貸金庫の一例(三菱UFJ銀行の資料から) 三菱UFJ銀行の元行員による貸金庫の顧客資産窃盗事件を受け、大手行や地方銀行に管理体制を見直す動きが広がっている。もともと利用者の減少や採算性の低さ、マネーロンダリング(資金洗浄)などに悪用されるリスクといった課題もあり、みずほ銀行が新規受け付けの無期限停止に踏み切るなど、貸金庫ビジネス自体の再考も迫られつつある。
事件は昨年11月に明らかになり、三菱UFJ銀の元行員が支店で保管していた予備鍵を不正に使い貸金庫から繰り返し金品を盗んでいた。同行は再発防止に向け、予備鍵の本部での一括保管や複数行員による手続き、防犯カメラでの監視強化などを打ち出した。
全国銀行協会も昨年12月、会員行に貸金庫の管理体制の点検を要請。三井住友銀行のほか、福岡銀行や常陽銀行など多くの地銀が予備鍵の本部保管などの対策を相次いで決めた。沖縄銀行は管理の在り方を検討するため、今月12日から新規の受け付けを一時停止。横浜銀行も3月10日から5月末まで停止し、管理体制を整備する。
また、みずほ銀行は1月半ばから無期限で新規受け付けを取りやめた。三菱UFJ銀は、貸金庫ビジネスの今後について3月までに方向性を示す方針で、撤退も「一番極端な選択肢」(半沢淳一頭取)と説明している。
貸金庫を巡っては、顧客の高齢化、株券や権利書の電子化などで利用者が年々減少。年数万円程度の利用料は銀行にとって採算性が低く、店舗移転などに合わせて貸金庫を置かないケースも増えている。銀行は原則、中身を把握できないため、犯罪の温床となるリスクも指摘される。
一方、貸金庫には富裕層との接点を確保できるメリットのほか、近年は強盗や災害に備えたニーズもある。既存客が多く残る中、「完全撤退は現実的ではない」(中堅地銀)との声が大勢だ。ただ、事件を受け、金融庁も貸金庫業の在り方について再検討に乗り出しており、「マネロン対策の強化で貸金庫の管理負担が増えれば、撤退する銀行も出てくる」(関東の地銀)とも指摘される。