、効果を示すことで他企業も安心して導入しやすくなる」と述べている。


●他企業への展開は「業種で1社ずつ」


 孫氏は「いきなり50社・100社を同時に導入するのは難しい。エンジニアリソースにも限りがあるので、まずは1業種で1社ずつ段階的に導入していく」と話した。大企業固有のシステムやデータ構造をCristalに最適化するには時間がかかるため、初期は少数の企業に絞ってノウハウを蓄積し、それを横展開していく戦略を取る。


 SB OpenAI Japanは各社専用のファインチューニングを行い、企業の機密データが他社へ流出しない仕組みを提供する。孫氏は「1億以上のタスク自動化を本格化させる上で、最初の事例が成功すれば導入の波は一気に広がる」と強調し、AGI時代への布石となる企業向けAIの整備を急ぐ考えを示した。


●AGIへの足掛かりとしてCristalを“企業の頭脳”に


 両社が立ち上げたSB OpenAI Japanは、日本の大企業を中心にCristal導入を支援し、AIエージェント時代を切り開こうとしている。孫正義氏は「30年前のソースコードでもCristalが全部読み込み、24時間365日休まず働く。導入しない企業とは大きな差がつく」と意気込みを語り、サム・アルトマン氏も「2025年はエージェントの年」と述べている。


 また孫氏は「AIが音声や映像から感情を読み取り、長期的に記憶する技術を特許出願している」とも言及。怒りや喜びなど複数の感情を数値化して蓄積すれば、ネゴシエーションやサービス対応でも“人間的な文脈”をより深く理解するエージェントが可能になると展望する。


 「1億以上のタスクを自動化する」というビジョンがどこまで実現されるかは未知数だが、ソフトバンクとOpenAIがタッグを組むことで、指数関数的に進化するAIをいち早く企業現場へ落とし込む大きな一歩になりそうだ。実際に企業がCristalを“頭脳”として活用し、AGIの初期形態を生み出していくのか、まずはソフトバンクグループの取り組みがどう進むかですう勢を決していく。孫氏が「インターネット黎明期を思わせる」と表現したように、この技術革新が企業の在り方を根本から変える転換点となる可能性もあるだろう。



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