「横浜奪取」―――。2025年のスローガンをそう掲げたDeNAが勝負の年を迎える。
昨季はリーグ戦71勝69敗3分の成績で貯金2つに留まったが、ポストシーズンで阪神、巨人、ソフトバンクを相手に“3連続下克上”を完遂。まさに破竹の勢いで26年ぶりの美酒に酔った。
今季は27年ぶりのリーグ制覇と2年連続日本一を狙うが、2年ぶりにチーム復帰を果たしたあの右腕が大きな役割を担ってくれるかもしれない。
先月下旬に契約合意に至ったトレバー・バウアーである。
バウアーといえば、レッズ時代の2020年にナ・リーグのサイヤング賞に輝いたメジャーでも指折りの投手。ただ、その後は女性へのDV疑惑などがあって、21年にドジャースで投げたのを最後にメジャーから事実上追放された形となっている。
出場停止処分を受けた22年は全休したが、23年春にDeNAと契約すると、登板数は19試合ながら、10勝4敗、防御率2.76をマークし、その実力を如何なく発揮した。
23年オフに自由契約となりメジャー復帰を目指したが叶わず、24年はメキシカンリーグのメキシコシティ・レッドデビルズと契約。当初は約1か月間だけプレーする予定だったが、結局シーズン終了まで契約を延長し、最後はエースとしてチームをメキシコチャンピオンに導いた。
ちなみにリーグ優勝決定戦で胴上げ投手となったのが元楽天の安楽智大。前年にDeNAと楽天でプレーしていた2人が遠く離れたメキシコの地で共闘していた。
そして、そのバウアーがメキシカンリーグで残した成績はまさに圧巻の一言だ。14試合に登板し、10勝0敗、防御率2.48というもの。同リーグはかつてメジャーリーグの3Aに位置付けられていたが、現在は2Aと3Aの間くらいという評価を受けている。日本のプロ野球と比べてもやや格が落ちるのが実情で、バウアーの実力をもってすれば当然の成績にも思える。
ただ、本拠地のメキシコシティ・イスタカルコという場所は標高が2242mという高地に位置し、とにかくボールがよく飛ぶ。マイルハイシティの愛称でもお馴染みロッキーズの本拠地デンバーよりもさらに高いところに位置するのだから当然だろう。
また、メキシコシティ以外にも標高1500m超を本拠地とするチームが少なくなく、当然ながらリーグは全体的に「打高投低」の傾向が強い。昨季のリーグ平均防御率5.16が何よりの証拠だろう。
そんな投手が圧倒的に不利な環境下で、バウアーは無双したことになる。とりわけ83回1/3を投げて許した本塁打は4本だけで、被本塁打率0.43は、DeNA時代の0.96から大幅に良化。34歳を迎えてバウアーはまだ成長途上と言えるかもしれない。
「コンディションは絶好調で、投手としてこれまでで最高の状態です。僕自身にとって沢村賞とサイヤング賞を取る事は、野球人生の中で最高の栄誉だと思っているので、今年はそれを成し遂げたいと思っています」
DeNAとの契約合意に際し、バウアーは「沢村賞奪取」にも言及。それが叶えば、「横浜奪取」は現実のものとなりそうだ。
文=八木遊(やぎ・ゆう)