守備位置をコンバートする理由のひとつに「打撃向上」が挙げられるが、うまくいかない場合も多々ある。長らく大洋(現DeNA)の中心選手として活躍し、セカンドからサード、サードからファーストへのコンバート経験を持つ高木豊氏に、昨季にコンバートしたものの打撃向上につながらなかった選手について語ってもらった。
【セカンドからサードへのコンバートの難しさ】
――守備の負担を減らして打撃に専念するといった目的で、楽天の浅村栄斗選手やロッテの中村奨吾選手がともにセカンドからサードへコンバートされましたが、両選手ともに打撃は向上しませんでした(浅村は打率.253、中村は打率.234)。要因として考えられることは?
高木豊(以下:高木) セカンドは守備範囲の広さが要求されますが、首脳陣や本人が動きにキレを感じなくなり、コンバートを考えたと思うんです。
ただ、サードって意外と"力"がいるんですよ。打球を止める力や、ファーストへの距離が遠いですから投げる力も必要。僕もセカンドからサードへコンバートされた経験があるからわかるのですが、セカンドはファーストに近いこともあって、投げることに関しては手を抜いてしまいがちです。だから、セカンドからサードに移ると、ファーストまでの距離がすごく遠く感じるんです。
――さばく打球の角度も違いますね。
高木 そうなんです。浅村はショート出身なので、「角度がほとんど同じサードもできるのでは?」という見方もあったと思いますが、セカンドを守っている時期が長かったのでセカンドの動きが体に染みついていたはずです。それは中村も同じでしょう。セカンドからサードに移ると、"左目で野球をやっていたのが右目になる"ような感覚なんです。
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野球において距離感や角度は重要です。なので、セカンドの時にあまり必要なかった瞬発力などがサードにいった時に補えなくなるんです。ショートからサードへのコンバートは飛んでくる打球の角度がほとんど変わりませんし、投げる距離もショートのほうが長いのでそれほど苦にはなりません。セカンドからサードへのコンバートを簡単に考えている人もいますが、彼らは難しかったと思いますよ。
――当初は打撃に専念するためのコンバートだったはずが、守備の負担は軽くならなかったということでしょうか?
高木 負担が軽くなった感覚はなかったんじゃないですかね。守備範囲は狭くなり、ボールに関与する回数はセカンドより減ったと思いますが、しんどさはあったと思います。そういった精神的な負担が、打撃面でスランプに陥った要因のひとつなんじゃないかなと。
【浅村、中村も今季は再びコンバート】
――浅村選手は今季、ファーストにコンバートされますね。
高木 僕もサードからファーストに行きましたけど、守備の負担は軽くなりました。ボールを扱う回数はすごく増えましたが、守備だけを考えるとめちゃくちゃラクでしたね。
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――そうなると、浅村選手の打撃は上向きそうですか?
高木 僕は上向くと思います。
―― 一方の中村選手は今季、一昨年まで守っていたセカンドで勝負する意向のようです。
高木 藤岡裕大らとの競争になりますが、今の力関係からいくとレギュラーは藤岡でしょう。藤岡を休ませるための枠となるのか、もう一度勝負して取り返すのか。いずれにせよ、サードへのコンバートの思惑が外れたわけで、セカンドへ戻ろうとしてもそう簡単にはいかないはずです。バッティングは藤岡のほうが頼りになりますしね。
中村は、少し前まではセカンドでなかなかいい動きをしていましたが、昨季のサードの守備を見ていると、打球に対しての反応が少し悪くなった印象です。でも、まだ32歳。やり直すならまだ間に合うとは思いますが、首脳陣がそこをどう考えているかです。
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――以前、高木さんは中村選手のファースト案も話していましたね。
高木 ただ、今はネフタリ・ソトがいるので難しいです。それも踏まえると、中村は代打か守備固めということになるのかなと。それか、藤岡やソトを休ませたい時にセカンドやファーストで使うとか、ピッチャーでいうローテーションの谷間で使われるような立ち位置になるんじゃないかと思います。攻守で相当に奮起できたら、話は変わりますけどね。
【西武・外崎のセカンドからサードへのコンバートは大丈夫?】
――巨人の坂本勇人選手も、昨季から本格的にサードへとコンバートされることになりましたが、打球の角度があまり変わらないショートからのコンバートなので守備の負担は少なかったのでしょうか。
高木 スローイングも問題なかったですね。サードは、少しトリッキーな投げ方をしなければいけないケースもあるのですが、器用にこなしていました。かつて、ヤクルトの宮本慎也がショートからサードへ行った時のように違和感が少なかったですね。ただ、セカンドからショートやサードへのコンバートはやはり難しいです。
――今季、西武の西口文也新監督は、セカンドの外崎修汰選手のサードへのコンバートを明言しています。
高木 外崎は外野を守っていたこともありますし、"セカンドの選手"とは思っていません。セカンドを守っていた時期も長いことは長いのですが、彼の場合はコンバートがそこまで影響する選手ではないと思いますし、サードのほうが精神的な負担は減るんじゃないですかね。浅村が西武にいてセカンドを守っていた頃はサードにも入っていたし、(2019年の)プレミア12では侍ジャパンでサードも守っていましたから、ユーティリティープレーヤーという印象です。
――打撃不振に陥る心配はなさそうですか?
高木 むしろ、セカンドの守備の負担が大きいから打率が悪いのかもしれません。あとは、外崎の体がどれだけ元気なのかということ。今年で33歳ですが、体がヘタってしまうとサードは厳しいです。ただ、今の西武の打線は苦しいですし、外崎の打棒復活に頼る部分は小さくないでしょうから、コンバートがいい機会になればいいですね。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。