
家族として同居していたはずなのに、その数十年は意外とそれぞれが違う方向を見ていたことに気づくようだ。
たまには夫婦で出かけようと話し合って
「うちは共働きでしたから、お互いの自由な時間は確保し合ってきたんです。週末は家族で過ごす日と、それぞれが好きに過ごす日に分けた。たとえば私が週末、土日のどちらかで友だちと会うとしたら、次の週末は夫が大好きなサッカー観戦に行く。そんな感じでした」サヤカさん(51歳)は昔を思い起こすようにそう言った。長女はすでに社会人として独立し、長男も昨年から社会人となり、会社の借り上げ住宅に住んでいる。
「週末、家族と過ごすことはほぼなくなりました。たまに長女が顔を見せる程度。週末は夫と二人きりなので、最初はさて、どうしようという感じでしたね。考えたら、それぞれの自由時間は確保してきたけど、二人で出かけたことなんてめったになかった」
このままお互いに好きなように過ごすのもいいけれど、たまには夫婦で出かけるのもいいし、何か一緒に新たなことを始めてもいいねと話し合った。
夫の趣味に付き合ってみたけれど
「夫はずっと地域のサッカーチームを応援しているんです。今までは時間がなくて行けなかったけど、私もたまにはサッカーを観たいと言ってみたら、なんだか夫が乗り気じゃないんですよね。嫌ならいいけどと言うと、『いや、いいよ。おいでよ』って」夫にならってチームのユニフォームを着込み、カジュアルな格好で出かけていった。夫は勝手知ったるスタジアムにどんどん入っていき、顔見知りと挨拶を交わしている。サヤカさんはなんとなく居心地の悪さを感じていた。
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夫は『あいつ、冗談きついんだよ。誰にでもああいうふうに言う』と笑ったけど、顔がひきつっていました」
嫌なものを見せられた。そんな気がした。夫はサッカーの応援にいつも女性を連れてきていたのだろうか。疑心暗鬼になった。
ここは私が来るところじゃない
試合を観たあとは、いつも有志で飲み会をしたりカラオケに行ったりすると聞いていた。その日、夫はサヤカさんに気を遣ったのだろう、一緒に行こうと誘ってきた。「私も雰囲気を壊したくなかったので一緒に行ったんですが、10数人の仲間のうち、夫婦で来ている人が1組、若い女性の二人連れがいて、あとは全員男性。若い女性たちはモテてましたし、夫婦はいつも二人で来ているようでなじんでいた。
その奥さんのほうが『また来てくださいね。夫婦連れが少ないから寂しいのよ』と言ってくれたけど、帰るころにはここは私が来るところじゃないなと思いました」
というのも、トイレに行ったとき、すぐ横で仲間の男性二人が「女が増えると、なんだか雰囲気が変わるよな。○○さんの奥さんみたいにサッカーに詳しければおもしろいけど」と話しているのが聞こえてしまったのだという。
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「やっぱり男女は別々にいたほうが気楽なんでしょうね。日本はカップル文化ではないし、カップルで行くならむしろ夫婦じゃないほうがそういう場所にはなじめるのかもしれない」
夫にはもちろん、他の女性と一緒に行ったことがあるのかとあとから聞いてみた。夫は、会社の部下などを連れて行ったことはあると認めた。
どうしても観てみたいというから一緒に行っただけ、なんらやましいことはないと言ったが、妻より先につれて行ったのは確かだ。それまでサヤカさんは夫から観戦に誘われたことさえなかったのだから。
今は別行動
「それ以降、二人で行動したいとは思わなくなりました。今では私は週末は友人と会うことが増えた。先日は一泊で近場へ一人旅をしてみました。夕飯は町で一人ごはんだったんですが、そこにいた人や店の人と話して、とても楽しい時間だった。夫婦だからって、一緒に行動する必要はないと思いましたね」もう少し年をとったらお互いを必要とするようになるかもしれない。それまではお互いに自由でいい。サヤカさんはそう思っている。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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