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NPB新外国人選手の過去を紐解く(打者編)
今シーズンから日本プロ野球でプレーする外国人選手のうち、日本で最もよく知られているのは、トレイ・キャベッジ(ヒューストン・アストロズ→巨人/27歳)かもしれない。その理由は大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)にある。キャベッジは2023年の夏にメジャーデビューし、ロサンゼルス・エンゼルスで大谷とともにプレーした。
もちろん、キャベッジのアピールポイントは大谷の元チームメイト......ではない。2023年はスリーAで「30-30」を達成している、打力と走力を兼ね備えた実力者だ。
スリーAでは107試合で打率.306、出塁率.379、30本塁打、32盗塁、OPS.975。4月18日に打ったシーズン4本目のホームランは、推定飛距離487フィート(約148メートル)を記録している。メジャーリーグでは2シーズンの計67試合で打率.209、出塁率.245、2本塁打、2盗塁、OPS.576と結果を残せていないが、日本でブレイクする可能性を秘めている。
ドラフト順位は2015年の4巡目・全体110位ながら、公式サイト『MLB.com』のランキングではドラフト候補の72位に挙げられていた。そのとおりの順位だったら、ドラフト2巡目で指名されていたことになる。
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記憶を振り返れば、キャベッジは奨学金を得てテネシー大に進学する選択肢もあったので、予想より指名順位が低くなった可能性もある。高校からミネソタ・ツインズに入団した時の契約金76万ドルは、110位のスロットバリュー(設定金額)より25万ドル近く高かった。
高校時代は、遊撃手や三塁手として出場するだけでなく、投手としてマウンドにも上がり、さらにはバスケットボールもプレーしていた。ダンクシュートを決めた時にゴールのリムに両手でぶら下がり、ねじ曲げて壊したこともあるそうだ。外野を守ることもでき、昨年の夏にはライトでタイミングよくジャンプをして、フリオ・ロドリゲス(シアトル・マリナーズ)のホームランをもぎ捕った。身体能力の高さをうかがわせる。
【ドラフト1巡目で指名を受けた逸材】
西武に入団したタイラー・ネビン(前オークランド・アスレチックス/27歳)は、大谷とチームメイトになったことはない。けれども、エンゼルスを応援していたファンなら、その名前にピンとくるだろう。彼の父は、前エンゼルス監督のフィル・ネビンだ。
ネビン親子は、どちらもドラフト1巡目で指名を受けた逸材だ。父は1992年の全体1位、息子は2015年の全体38位。父は2000年に31本、2001年に41本のホームランを打ち、通算208本を数える。そのような背景もあり、息子もプロ入りから数年は父譲りのパワーを期待されていた。
『MLB.com』のジム・キャリス氏が2018年に書いた記事のなかで、息子が当時在籍していたコロラド・ロッキーズのファーム部長は「あの体格があるのだから、パワーを発揮するようになる」と語っていた。
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けれども、発揮できぬまま今日に至っている。メジャーリーグでは4シーズンの計192試合で12本塁打。マイナーリーグでも20本塁打以上を打ったシーズンはない。
ただ、日本でブレイクする可能性は皆無ではないはずだ。父がメジャーリーグで台頭し、初のシーズンふたケタとなる24本塁打を記録したのは1999年。当時(6月30日時点)28歳だった。
そして息子は今年5月、28歳の誕生日を迎える。選球眼は悪くないので、パワーヒッターとは違うタイプの打者として開花することもあり得る。2019年には『MLB.com』のトーマス・ハーディング氏の取材に対し、「父と僕のスウィングはかなり違う」とコメントしていた。
一方、エレフリス・モンテロ(コロラド・ロッキーズ→広島/26歳)は2023年の夏、メジャーで一度ブレイクしかけた。7月下旬以降の50試合で9本のホームランを打ち、打率.270、出塁率.328、OPS.817を記録。標高が高くてボールが飛びやすい「打者天国」のクアーズ・フィールドをホームとしていたとはいえ、OPSは.800を超えた。
【闇雲にバットを振らなくなった26歳】
しかし、開幕からメインの一塁手として起用された2024年は、67試合で打率.205、出塁率.267、4本塁打、OPS.571に終わり、7月を迎える前にマイナー降格となった。ただ、その後スリーAでは65試合で打率.309、出塁率.397、16本塁打、OPS.979と打ちまくっている。
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現在26歳の年齢からすると、あと少しだけ時間をかければアメリカでブレイクした気もする。2019年の開幕前には野球専門雑誌『ベースボール・アメリカ』のプロスペクト・ランキングで全体81位に挙げられていた。
また、2021年2月にノーラン・アレナドがロッキーズからセントルイス・カージナルスに移ったトレードで、交換要員として他4人とともにロッキーズへ移籍したあとは、闇雲にバットを振る「フリースウィンガー」から脱却しつつあった。日本に舞台を移し、再び成長曲線を描き始めても不思議ではない。
モンテロと日本でチームメイトになるサンドロ・ファビアン(テキサス・レンジャーズ→広島/26歳)は、過去のデータだけを見ると突出したツールは持ち合わせない。しかし、裏を返すと「欠点が少ない」という見方もできる。
オリックスに入団したジョーダン・ディアス(前オークランド・アスレチックス/24歳)も、パワーのポテンシャルはモンテロに勝るとも劣らない。メジャーリーグ2年目の2023年にはアスレチックスで90試合に出場して10本のホームランを打った。2024年はスリーAながら102試合で22本塁打を記録している。
数年前の『ベースボール・アメリカ』では、ディアスとレナート・ヌニエス(2022年に日本ハムでプレー)を比べていた。どちらもパワーを売りとする右打者で、プロ入りとメジャーデビューがアスレチックスという点も共通するからだ。
日本ハムでのヌニエスは63試合に出場して4本塁打という結果に終わったが、2019年はボルチモア・オリオールズで31本のホームランを打っていた。ディアスはまだ24歳。2019年のヌニエスより1歳若い。
【才能を開花させる助っ人は?】
ディアスとともにオリックスでプレーするエドワード・オリバレス(前ピッツバーグ・パイレーツ/28歳)は、2023年のシーズン終盤にカンザスシティ・ロイヤルズで爆発した。9月以降の22試合で6本のホームランを打ち、打率.329、出塁率.390、OPS1.047を記録している。
ロイヤルズからパイレーツへ移った2024年も、最初の9試合は打率.344、出塁率.382、3本塁打、OPS1.039と好調だった。第4の外野手というポジションではなく、常時出場できる機会を得ていれば、その後の失速はなかった可能性もある。
中日に入団したジェイソン・ボスラー(前シアトル・マリナーズ/31歳)は、マイナーリーグでシーズン20本塁打以上を5度記録している強打者だ。直近の2024年も119試合で31本のホームランを打っている。メジャーリーグでは通算107試合で10本塁打ながら、2試合連続が2回と3試合連続が1回と、突如大当たりしている点も見逃せない。
日本で才能を開花させた外国人選手は、過去の歴史を紐解いても枚挙にいとまがない。初来日したメンツのなかから、新たなスター助っ人は生まれるか。