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メイド喫茶ならぬ「冥土喫茶しゃんぐりら」をご存じだろうか? メイドは全員65歳以上、群馬県桐生市のNPO法人キッズバレイが運営する場所だ。萌え萌えではなく、「喪え喪えきゅん」の合言葉で客をもてなす。当初は高齢者の憩いの場づくりを目的としていたが、全国から若い客も来るという。冥土喫茶はどんな場所で、どのような役割を果たしているのだろうか。キッズバレイに取材し、運営のきっかけとその役割について聞いてみた。
群馬県・桐生市のNPO法人キッズバレイは、子ども向けのアフタースクール事業や子育てママ向けの支援事業などを展開する。そんなキッズバレイが昨年7月にオープンしたのが、「冥土喫茶しゃんぐりら」だ。通常のメイド喫茶のように店舗として出店しているのではなく、NPO法人の活動場所である「COCOTOMO」の一角で開催している。開催は月1回、第1土曜日の8〜12時だ。
メイド喫茶といえば若い女性が接客するが、冥土喫茶で接客するのは全員65歳以上。接客する側が冥土に近いという自虐的な意味もこめて命名したという。どんなメニューを提供しているのだろうか。キッズバレイの横倉佑樹氏はいう。
「営業は朝食の時間帯であり、高齢者を意識する狙いもあって、お握りを中心とした『冥土弁当』を提供しています。みそ汁や副菜が付いて600円。ドリンクバーを付けて800円です。『喪え喪えきゅん』のおまじないを唱えます」(横倉氏)
余談だが通常のメイド喫茶はカレーやパフェなどの洋食がメインだ。ある都内の店舗の場合、ドリンク700円台で1食1000円台。冥土喫茶の価格は良心的といえる。なお、在籍するメイドは7人。2人がキッズバレイの職員で、5人がボランティアだという。
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NPO法人とメイド喫茶…連想しにくいが、高齢者の居場所づくりを目的として冥土喫茶を始めたという。キッズバレイとしては、これまでに子どもやシングルマザー向けの居場所づくりを行ってきた。
「桐生市は市街地の過疎化が進み、高齢者が入りやすい喫茶店やファミレスが少なくなりました。現状をふまえ、高齢者が気軽に入れる場所を作りたいと思い、いろいろと案を出す中で『冥土喫茶』を思いついたのです。せっかくなので面白さも取り入れようと思いました」(同)
桐生市の人口は1975年をピークに減少が続く。他の地方都市と同様に自動車化が進み、郊外型モールが人を集める一方、駅前の活気は年々寂しくなっている。高齢者が徒歩で行ける施設は確かに少ない印象だ。冥土喫茶に来店する高齢者からは、「癒された」「コミュニケーションを取れて楽しい」などの意見があったという。そして冥土喫茶がメディアで掲載されて以降、若い客も来るようになった。
「4時間の営業時間帯で40人ほどが来店します。近隣から徒歩で来る高齢者が多いのですが、話題になって以降、遠方から若い方も来るようになりました。北海道、大阪から来た方もいます。実際にメイド喫茶やコンカフェ(コンセプトカフェ)で働いている人が『勉強のために』来たこともあります」(同)
ちなみに似たような例では、2019年に鎌倉市の企業が3日間限定で、60歳以上のメイドが接客する喫茶店を運営した事例がある。
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50、60代の女性からメイドになりたいという問い合わせもあったが、65歳以上という制限を崩さず、断っているという。来店する側だけでなく、働く側の居場所づくりという狙いもあるためだ。
「加齢を前向きに受け入れ、楽しむ『ポジティブエイジング』という概念があります。冥土喫茶はポジティブエイジングを実践し、サービスする高齢のメイドさんが楽しめる場所にしたいのです。一般的に高齢者は65歳以上の方を指すので、65歳という制限を設けました」(同)
筆者の周りでは定年退職や子どもの大学卒業を機に、生きがいを失ったという高齢者の話をよく聞く。健康寿命が延び続ける昨今、高齢者が働いたり、サービスを提供したりする場所が求められている。
高齢者が働くメイド喫茶は全国でも珍しい。ビジネスとして興味があり、事業化してみたいという客が遠方から見学に来たこともあったという。若くない店員が接客するメイド喫茶は、確かに一定の需要がありそうだ。都内で数店舗ほどやっていけそうな気がしないでもない。
だがキッズバレイは社会福祉の一環として進めていく予定だ。客単価600円、客数40人と仮定すると、月の収入はわずか2万4000円である。あくまでも収入源は協賛金と補助金などとしている。
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「一度イベントで、飲食店に出張開店をしたことがあります。そして現在では、冥土喫茶が高齢者の居場所づくりを目的としている関係で、福祉施設から出張の依頼があります。インフルエンザが落ち着いた春頃に出張する予定です」(同)
高齢者の居場所づくりのために今後も運営する方針だ。高齢者が高齢者のためにサービスを提供し、双方が加齢を楽しめる活動になっている。メイド喫茶という形式でなくても、同様の場は必要だ。ポジティブエイジングに貢献する活動の輪は広がっていくだろうか。
(文=山口伸/ライター)
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