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ホンダ・レーシング
渡辺康治社長インタビュー(前編)
もうすぐF1の2025年シーズンが始まる。
マシンとしては、2022年から導入されたグラウンドエフェクトカー規定最後の年。そしてパワーユニットとしては、2014年から12年間にわたってF1を支えてきた現行規定の最後の1年となる。
2026年にアストンマーティンとのタッグでF1復帰を予定しているホンダにとっても、2018年からともに戦ってきたレーシングブルズ、およびレッドブルとの最後のシーズンになる。
2年連続ダブルタイトル獲得から一転して、昨年は4強チームが入り乱れる大混戦。辛くもドライバーズタイトルはつかみ取ったものの、コンストラクターズタイトルは逃してしまった。
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レッドブルパワートレインズにパワーユニットを供給し、現場オペレーションを支えるHRC(ホンダ・レーシング)は、2025年をどのように挑むのか。そして、ホンダの育成プログラム出身でレッドブルドライバーとして複雑な立場に立たされている角田裕毅と岩佐歩夢については──。
HRCの渡辺康治社長に、今シーズンの展望を聞いた。
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── 2024年は大接戦となってレッドブルもかなり苦戦を強いられました。2025年のF1はどのようになると予想していますか?
「パワーユニットサプライヤーとして、我々のやれることはほぼなくなってきています。ただ、やれることはかなり限られていますが、やはり壊れないことが第一。パワーユニットが原因で勝てなかったことがないように、信頼性の確認と劣化部分のメンテナンスですね。
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やれることが少ないとはいえ、マイレージが進むことによる劣化はありますから、今も最後の開発としてHRCのエンジニアたちは苦労しながらそこを突き詰めているところです。あとは車体の性能も上げてもらわないと勝てませんから、そこには期待しています。レッドブルとの最終年ですから、しっかりと勝ちたいですね」
【レッドブルの最終判断は非常に残念】
── レーシングブルズとも最後の1年になります。
「我々はこれまでずっと、両チームとも同じスタンスでお付き合いをしてきました。パワーユニットに優劣はありません。レーシングブルズには昨年よりもしっかりとポジションを上げてもらい、特に角田裕毅が活躍することを大いに期待しています」
── 現行規定最後の年ということで、パワーユニットとしては各メーカー間で大きな差がないところまで来ているかと思います。
「そうですね。パフォーマンスに関してはほぼ横並びの状態で、ICE(内燃機関エンジン)に関しても一部(メーカー)は並んでいるか、もしかすると追い越されている部分もあるかと思います。ただ、電動部分は我々に少し優位性があるように分析していて、総合的に言えば競争力は十分にあると思っています。
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あとはオペレーション面でどれだけ優位に戦えるか、というところが重要になってきます。(開発が制限されるなかで)今年に向けて改良を加えたのは、昨年何度かダメージを負ってしまった床下からの衝撃に対する強度アップですね。そして劣化対策に関しては、設計変更というよりも確認を重ねて、オペレーション面での突き詰めをどんどん進めているところです」
── 角田選手は昨年末、レッドブルのテストドライブを経験しました。レッドブル昇格を果たせなかったことについて、どのように感じましたか?
「ドライバーとして非常に大きな成長を見せていたので、我々としてはレッドブルのドライバー候補になるべきだと思っていますし、クリスチャン・ホーナー代表とは何度も話をしてきました。最終的にテストは参加できることになったものの、レッドブルの最終判断は『角田を起用しない』とのことだったので、非常に残念でした。
ヘルムート・マルコさんの判断はいつも説得力があり、納得できる部分もあります。しかし、ドライバー起用にはドライバーのスキルだけではなく、スポンサー関連やマーケティング上の理由などいろいろな要素があり、最終的にはチーム判断が優先されます。
もちろん、レーシングブルズが悪いチームというわけではありませんし、2025年もそこに乗れるのは喜ぶべきことです。私としてはレッドブルに昇格することをあきらめずに、今後も努力し続けてほしいと思っています」
【F1ドライバーになる人間を育てる】
── 岩佐歩夢選手は今季、レーシングブルズのリザーブドライバーとして活動することになります。
「ホンダの育成プログラム出身ドライバーとして、今後の彼にも期待しています。リザーブドライバーの職務を今季の中心としてF1に全戦帯同する選択肢も協議したのですが、本人がスーパーフォーミュラに参戦しながらレーシングブルズのシミュレーターやリザーブドライバーの仕事をやっていきたいと希望したので、M-TEC(TEAM MUGEN)と相談しながら、昨年スーパーフォーミュラを戦ったパッケージの継続を軸に、F1にも帯同できる体制を整えました。
やはりF1のコミュニティにいるのは大事なことです。現場に行ったり、シミュレーターをやって、現場でコミュニケーションを図り、存在感を示しながら、F1にステップアップするチャンスをつかんでほしいなと思っています。2024年もそうでしたが、2025年もかなり早い時期、6月や7月に2026年のことを決めなければならない状況になると思われるので、岩佐選手のいろんな可能性を見定めていきたいと思っています」
── トヨタ(トヨタ・ガズーレーシング)がF1への関わりを広げていることについて、どのように感じていますか?
「トヨタさんがF1に入ってくるのは、F1全体の盛り上がりにとってプラスになると思いますので歓迎します。ただ、トヨタさんがどういった関わり方をするのかはまだよくわかりませんので、コメントしづらいところではあります。日本のドライバーがF1の世界で活躍するのは日本のファンにとってもうれしいことですので、我々にとっても励みになります」
── 今季はホンダとレッドブルのドライバー育成プログラム提携が終了し、昨年フランスF4でチャンピオンになった加藤大翔選手がHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)の一員として、FIA F3の下に位置するフォーミュラ・リージョナルに参戦します。今後のドライバー育成はどのように考えていますか?
「HFDPの目標は明快で、『F1ドライバーになる人間を育てる』ということが『A00』(ホンダ社内でプロジェクトを検討する際に冒頭で優先される「企画の大義」)です。F1の表彰台に日の丸を掲げるのが我々の夢でもありますので、まずはそこに近づけるような取り組みをすべきだと思っています。
そのためには、日本国内での育成に加え、ヨーロッパをはじめ海外で育てていくことも必要であると考えています。よって育成ドライバーの活動の場は、ヨーロッパ側にも増やしていくべきだと思っています」
【競争力のあるパワーユニットを作る】
── トヨタはF1ではハース、F2およびF3ではハイテックGPと提携して、次々とシートを確保しています。
「今後はF2やF3に参戦するHFDPのドライバーを増やしていきたいと思っています。そのためには、たとえばF1以外のカテゴリーで我々と一緒に育成活動で連携できるようなチームを増やし、そこでホンダドライバーをステップアップさせていければよいと思います。
さらには、ホンダ独自のF1チームという展望はまだありませんが(ホンダの育成ドライバーがF1に参戦するためには)カスタマーチームを増やすことはやらなければいけないと考えています。そのためにはまず、『ホンダさん、ウチに供給してくださいよ』と言ってもらえるような競争力のあるパワーユニットを作ることだと思っています」
(つづく)
◆渡辺康治・後編>>ホンダ2026年型パワーユニット開発は苦しんでいる?