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鎌田大地が苦しんでいる──。
2024年夏、オリバー・グラスナー監督に請われてラツィオからクリスタル・パレスにやって来た。フランクフルトに所属していた当時の師弟関係は、鎌田にとって追い風になるはずだった。
プレミアリーグにチャレンジして、まだ半年である。世界一の強度を誇るステージにフィットするまで、もう少し時間がかかるのかもしれない。体と体のぶつけ合いでバランスを崩し、ボールロストするケースも散見する。しかし、この問題に直面するのは、鎌田だけではない。
2003-04シーズン、アーセナルの無敗優勝に貢献したロベール・ピレスは、「プレミアリーグ仕様の肉体を作るまで、2年以上かかった」とこぼしていた。
今、リバプールの大エースとして活躍するモハメド・サラーも、「瞬発力を落とさずにプレミアリーグの強度に耐えうる筋力を身につけるには、トレーニングや食事、休養時間など、綿密なプログラムが必要だ」と語っている。
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鎌田はドイツとイタリアでプレーしてきたが、イングランドは異なる文化を持つ国だ。同じフットボールでも嗜好が違う。ダイレクトなスタイルを好むメディアも少なくなく、鎌田が意図的にスローダウンしても、「消極的」と評価されてしまう。質の高いフリーランや巧みなパスさばきで攻撃にリズムを生んでも、「決定的な仕事ができていない」と辛辣だ。
ビルドアップがつまって後方からやり直しを図った場合、プレミアリーグのスタジアムからは不満を示すブーイングも聞こえてくる。
「早くしろ」
「クロスを入れろ」
「とにかく前だ」
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バックパスはもちろん、小気味よいワンタッチパスの交換ですら、必ずしも歓迎されない。
24節現在、20試合出場で1ゴール0アシスト。失望がシーズン前の期待を上まわった。英国の情報サイト『Football365』は、クリスタル・パレスの前半戦ワースト選手に「Daichi Kamada」を挙げている。
【リーグ屈指の中盤センターになるには...】
鎌田は戸惑っているのだろう。自らが志向するスタイルと、クリスタル・パレスの戦略はマッチしていない。フランクフルトを率いていた当時よりも、グラスナー監督の采配は守備重視になっている。マンチェスター・シティ、リバプール、アーセナルといった世界的な強豪と渡り合い、勝ち点を得るためには現実的にならざるを得ない。
まして2024年の夏、大黒柱だったMFマイケル・オリーセがバイエルンに移籍した。今シーズンの目標は残留だ。グラスナー監督が守備的なプランを第一に置いているのは、至極当選の選択といえる。
鎌田にとってもうひとつのアンラッキーは、負傷者の続出で中盤センターに起用されるケースも少なくなかったことだ。中盤センターはプレー強度が高いポジションで、各チームとも屈強の戦士を"数名"擁している。
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プレミアリーグ仕様の肉体をまだ装備できていない鎌田が苦戦するのは当然だ。ファウルと思われる激しいチャージが流されたり、タックルでボールごと削られたり、華奢な鎌田には適していないポジションである。
いずれ完全武装すれば、鎌田がリーグ屈指の中盤センターと高く評価される日は訪れるかもしれない。初年度の2024-25シーズンはすべてが勉強で、厳しい評価も甘受する。その覚悟が来シーズン以降につながるはずだ。
リバプールのDFフィルジル・ファン・ダイク(2018年1月〜)、マンチェスター・ユナイテッドのMFブルーノ・フェルナンデス(2020年1月〜)のように即フィット、しかも冬の移籍ながら"秒速"で中核となった強者もいるが、FWフェルナンド・トーレス(2007年〜リバプール→チェルシー)やFWアレクシス・サンチェス(2014年〜アーセナル→マンチェスター・U)といったスター選手でさえ、本来のパフォーマンスを発揮できずにチームを追われている。
DFアンドリュー・ロバートソン(2014年〜ハル・シティ→リバプール)とMFベルナルド・シウバ(2017年〜マンチェスター・C)も、移籍当初は環境の変化に適応できなかった。そして、あのFWクリスティアーノ・ロナウドですら、スポルティングからマンチェスター・Uに移籍した2003-04シーズンは、ロイ・キーンやガリー・ネヴィル、ルート・ファン・ニステルローイに気持ちが折れるような強い言葉で叱責されていた。鎌田も焦る必要はない。
【周囲の見る目を変えるチャンス】
直近5試合は3勝1分1敗。クリスタル・パレスの調子は上向いてきた。3勝はすべてアウェーゲームで、勝ち点を30に伸ばし、順位も12位まで上がってきた。一時は降格圏に引きずり込まれそうだったが、10位のブライトンとは4ポイント差。残留のボーダーラインとなる勝ち点37は確実で、今シーズンのターゲットをトップ10に上方修正していいかもしれない。
鎌田も先発フル出場は1試合ながら、直近9試合すべてでピッチに立っている。2-0の勝利を収めたマンチェスター・U戦は「ただひとり及第点以下だった」との酷評はあったものの、ボールポゼッションが33.4%では鎌田のよさが失われる。
彼の適性はより攻撃的なポジション、中盤インサイドだ。クリスタル・パレスに当てはまれば、3-4-2-1の2列目。現状はエベレチ・エゼとイスマイラ・サールがファーストチョイスになっており、鎌田はアダム・ウォートンやウィル・ヒューズとともに3列目で守備的なタスクが多い。
だが、クリスタル・パレスの第一目標であるプレミアリーグ残留は、まもなく現実のものになる。グラスナー監督がプレッシャーから解き放たれ、より攻撃的な陣形にトライする可能性も否定できない。
日本のファン的な視線が許されるなら、エゼと鎌田の2列目が望ましい。28歳の日本代表MFは人を動かす術(すべ)に長けているので、彼のクサビが前線のジャン=フィリップ・マテタにピタリと入るはず。そして鎌田のスルーパスに呼応したエゼが相手DFラインの裏を取れば、クリスタル・パレスの攻撃はより華やかになるのではないだろうか。
現地時間2月10日開催予定のFAカップは、リーグ2(実質イングランド3部)のドンカスターと相まみえる。鎌田が実力をアピールする絶好のチャンスだ。
続くプレミアリーグのエバートン戦、フラム戦は実力が拮抗しており、鎌田の高度な戦術眼が試されてしかるべき。この2試合に勝利を収めて勝ち点36まで延ばせると、残留にいよいよリーチがかかる。
悔しい思いが続く今シーズンの鎌田だが、残り試合で残留のキーパーソンになれば、周囲の見る目は必ず変わる。酷評ばかりのメディアも手のひらを返す。
「鎌田のスルーパスによって、クリスタル・パレスは残留のチケットを得た」
目にもの見せてやれ!