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「宝木は授かりもの。おまえも福を持っとったんじゃ」。15日に西大寺観音院(岡山市東区西大寺中)で繰り広げられた西大寺会陽。締め込み姿の男たち約1万人(主催者発表)による争奪戦で、福を授かるとされる2本の宝木(しんぎ)に触ることはできなかったが、参加したグループが宝木を獲得、記念に持たせてもらった時のずっしり感が手から離れない。
500年余りの伝統を誇り、日本三大奇祭の一つと称される裸祭り。福男の常連・林グループに交じり初参加した。山陽新聞に入社1年目の28歳。観音院に程近い岡山市東区瀬戸町出身だが、会陽は見たことも出たこともない。「地元紙の記者としていかがなものか」。そう思い、参加を志願した。
今年に入って練習に加わった。仲間と連係して宝木をパスしていく。同じ動作を繰り返すうち、イメージがつかめた気がした。冷水に漬かって身を清める「水垢離行(みずごりぎょう)」も足を運び、「あわよくば宝木に触れられるかも」。そんな期待を抱き、当日を迎えた。
夕方、着替え場所で締め込み姿になり、メンバーの還暦祝いを兼ねてグループ伝統の観音院への正式参拝。裸たちの真剣な信仰心を目の当たりにし、気が引き締まった。
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着替え場所に一度戻り、再び出発。締め込み姿は気恥ずかしく、肌を突き刺すような寒さもきつい。「わっしょい、わっしょい」。同志で列をつくって練り歩く。「がんばれ」という沿道の声援。境内の大観衆。気持ちが高揚してきた。
午後9時。争奪戦の舞台となる大床では男たちが激しくもみ合っている。「せっかくだから」と促され、群衆をかき分けて奧へ入った。「うおー」「押せー」。叫び声で耳が痛い。圧迫されて息もできず、体をひねって空間をつくった。
午後10時、宝木投下。裸衆のうねりの勢いが増す。カメラのフラッシュが一斉に光る。照明が消えた観音院の大床。斜め上に宝木がうっすら見える。その瞬間、体がふっと浮き上がった。
一瞬で外にはじかれた。周りを見渡すと、お香のような匂いの付近に二つの渦。学んだ技で中心に近づくが、他の男たちの勢いに負ける。諦めて立ち尽くすしかなかった。
悔しさを感じながら着替え場所に戻ると、晴れ晴れとした表情のメンバーたちが強い存在感とかすかに香の匂いを放つ木の棒を手にしていた。
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「ええ場面に立ち会えたなぁ」と声をかけられた。宝木だった。福男の中野将史さん(37)と記念に持たせてもらった。宝木はずっしりと重く、すっとパワーが体に入っていくようだった。
その後、メンバーの家族やOBを交えた打ち上げでは、激しい争奪戦とは打って変わって和気あいあいとした雰囲気。ベテランの一人が「観音様の前では上も下もない。年代を超えて家族のような関係になれるのが会陽の魅力」と表現した。激しい争奪戦ばかりが注目されがちだが、伝統や仲間を大切にする会陽の神髄に触れることができた。
「自ら体験するのはすごいこと。そういう姿勢を大切にしてほしいね」。帰り際にそうエールをもらった。伝統をつなぐ地域の熱い思い。紙面で伝える地元紙の使命。宝木のずっしり感とともに心に刻んだ。
◇
会陽から2日後、まさにこの原稿執筆中に喉の痛みと発熱が出た。まずい、風邪か。幸い、新型コロナウイルスやインフルエンザでもなく、咽頭炎との診断。福をいただいたついでに、風邪ももらってしまった。ほろ苦いデビューとなったが、次は寒さに負けない体をつくって臨みたい。
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(まいどなニュース/山陽新聞)