日本とインドの競馬/島田明宏

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2025年02月06日 21:00  netkeiba

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▲作家の島田明宏さん
【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 先週の日曜日に行われたインドダービーは、C.ルメール騎手が参戦した(14着、騎乗馬サイキックスター)ことに加え、勝ったランケリーノの父が日本で活躍したフィエロだということでも話題になった。

 フィエロは社台ファーム生産のディープインパクト産駒で、競走馬時代、金子真人ホールディングスが所有し、藤原英昭調教師が管理した。重賞は勝てなかったが、2014、15年のマイルCSで2着、16年の安田記念で3着になるなど、マイル路線で存在感を見せた。

 インドで種牡馬となった日本馬として思い出されるのは、1956年に日本ダービーを制したハクチカラである。同馬は1958年に保田隆芳騎手(当時)とともにアメリカ西海岸に遠征した。これが日本馬による戦後初の海外遠征であった。

 保田氏は同年秋に帰国し、本場で習得したモンキー乗りで勝ち鞍を重ね、日本にも定着させた。ハクチカラはそのままアメリカに残り、遠征2年目の1959年にワシントンバースデーハンデキャップをR.ヨーク騎手の手綱で優勝。日本馬による海外重賞初制覇をなし遂げた。なお、サンタアニタパーク競馬場のメディアガイドなどのオフィシャルな記録の「トレーナー(調教師)」のところには「ロバート・L・ウィーラー」と記されているが、当時は形として転厩させなければ出走できなかったので、そうなっているだけだ。

 こうした原稿では「日本馬」を「日本調教馬」と記すこともあるのだが、管理者だった尾形藤吉の手元を離れて南カリフォルニアの厩舎で調教されながらレースに出ていた当時のハクチカラを「日本調教馬」と表現するのは、やはりちょっと抵抗がある。オーナーが西博氏のままだったことからも、ハクチカラに関しては「日本馬」とするのがいいような気がする。

 逆に、1998年にシーキングザパールがフランスのモーリスドゲスト賞を勝ち、「日本調教馬」による海外G1初制覇をなし遂げたことに関しては、シーキングザパールが外国産馬ということもあり、「日本馬」より「日本調教馬」のほうがいいだろう。

 話が逸れた。

 ハクチカラは帰国後、青森で種牡馬となったが、内国産種牡馬が軽視される時代の流れには勝てず、これといった産駒を残すことはできなかった。その後、1968年にインドに寄贈され、同地では複数のクラシックホースを送り出すなど成功した。

 インドと日本の競馬というと、忘れてはならないのは1981年の第1回ジャパンCに招待されたオウンオピニオンだ。「インドのシンザン」という触れ込みで、ジャパンCに先立つ11月8日、東京芝1800mのオープン競走に出走したが、最下位の7着。これが記録に残っている日本の近代競馬史上初の外国調教馬による出走である。なお、本番のジャパンCでは15頭立ての13着に終わった。

 2010年代からだろうか、北海道の馬産地でインド人の乗り手や厩務員が多くなり、門別競馬場などでも見かけることが珍しくなくなった。今や、日本の馬づくりに欠かせない存在になったと言える。史上初の無敗の牝馬三冠馬デアリングタクトの育成も、インド人の乗り手の技量によるところが大きかったと聞いた。

 インド人の優秀さ、勤勉さ、ネットワークの緻密さは、つとに知られている。これからも日本へ移住するインド人が増え、ロサンゼルスのリトルトーキョーのような「リトルデリー」とでもいうべき一帯が日高にできて、日本人との婚姻が進めば、2世代先、3世代先には、非常に大きなコミュニティーに成長している可能性があるのではないか。

 先週のインドダービーの1着賞金が1695万ルピーで、日本円にすると約3000万円というのは、かなりの規模だ。C.ルメール騎手のほか、O.マーフィー騎手、T.マーカンド騎手らも参戦したのだから、ワールドクラスに達している部分も多々あるのだろう。

 そんなインドのレースに、日本馬が参戦するのが先か。それとも、「インドのイクイノックス」などと呼ばれるスーパーホースが登場し、日本に遠征してくるのが先か。いずれにしても、日印の競馬界の結びつきは、今後、より深まっていくだろう。

 さて、これも馬産地の話題ということになるのか。元西武ライオンズの戸川大輔氏が自身のインスタグラムを更新し、1月にノーザンファームに入社したことを発表した。戸川氏の実家である戸川牧場はモーリスの生産者として知られている。将来は、史上初の元プロ野球選手の生産者となるのだろうか。どこかで会う機会があるかどうかわからないが、楽しみである。

 今週、家人が退院することになった。杖なしで帰宅することができそうだ。

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