「ノンアル=お酒の代替品」から脱却へ サントリー、50億円投資の本気度

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2025年02月06日 13:41  ITmedia ビジネスオンライン

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サントリー、ノンアル拡大に本腰(戦略説明会にて編集部撮影)

 サントリーがノンアルコール飲料(以下、ノンアル)の拡大に本腰を入れる。2月5日に開催した戦略説明会において、鳥井信宏社長は「ノンアルはお酒の代替品や清涼飲料の類似品ではない」と話した。


【画像】サントリーのノンアル商品


 ノンアル市場は年々拡大している。同社の推計によると、2024年の市場規模は1055億円となり、2023年比で111%、2019年比で135%となった。昨年における、サントリーのノンアル出荷数は4500万ケースを突破し、過去最高を記録した。


 一方、酒類の市場規模は約3.2兆円、飲料の市場規模は約5.3兆円とはるかに巨大だ。酒類と飲料の市場規模の合計と比較すると、ノンアルの市場規模(1055億円)は約1%しかない。福本匡志氏(ビール・RTD本部 ノンアル部長)は、ノンアルの市場規模を、2030年には最低でも1400億円、将来的には酒類・飲料市場の1割となる8000億円程度まで成長させたい考えだ。


 サントリー単体では、2030年にノンアルコール飲料で700億円を売り上げることを目標に掲げる。そのために同社は、今年1月にノンアル専門部署として「ノンアル部」を新設した。これまでは、ビール本部、スピリッツ本部、ワイン本部にそれぞれノンアル担当を置いていた。これらを集約し、商品開発を行う。また、ノンアルのマーケティング活動に、前年の約1.3倍となる約50億円を投資する。


●ブランドポートフォリオを再構築


 ノンアルコール飲料は、飲酒運転が社会問題化した際の解決策として注目を集めた。その後、コロナ禍で加速した健康意識の高まりを受け、お酒を我慢するときの代替品として普及した。福本氏は「ノンアル=我慢するときの飲み物、というネガティブなイメージから脱却し、新しいポジティブな存在意義が必要だ」と説明。ノンアルを我慢する時の飲み物から、「ノンアルを飲みたいから飲む」というように積極的に選ばれる飲み物へとイメージを変える取り組みを進めていく。


 まず着手するのは、ブランドポートフォリオの再構築だ。これまでは、ビールテイスト、RTDテイスト、ワインテイストというように味わいでブランドを分けていた。今後は、消費者がノンアルに求めるニーズごとに分類するという。


 消費者がノンアルに求めるニーズについて、福本氏は「『リフレッシュ』『楽しく健康を気遣いたいという健康機能』『お酒の楽しい気分を味わえる』という3つに大分できる」と説明する。例えば、リフレッシュのカテゴリーには「オールフリー」や「のんある気分」が該当し、今後は3つのニーズに合わせて商品をカテゴライズする。


 また、飲食店向けの業務用商品にも注力する。これまで飲食店向けとしてはオールフリーが主力商品だったが、今秋に新商品を発売予定だ。商品の詳細は非公開だが、オレンジジュースやコーラといった、さまざまな清涼飲料水と割って飲む、ベースとなるノンアルを想定している。


 ビールテイストやハイボールテイストといった既存の酒類をノンアルで再現する商品ではなく、ベースとなるノンアルに注力するのはなぜか。福本氏は「割材によって多彩なメニュー展開が可能になる。消費者は選ぶ楽しみ、飲食店はノンアルメニューが拡充できるといった利点がある」と説明する。


 その他、プロモーション施策にも力を入れる方針だ。大阪・関西万博を始め、音楽フェスや屋外イベントでノンアルコール飲料を販売する他、100万人規模のサンプリングを実施する予定だ。「まずはとりあえず1杯飲んでみてもらい、ノンアルコール飲料のおいしさや魅力を知っていただく必要がある」(福本氏)


●ノンアル、課題は身内にあり


 サントリーが展開するノンアルの看板商品である「オールフリー」からは、4月にサワーテイストの新商品「オールフリー クリア」を発売する。ビールテイストのイメージが強いオールフリーからRTDのような商品を発売する理由について、福本氏は「オールフリーのブランド力を、ビールテイスト商品だけにとどめておくのはもったいないと判断した」と説明する。


 「のんある酒場」「ワインの休日」も強化する。両商品は、お酒をつくってからアルコール分を取り除く、脱アルコール製法を用いて製造されている。福本氏によると、脱アルコール製法であることを伝えると、消費者の購入意向が高まる傾向があるという。「適当に混ぜてつくっていると思っていたが、お酒からつくっていることで印象が変わった」「こだわってつくられている、高品質なノンアルだと分かった」などの意識変化が起こり、購入に前向きになるからだそうだ。そのため、今後は製法を積極的にアピールすることで、需要拡大を図る。


 鳥井社長はノンアルコール飲料について、「課題は身内にあった」と話した。サントリー社内ではかつて「ノンアル市場は、そもそもそこまで大きくなるのか」「ノンアルはお酒の代替品にすぎない」という意識が強かったという。


 しかし、市場規模の拡大や適性飲酒の広がりを受け、「ノンアル市場は今後も拡大していくし、業界全体としても拡大させなければならない市場であると改めて感じた」(鳥井社長)という。商品ラインアップの拡充だけでなく、ノンアルをいつどのような場面で飲むのかといった「飲み方」の訴求にも力を入れる。


 サントリーは「オールフリー」を2010年に発売し、ノンアル市場に本格参入した。15年目の今年、打ち出す施策は消費者の支持を得られるか。



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