Naoyaさん・Maiさん夫妻(以下、写真は本人提供) こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
「自分の子どもは天才なのではないか」――。子育てをしていると、誰しもが一度は抱く感覚でしょう。こうした発想から、ギフテッドという存在は近年注目を集めることも多いですが、当事者のMaiさん&Naoyaさんご夫婦に話を聞くと、そう簡単な話ではないのがわかります。
ギフテッドはもともと「IQ130以上」などの天才児として語られる時代がありました。しかし現在は数値としての基準はなく、一般的に、同世代と比べて知的能力が高かったり、特定分野に際立った才能を持っていたり、ギフテッドによく見られる特性を持つ子どもをそう呼ぶそう。さまざまな特性により、時に、配慮や支援が必要になる子どもも少なくないといいます。
2本目となる今回のコラムでは、どちらも成人ギフテッド当事者であるMaiさん(29歳)とNaoyaさん(28歳)の夫妻に、幼少期の性格やエピソードを教えてもらいました。
◆良さを伸ばす幼少期の環境は何があったのか?
前回記事では、お二人にギフテッドだと気づいたキッカケや、特性について聞きました。
Naoyaさんはワーキングメモリ(作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し、処理する能力)が低い点と、合理性や論理性を重んじるあまり、納得がいかなかった際に感情の折り合いがつきにくいという苦労もあったそう。
一方Maiさんは、OE(過度激動)による感情や行動の激しさと、好奇心旺盛で行動力があるという点が、良さでもあり苦労にも繋がっていたとのことでした。成長過程において、あらゆる気質は周囲の人間関係や環境次第で、抑え込まれたり、コンプレックスとして、子どもの心に刻まれてしまうケースもあるものです。
Maiさんは現在、ギフテッド特性のある子のためのフリースクール・個別指導塾「Lagoon」を運営し、Naoyaさんは南アフリカのケープタウン大学で博士課程に在学中です。今でもそれぞれ、自分の強みと言える能力を発揮しているわけですが、幼少の頃はどんな過ごし方をしていたのか教えてください。
Maiさん「私は好奇心旺盛な性格だったので、自分で企画を立てて実行するのが好きでした。ちょっと変わっているかもしれませんが、小学低学年の頃から『教育』が好きだったのを覚えています。自分から育児書を読み、4歳下の弟に『あんな経験をさせてあげたいな』みたいなことを考えていたんです。例えば、書籍に『子どもの野外活動が大事』と書かれていたので、2時間ほどの遠足を計画し、弟と一緒に町内を巡るイベントを実行したこともありましたね」
Naoyaさん「僕は、段ボールや牛乳パックで工作をする造形教室に通っていたのを覚えています。あとはポケモンカードと『名探偵コナン』が大好きな子どもでした。『名探偵コナン』は今でも好きなんですが、子どもの頃は科学捜査への興味が派生して、科学雑誌などを読み耽るようになりました」
◆親からみたギフテッドな我が子、やっぱり大変?
お二人とも、かなり「好き」が早い段階から確立されている印象ですが、親からはどう思われていたかは、聞いたことがありますか?
Maiさん「親からは、『自分の意志があって頑固だね』とは言われていました。こうと決めたら、絶対に曲げない子どもだったので。
学力に関しては、私は小学生の頃、学校で知能テストを受ける機会があったのですが、結果は学校内で1位だったそうです。あと、通っていた公文式の教室では、入会数ヶ月で1500枚以上のプリントをこなし、3学年以上先の教材まで進んだ記憶があります。そういう意味で勉強ができる子、という認識は親の中にはあったかなと。
でも、低学年時の担任からすると、私に勉強ができる印象はなかったようです。というのも、1〜2年生の頃は席替えで必ず一番前にされていたんですよ。後から親に聞いたら、どうも私は、いつもぼーっとしているように見られていたそうです。何か考え事をしていると、他人からは極端にぼーっとしているように見えていたのかもしれません」
Naoyaさん「僕は論理性への追求と感情のコントロールがしにくいという点で、問題児と思われていました。親からすると、すぐ喧嘩はするし、注意すると訳のわからないことを言うし、協調性はないし、論理的な言い訳は多いしで、理解できないことをやる子って感じだったと聞いています。ただ僕自身は、自己肯定感は高くはなかったですが、自分を卑下することもありませんでした。むしろ、『周りはなんで論理的に納得しないんだろうな』って思ってました。傲慢に聞こえるかもしれませんが、『いつも周りが間違っている』くらいに感じていましたね」
◆大人になって「周りが自分に合ってきた」
Maiさん「お義母さんと話すと、『Naoyaは本当に小さい頃は大変で〜』って話を私も聞きます。お義母さんの話ぶりを聞くと、これは確かに手に負えなかったんだろうなって感じますね」
Naoyaさん「正直今でも、自分の中では論理性を重視しすぎているので、感情とのバランスが取れているとは思っていません。ただ子どもの頃は、今よりずっと野性的な要素が強かったとは思います。大人になった現在は、自分が落ち着いたというよりも、周りが自分に合ってきた、といった方がしっくり来ます。
また、自分に合う環境を選んできたことで、結果的に論理性を重視するようなコミュニティにいることが増えてきて、僕の意見も受け入れられやすくなったという感じです。僕は今、南アフリカで生活していますが、ここは日本とは異なる文化や習慣があり、非合理的に感じる場面はあります。そこに無理やり合わせたりはしないので、やっぱり僕自身が変わったわけじゃないのかなと思いますね」
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こうした性格が「周りと違うな」と感じたのはいつ頃か聞くと、2人とも「物心ついた頃からあった」と言います。些細なリアクションの違いなどが積み重なり、だんだんとその違和感は大きくなっていったとか。
人は誰しも個性を持っていますが、自分がそれをどう捉えるか、親としてそれを目の当たりにしたときにどうリアクションしどう受け止めるかが、改めてその子の人生を大きく変えていくんだなと、お二人の話を聞きながら、感じるのでした。
【Mai】
ギフテッド特性ある子のためのフリースクール・個別指導塾「Lagoon」代表。自身もギフテッド特性を持ち、幼少期には不登校を経験。SNSでは当事者のリアルや役立つ情報を発信し、総フォロワー数は1.8万人。JAPAN MENSA会員。YouTube:@MAI_gifted
【Naoya】
ケープタウン大学博士課程在学中。野生動物の動作解析をロボット制御に応用する研究を行う傍ら、フリーランスとしてIT企業の技術開発、コンサルティングに従事。2018年度に経済産業省の未踏IT人材発掘・育成事業に採択、スーパークリエータ認定を受ける。
<取材・文/おおしまりえ>
【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518