「おまえは受けなくてもいい」から始まった戸柱恭孝の捕手人生 「これだけ練習をやった」が自信につながった

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2025年02月13日 10:30  webスポルティーバ

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横浜DeNAベイスターズ・戸柱恭孝インタビュー(後編)

前編:ベイスターズ「史上最大の下剋上」の舞台裏を戸柱恭孝が語るはこちら>>

 勝負強い打撃と、投手の特長を生かした巧みなリードで、昨シーズン26年ぶり日本一の立役者となった戸柱恭孝。風貌から「ハマの金剛力士像」の異名を持つ球界を代表する捕手だが、マスクを被ったのは大学に入ってからだという。今季、節目のプロ10年目を迎えた戸柱に、これまでの野球人生を振り返ってもらうとともに、今季の意気込みについて語ってもらった。

【大学でサードから捕手に転向】

── 鹿屋中央高(鹿児島)時代は三塁手だったそうですが、駒沢大1年時に捕手に転向しました。きっかけは?

戸柱 高校3年の夏休みにセレクションがありました。シートノックで三塁に入ってノックを受けていたら、当時監督の小椋正博さんに呼ばれて「おまえは捕手だよ」と言われたんです。今より肩は強かったですから。「捕手でなら合格」なのですから、なかば強制的ですよね(笑)。今ではコンバート指令を、とても感謝しています。

── 強肩以外にも光る要素があったのではないですか。

戸柱 大学1年の時は不安しかありませんでした。投球練習のブルペンに入ると、4年や3年の投手に「(キャッチングが未熟だから)おまえは受けなくていい」と言われていました。

── 大学卒業後はNTT西日本に進み、3年間プレーしました。都市対抗、日本選手権出場に貢献し、社会人野球のベストナインにも選ばれています。捕手は独特なポジションですが、急速な進歩です。

戸柱 自分で言うものなんですが、社会人時代はものすごく練習しました。「これだけやった」というのが自信につながり、試合での経験で"捕手マインド"が養われていったのだと思います。

── ベイスターズ入団時、捕手は黒羽根利規さん、嶺井博希さん、高城俊人さんでした。そんななか新人から3年連続開幕スタメン、また2年連続100試合以上に出場しました。当時、目標にしていた捕手はいたのですか。

戸柱 僕は大学から社会人に進み、3年間プレーしてきたので、新人とはいえ即戦力のつもりで臨みました。目標としていたのは、僕のアマチュア時代、プロの代表的な捕手は同じ背番号10の阿部慎之助(現・巨人監督)さん。雲の上の存在でした。

【リードと配球は違う】

── 捕手の要素には、リード、キャッチング、ブロッキング、スローイング、バッティングの5つがあります。一番自信があるのは?

戸柱 その5分野に関しては、すべて必要最低限のレベルには達していると思いますが、あえて挙げるならキャッチングですかね。

── 戸柱さんの入団前の2015年、ベイスターズ投手陣の暴投数は68個ありました。それが、戸柱さんが入団した2016年は39個に激減しました。

戸柱 社会人時代に何千球とピッチャーの球を受けてきましたから。プロ入り後も"キャッチング"は大事にしている部分です。

── ミットをはめる左手の人差し指の向きは、昭和の梨田昌孝さんの頃は自分から見て12時だったのが、平成の古田敦也さんの頃は2時になり、現在メジャーの主流は4時です。

戸柱 人差し指の向きは、僕の社会人時代からだんだん下がってきて、メジャーの情報も入ってきました。自分はどの向きでも練習したので捕球できます。これは感覚の話になりますが、左手小指を支点にするというか、小指の外側で投球を捕まえにいくイメージです。それを意識して捕球しています。

── 昨年のポストシーズンで、特に光った"リード"についてはいかがでしょうか。

戸柱 リードと配球は違うと考えています。言ってみれば、オーソドックスな教科書どおりの"表"のリードと、"裏"の配球でしょうか。捕手にはそれぞれ感性とカラーがありますし、配球に正解はありません。ただ「勝つこと」、そして「日本一になることが究極の正解」だと思います。

