箱根駅伝「山の名探偵」から「マラソンの名探偵」へ? 早大・工藤慎作が目指す総合優勝とロス五輪マラソン代表

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2025年02月22日 07:10  webスポルティーバ

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2年連続の好走で、箱根駅伝5区の代名詞的選手となった早稲田大の工藤慎作(2年)。眼鏡をかけた風貌やその名前から人気漫画の主人公になぞらえつけられた「山の名探偵」の愛称は、箱根ファンにも定着してきたが、工藤自身が目指しているのは山を極めることだけではない。

来シーズン、早大として15年ぶりの箱根総合優勝はもちろん、2028年のロサンゼルス五輪マラソン代表入りを明確な目標に掲げ、走り続けている。

【「工藤は1=1.1〜1.2ぐらい出せる選手」】

 今年の箱根駅伝で一気に名を上げた選手のひとりが、早稲田大学の工藤慎作(2年)だろう。

 人気漫画『名探偵コナン』に由来する"山の名探偵"のニックネームは、Xで「箱根駅伝」を差し置いて日本のトレンド1位を獲得(往路が行なわれた1月2日)。それほど大きな話題となった。

 そのキャッチーなニックネームに負けないほど、箱根路で見せたパフォーマンスもインパクトは大きかった。

 2年連続で箱根駅伝の5区"山上り"を任された工藤は、区間2位と好走。

「誰かに抜かされようと、誰を抜こうと、自分のリズムでいこうと決めていた」

 このように振り返るが、駒澤大の山川拓馬(3年)、國學院大の高山豪起(3年)といった実績のあるランナーを抜いて、チーム順位を6位から3位に押し上げる活躍を見せた。

 記録も、区間新記録を打ち立てた青山学院大の若林宏樹(4年)には及ばなかったものの、5区歴代3位となる1時間09分31秒をマークした。

「70分前後を想定していました。正直、それすら厳しいかなと思っていたのですが、想定よりもかなりよいタイムで走ることができました。100点以上の走りだったと思います」

 1年生だった前回大会も区間6位と好走。その時の記録は1時間12分12秒だった。今季は明らかに走力をつけており、1年前の記録を大幅に上回る予想はついていたが、工藤自身の想像をはるかに上回った。

 箱根の5区では70分を想定した1kmごとのラップを途中までは刻んでいたが、途中からはあまり気にせずに走ったという。最高点付近の芦之湯(15.8km)を超えて元箱根(18.7km)までの下りは、若林よりも速く駆け抜けた。実は、工藤は上りだけでなく下りも速かった。

 いや、起伏があるコースに限らず、平地でも力強い走りを見せるのが今の工藤だ。

 ルーキーイヤーの工藤は、出雲駅伝、全日本大学駅伝と本来の調子ではなかったが、箱根での好走をきっかけに本来の調子を取り戻し、3月の日本学生ハーフで3位と活躍した。そして、2年目の今季、大きな飛躍を遂げた。

 出雲ではアンカーを担い、区間2位と好走。篠原倖太朗(駒澤大4年)や太田蒼生(青学大4年)といった大学長距離界を代表する選手に区間タイムで勝利した。さらに全日本大学駅伝でもアンカーを任され、区間3位と快走。他大学のエース格と十分に勝負できる力があることを示した。そして、箱根駅伝では2年連続の山上りで圧巻の走りを見せた。

「"1=1"っていうのをチームテーマにしていますが、工藤は1=1.1〜1.2ぐらい出せる選手」

 花田勝彦・早大駅伝監督は工藤の強さについてこう評する。

【箱根の疲労を抜くことに注力し日本学生ハーフ制覇】

 2月2日の香川丸亀国際ハーフマラソンでも、箱根駅伝の勢いそのままに、圧巻のパフォーマンスを披露した。

「箱根でかなりよいレースをした分、疲労が溜まっていたので、箱根のあとは疲労を抜くことに注力しました。1週間ぐらいしかしっかりとした練習はできなかったんですけど、それまでに走力は上がっていたので、リズムを整えて走ろうと思っていました」

