デンベレ(PSG)のドリブルは極めて異質で独特 松井大輔が分析「左右どちらでもシュートを打てる両利きのアドバンテージ」

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2025年02月14日 07:10  webスポルティーバ

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【新連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
第4回:ウスマン・デンベレ

 今シーズンのリーグ・アンで16得点を記録し、第21節終了時点で得点ランキングのトップに立っているのが、パリ・サンジェルマン(PSG)のフランス代表FWウスマン・デンベレだ。

 デンベレと言えば、これまではドリブル突破を最大の武器とする典型的なウインガーと見られていたが、今シーズンは昨年12月から急激に得点力が増しており、もはや鬼に金棒。27歳にして、手がつけられない危険なアタッカーに進化を遂げた印象だ。

 ただ、得点力を増したとはいえ、デンベレのドリブルは相変わらずのハイクオリティ。特に主戦場のサイドでプレーする時は、その武器が冴えわたる。

 果たして、デンベレの原点とも言えるドリブル突破には、どんなテクニックが隠されているのか。現在横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのコーチとして『対人強化クラス』を担当する元日本代表の松井大輔氏が解説してくれた。

   ※   ※   ※   ※   ※

「まず、デンベレのドリブル突破の前提になっているのが、傑出したスピードです。しかも初速が速く、ドリブルする時のファーストタッチから急にスピードアップするので、スピードに乗ったら対峙するDFがついていくのは難しいと思います。

 相手の背後に大きなスペースがある時などは、そこにボールを大きく蹴ってから、相手と競争するだけで突破できる。デンベレは、スピードという自分の武器を最大限に生かすためのドリブルをしているわけです。

 一般的に、スピードに乗った状態でドリブルをすると、どうしてもボールコントロールが乱れがちです。でも、デンベレが優れているのは、スピードに乗った状態でもしっかり自分がコントロールできる範囲内にボールを置き続けられることです。

 普通の選手の感覚からすると、ボール1個か2個分、自分から離れた場所にボールがあるので、相手に奪われてしまいそうに見えます。しかし、デンベレは奪われない。それが最適なドリブルの範囲になっていて、そのなかでスピードに乗ってドリブルを続けられるボールテクニックもある。

 つまり、スピードと、ボールを扱う正確な技術の両方を備えているからこそ、成り立っているドリブルと言えるでしょう。スピードのある選手で、このレベルのドリブルをできる選手はなかなか存在しません」

【デンベレのドリブルは感覚型】

 松井氏は、続けてデンベレのプレースタイルを掘り下げる。

「そのうえで、彼の最大の特徴と言えるのが、特別なフェイントを使わないこと。ほとんどの場合、切り返しとキックフェイントだけで相手を置き去りにします。

 しかも、それほどスピードを落とさずに、相手と正対した状態でもスムースに切り返しやキックフェイントを繰り返せるテクニックを兼ね備えている。なので、相手DFはデンベレがどっちに抜こうとしているのか掴みにくく、不用意に足を出せない状態に陥ってしまいます。

 ボールを置く場所は、基本的には自分の前。相手に向かってボールを晒した状態にして、そこからドリブル突破を仕掛けます。そういう意味では、三笘薫のように後ろ足でボールを持つ状態から仕掛けるのとは異なっていますが、同じようにボールを自分の前に置いてドリブルを仕掛けるメッシのように細かくボールタッチをするわけでもありません。

 ドリブルを理論型と感覚型に分けるなら、デンベレのドリブルは感覚型。その感覚型のなかでも、デンベレにしかできない、極めて異質で独特なドリブルだと思います」

 そのようにデンベレの特徴を解説したうえで、松井氏が重要ポイントとして強調したのは、デンベレならではと言える、もうひとつの大きな武器だった。

「デンベレがフェイントを使わないで、切り返しやキックフェイントだけで突破できるもうひとつの理由は、左右両足を同じレベルで使えるからです。

 どちらの足も同じように使えるので、対峙する相手はどちらかの方向に絞って追い込むようなディフェンスができません。常に右と左の両方向を警戒しながら止めなければならず、デンベレに対して優位な状況を作りにくい。デンベレも自分のその特徴をわかっているからこそ、ボールを前に晒して仕掛けられるのだと思います。

 さらに言えば、デンベレのような両利きの選手のアドバンテージは、相手をはがしたあとにシュートを狙う段階でも大きなメリットになります。

【デンベレは両利きの先駆者】

 たとえば、右利きの選手の場合、ドリブルで相手を抜いた直後にシュートを打とうとすると、右方向に抜いた場合は即シュートできますが、左に抜いた場合は効き足ではない左足でシュートを打つか、少しタイミングを遅らせてでも右足に持ち替えてシュートするかのどちらかになります。でも、ゴール前はゼロコンマの世界なので、少しでもタイミングがずれると相手にブロックされたりして、シュートを決めるのが難しくなってしまいます。

 それに対して、デンベレの場合はどちらに抜いても即シュートを打てる。これまではそのシュート精度に課題を抱えていましたが、最近はその精度がアップしたことで、ますますゴール前で相手に脅威を与えられる選手になっています」

 近年は、両足を同じレベルで使える、いわゆる「両利き」の選手が増えてきた。デンベレの所属するリーグ・アンだけを見ても、リヨンのラヤン・シェルキ、この冬にパリ・サンジェルマンに加入したフヴィチャ・クヴァラツヘリアなどがよく知られるが、約10年前にレンヌでトップデビューしたデンベレはその先駆者と言える。

 では、意図的に両利きの選手のドリブラーを育てることは可能なのか──。指導者としての視点で、松井氏に語ってもらった。

「可能だと思います。自分も少年時代に右足をケガした時、左足だけでリフティングやドリブルやキックをしていたことがありました。基本的に僕は右利きですが、その経験があったので、どちらの足も使えるようになれましたし、左サイドでも右サイドでも違和感なくプレーできたのだと思います。

 その実体験もあり、現在はスクールでも子どもたちに、左右両足でドリブルをする練習メニューを実践しています。もちろん吸収力はそれぞれですが、子どものうちから両足を使う習慣を身につけることで、デンベレのような両利きを目指す基礎づくりができると思います」

 日本ではまだ両利きの選手はあまり存在しないが、将来的にはデンベレのようなドリブラーが誕生することを期待したい。

(第5回につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、横浜FCスクールコーチ、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチを務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

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