── スローイングについて、たとえば盗塁阻止率は2016年に.200(盗塁60企図/12刺殺)だったのが、2020年は.352(盗塁71企図/25刺殺)に上がりました。どんな工夫を施したのでしょうか。

戸柱 現在は、走者のスライディングレベルが向上しています。投球を捕球してから二塁に早く投げるのはもちろんですが、二塁ベース手前、走者が滑り込む低いところに「タッチボール」を、いかにコントロールよく二塁手、遊撃手に投げるかですね。

── バッティングは、プロ2年目の2017年に打率.214(336打数72安打)ながら、52打点を挙げました。昨年のクライマックス・シリーズでも、勝負強さが印象的でした。ベイスターズは宮崎敏郎選手、タイラー・オースティン選手、佐野恵太選手、牧秀悟選手、筒香嘉智選手といったタイトルホルダーが並ぶ強力打線です。

戸柱 球界を代表する好打者が、僕の前を打っているわけです。だから最低限、打球を前に飛ばせばさえすれば、点が入るのではないかと......それが好結果につながっているのかもしれませんね。先述した"キャッチング"ではないですが、「自分はこれだけ練習してきた」という絶対的なメンタルの部分での余裕をつくるようにしています。そして捕手の5要素については、いずれも毎年出てきた課題に対して、担当コーチとともに試行錯誤して解消していくのがプロだと思うので、入団してからそのように取り組んできました。

【捕手複数制への本音】

── 現在、プロ野球は「捕手複数制」のチームが増えています。そのことについて、どう考えられていますか。

戸柱 昨今のプロ野球界において、捕手を固定しないチームが増える傾向にあります。とはいえ、やはりポジションは1つですし、「試合にずっと出る」という気持ちは当たり前のように持っています。山本(祐大)は昨年ベストナインとゴールデングラブ賞を獲得して、球界を代表する捕手になりつつあります。また松尾(汐恩)は、ポテンシャルと伸びしろがほんとにすごいなと思います。彼らに負けないように「いい刺激をもらって頑張る」という、いい関係性ができています。

── 松尾選手とは一緒に自主トレをしたそうですが、ひと昔前はライバルである同じポジションの選手とやるなんて考えられませんでした。

戸柱 プロ入りした頃は、孤独でしたし、ほんとにしんどい思いをしました。ライバルとしてバチバチやるのもひとつの考え方である一方、すばらしい能力のある若い選手と一緒にやっていくのもいいのかなと......。みんなでともに戦って、頑張って、昨年は日本一の美酒を味わえましたからね。チームとして勝ちたいですし、優勝したいです。

── 復帰するトレバー・バウアー投手、先発転向を目指す伊勢大夢投手、プロ4年目の小園健太投手、ドラフト1位の竹田祐投手ら、先発ローテーションは昨年以上に充実の様相を呈して楽しみですね。今季、戸柱さんは10年目の節目のシーズンになりますが、個人的な目標は何ですか。

戸柱 監督をはじめとした首脳陣が考える「一軍の戦力ピース」に必ずなること。また年齢的にも、チームでは上のほうになってきたので、「スタメンはできるぞ」「途中からでもマスクを被れるぞ」「最後の締めもできるぞ」というところを見せたいですね。いつでもどこでも、バッテリーを組める捕手がいればチームとしても心強いと思うので、そこを意識してプレーしていきたいですね。


戸柱恭孝(とばしら・やすたか)/1990年4月11日、鹿児島県出身。鹿屋中央高から駒沢大に進学し、卒業後はNTT西日本へ入社。 入社2年目の2014年に正捕手となると日本選手権8強入りに貢献。 15年のドラフトでDeNAから4位指名を受け入団。プロ1年目から開幕スタメンを果たすなど24試合に出場し、DeNA初のCS進出に貢献した。24年、シーズンでは46試合の出場にとどまったが、CSではケガで離脱した山本祐大、伊藤光に代わりスタメンマスクを被ると、MVPを獲得する活躍で阪神、巨人を破り日本シリーズ進出。ソフトバンクとの日本シリーズでも攻守に存在感を発揮し、26年ぶり日本一の立役者となった

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