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節分の日にあたった2月2日、スーパーなどで大量の「恵方巻」が売れ残る光景がみられ、SNS上では
<コレ全部廃棄処分?>
<半額シールついて在庫処分>
<半額になってるのにすごく残ってる>
<本当にもったいないし、悲しくなった>
<夜6時過ぎの時点。とても売り切れる量ではありません>
<¥1780の海鮮恵方巻きがまさかの¥298に>
といった声が相次いでいる。なぜ小売店は大量の売れ残りや大幅値引き販売のリスクがあるにもかかわらず、恵方巻の大量販売をするのか。また、廃棄コストや値引き販売によって利益より損失が大きくなる可能性はないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
七福神にちなんで7種の具材を巻く恵方巻は、江戸〜明治時代に大阪の商人が商売繁盛を祈る習慣として始まったとされる(諸説あり)。全国的に商品として販売されるきっかけとなったのは、1998年にコンビニチェーン「セブン-イレブン」が全国で販売を開始したことだといわれている。セブン&アイ・ホールディングスは2017年1月掲載の当サイト記事の取材に対し次のように明かしていた。
「広島県の店舗のオーナーさんが、節分に太巻きを食べるという関西の風習に目につけ、89年に広島県の一部店舗から販売を開始しました。翌年から、順次販売エリアを拡大し、98年に全国で販売を開始しました」
2010年代に入ると節分シーズンに小売店で恵方巻を取り扱う動きが広がり、元来の7種の具材を巻く形態ではない多種多彩な商品やスイーツが登場。販売競争が過熱する一方で売れ残りによる大量廃棄が問題視され、事態を重く見た農林水産省が19年1月に日本スーパーマーケット協会や日本フランチャイズチェーン協会などに対し、需要に見合った販売をして廃棄量を削減するよう呼びかける事態に発展した。同年には食品ロス削減推進法が施行され、ここ数年は毎年、この季節になると恵方巻の大量販売・廃棄が議論を呼ぶこととなっている。
帝国データバンクの発表によれば、今年の一般的な五目・七目の恵方巻の平均価格は1094円(税込み)で、前年比14.2%の上昇。高級志向の海鮮恵方巻は平均1944円で、同12.4%の上昇。例として、GMSのライフで販売されていた商品は以下のとおり(予約販売品含む)。
・北海道産帆立入り海鮮太巻(1706.4円)
・伊勢黒潮真鯛入り贅沢海鮮太巻(2354.4円)
・まぐろたっぷり太巻(本鮪入り)(1598.4円)
・生サーモン入りサラダ太巻(1382.4円)
・七福開運巻(753.84円)
・極太玉子の恵方巻(1058.4円)
・牛焼肉巻(861.84円)
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そんな恵方巻だが、2日夕方頃からSNS上では、スーパーなどで恵方巻が大量に売れ残っており、半額やそれ以下の価格に値下げされているという報告が相次いだ。なぜ小売店は大量の売れ残りが発生する懸念があるにもかかわらず、大量の恵方巻を販売するのか。元ローソン・バイヤーで消費経済アナリストの渡辺広明氏はいう。
「初売りがある1月、新商品発売シーズンの3月に挟まれる2月は、スーパーにとっては売上が伸びにくい厳しい月でして、かつては一定の盛り上がりをみせていた2月のバレンタイン商戦は義理チョコの減少と高級志向により顧客が百貨店や専門店に流れたことで、スーパーでは盛り上がらなくなりました。そうしたなかで、集客のために人工的な催事として恵方巻に力を入れざるを得ないという面が強いと感じます。
今年の小売りの現場を観察していて感じたのは、これまで以上に恵方巻の販売に力を入れるところが増え、在庫の過剰感が強くなったという点です。コンビニエンスストアや百貨店などスーパー以外での販売分も含めると、総本数は日本人で食べたい人の数を大幅に超えている可能性もあるのではないかと感じるほどです。一定の廃棄コストが見込まれるのに加えて食品廃棄が社会的によくないとされる問題があるにせよ、小売店は事業を継続させていくためには売上と利益をあげる必要があるため、リスクを覚悟の上で参入するところが増えているのが実情です。
今年の特徴のもう一つは、消費の二極化に伴い低価格のものと高価格のものが差別化されて並んでいたという点です。小売店側も利益を確保したいという意図からか、1000円以上の高価格帯の商品を数多く投入しており、昨年と比べて全体的に金額が上がった印象を受けましたが、高価格帯の商品が多く売れ残っている光景もみられました。顧客から『さすがに高すぎて手が出せない』と受け止められた可能性があります。実際に約300円のものと約1000円のものを食べ比べてみましたが、味やクオリティに3倍の差があるかといわれれば、そこまで大きな差は感じられませんでした。
小売店各社は昨年までの恵方巻の販売動向を分析して価格と数量を決めるものの、前述のとおり今年は小売業界全体でみれば過剰感があったように思われ、来年以降の恵方巻商戦は落ち着いていくかもしれません」
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では、廃棄コストや値引き販売によって利益より損失が大きくなる可能性はないのか。
「大雑把な計算として、スーパー一店舗あたりの利益率が35〜50%だと仮定すると、半額に値引くと商品単体では赤字になる場合もあると推察され、さらに廃棄コストが加われば恵方巻という商品全体でみると利益が出ないという結果になる可能性はあります。その一方、恵方巻を目当てに多くのお客さんが来店して他の商品の売上が伸びるという効果も考えられ、店舗全体でみれば利益の伸長につながるというケースもあり得るでしょう」(渡辺氏)
(文=Business Journal編集部、協力=渡辺広明/消費経済アナリスト)
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