 今回の丸亀ハーフは日本学生ハーフマラソンを併催しており、学生ランナーにとっては今夏のワールドユニバーシティゲームズの日本代表の座がかかっていた。工藤も「61分を切って3番以内」を目標に準備を進めてきた。

 日本人史上初の60分切りが飛び出したレースは序盤からハイペースで進み、多くの学生ランナーもそのペースに挑んだ。そんななか工藤はマイペースで進めていた。

「ペースメーカーの設定が5km14分、10km28分だったので、私の力的には無理だと思いました」

 箱根駅伝で見せたようにリミッターを外すような走りをすることもあるが、このような冷静さを持ち合わせているのも工藤の特徴だ。

 先頭集団についていかなかった分、後半に入っても余裕があった。じわじわ順位を上げていくと、17kmを前に立教大3年の馬場賢人を抜き去り、5位に浮上した。終盤も大きくペースダウンすることなく、日本歴代4位タイ(日本学生歴代5位*留学生を含む、日本人学生歴代2位)となる1時間00分06秒の好記録で5位入賞を果たした。日本学生記録を打ち立てた駒大の篠原には届かなかったが、併催の日本学生ハーフでは優勝に輝いた(篠原はエントリー外だった)。

「今の自分は試合に出るたびによい結果を残すようになっている。今回の結果も含めて、学生のトップ格なのかなと思います」

 ロードでハイパフォーマンスを続ける工藤は、きっぱりとこう言いきる。ハーフマラソンの学生王者となり、ワールドユニバーシティゲームズの日本代表にも内定。最高の形で大学2年目のシーズンを締め括った。

【成長の礎はマラソンを走るための走力強化】

 もちろん、その強さには根拠がある。自らを"走る・食べる・寝るだけの陸上ロボット"と称するほどストイック。休日もほとんど遊びに出掛けることはなく、自室で体を休めることに努めている。

 一方で、追い込むときには、とことん追い込む。夏合宿中には花田監督が「無理はしなくてもいいよ」と諭しても、ハードな練習の翌日にもかかわらず、早朝から上り基調のコースでロングジョグを敢行する工藤の姿があった。

 工藤がここまでストイックに競技に取り組むのは、大きな目標があるからだ。それは2028年のロサンゼルス五輪にマラソンで出場することだ。

「そのためには在学中にMGC(マラソングランドチャンピオンシップ、日本代表選考レース)の出場権を獲得しなければいけないので、在学中にマラソンを走るプランがあります」

 箱根駅伝の5区での快走があまりにも強烈だったが、工藤にしてみれば、山に特化して準備を進めてきたわけではなかった。マラソンを走るために走力に磨きをかけてきたことが、結果として箱根5区の快走にもつながった。

 昨年7月にはゴールドコーストマラソン(オーストラリア)でペースメーカーを務めた。現地に到着してすぐにジョギングをしている最中に迷子になるという珍道中になったが、レースでは余裕を持って25kmまで走りきり、マラソン挑戦への手応えを得られた。

「彼には来年の冬にはマラソンをさせたい。青山学院大の若林君が(2月2日の別府大分毎日マラソンで)学生記録を出しましたけど、それを軽くクリアして、ロサンゼルス五輪の日本代表につながるマラソンにできればと思っています。

 箱根をしっかりと沸かせて、今度は"マラソンの名探偵"として、(マラソンの問題を)解決してくれればいいかなと思っています」

 花田監督は自著の出版記念トークイベントでこんなことを口にしていた。大勢の聴衆の前だったのでリップサービスもあったかもしれないが、工藤に大きな期待を寄せているからこそ、こんな言葉が飛び出したのだろう。

 早稲田は1学年上で新駅伝主将の山口智規がエースとしてチームを牽引してきたが、今や工藤もまた、"ロードのエース"と言っていい。

 箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝での活躍の先には初マラソン挑戦が待っている。大学3年目の工藤は、ますます注目を集めることになりそうだ。

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