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昨シーズン、セ・リーグの優勝争いが激化するなか、広島は8月終了時点で貯金13をマークし、首位を走っていた。2018年以来の優勝も視野に入っていたが、広島の戦いに疑問を呈し、「まだわからんぞ」と語っていたのが解説者の伊勢孝夫氏だ。その理由は「ムチを入れるのが早すぎた」こと、そして「今の打線は息切れする」というものだった。だが実際は、伊勢氏の予想をはるかに超える大失速で、優勝どころかAクラスさえ逃してしまった。その反省を生かすべく、広島はどのようなチームづくりに励んでいるのか。伊勢氏が宮崎・日南を訪れた。
【昨年9月以降の大失速の理由】
まず、昨シーズンの広島の8月末までと9月以降の成績を比較してみたい。8月末までは61勝48敗5分、チーム防御率2.25、1試合平均得点3.84。それが9月以降は7勝22敗、チーム防御率4.11、1試合平均得点2.92。
9月以降の数字の低下は顕著で、特に7勝22敗というのは異常とも言える。この原因について、名前は伏せるが、チームの中心を担うある選手はこう語った。
「ピッチャーで勝ってきたチームが、優勝が見え隠れし始めた途端、萎縮してしまったんです。もともと攻撃力が強いチームではなかったので、『なんとかして抑えなければ』という意識がピッチャー陣に広がってしまった。その結果、力のある球を投げ込めばいい局面でも、コースギリギリを狙うあまりカウントを悪くし、四球を出すか、痛打されるかという悪循環に陥ったんです」
たしかにピッチャーは、「今日の打線なら何点取ってくれるか」と計算しながら投げるものだ。4、5点の援護が見込めるなら、3点以内に抑えればいいと考える。だが、1、2点しか期待できないとなると、「1点も許せない」となり、窮屈な投球になってしまう。
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また、チームが失速した要因として、私が気になっていたのは「貯金の数」だった。8月が終わった時点で首位に立っていたものの、貯金は13。この数は、じつは首位としては決して十分とは言えず、2位以下の巨人や阪神に追いつかれる可能性は高いと見ていた。
結局、技術や作戦以前に、選手のメンタル面が影響を及ぼしたのだろう。実際こうなってしまうと、悪循環を止めるのは難しい。シーズン中、どのチームにも起こりうる"病気"のようなものだが、広島は不運にも大事なシーズン終盤にこの症状が出てしまった。
【長打力ある日本人選手の育成】
ただ、あらためて振り返ると、やはり外国人打者が合わせてホームラン1本という数字が示すように、この攻撃力では厳しい。これでは勝負にならないというのが、私の考えである。投手陣の信頼を回復させるだけの打力を向上させる必要がある。
しかし、日南キャンプで見た限り、残念ながら大きな期待を寄せられる打者は見当たらなかった。藤井彰人ヘッドコーチはふたりの新外国人選手に期待を寄せていたが、現時点で活躍するという保証はどこにもない。
日本にやってくる外国人選手は、大きく分けて2つのタイプがある。
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1.メジャー昇格の可能性が低くなり、日本で稼ぐことを目的に来る選手
2.出場機会を求め、日本で結果を残してメジャー再挑戦を狙う選手
1は日本の野球に適応できるかがカギであり、活躍するかどうかは紙一重。一方、2は意識が高く、さらに25歳前後の若手だと吸収力があり、日本で成功する要素を持っている。
広島は伝統的にハングリーな外国人選手を獲得する球団として知られているが、近年は当たり外れが多い印象だ。外国人選手がうまく機能すれば得点力アップは見込めるが、外れれば昨年のように得点力不足に悩まされてしまう。
では、得点力向上の打開策は何か。まずは長打力のある日本人打者の育成だ。昨年のチーム本塁打数は52本と12球団最少で、大谷翔平が放った数(54本塁打)よりも少なかった。相手バッテリーにプレッシャーをかける意味でも、長距離砲は必須である。
チームの主砲を任せられそうな選手を探していたら、ティーバッティングでの末包昇大の打球音はほかの選手と明らかに違った。昨年はケガもあって79試合の出場にとどまったが、フル出場すれば20本塁打以上は十分に期待できる打者だと思う。彼のような長打力のある打者が打線の中心に座れば、自ずと得点力が上がるはずだ。
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【起爆剤となりうる選手がほしい】
そしてもうひとつは、長打、アベレージとも突出したものはないが、どちらも平均的な数字を残せる選手がいる。わかりやすい例を挙げるなら、ヤクルトの塩見泰隆のような選手だ。一発に頼らなくても、こうした選手を複数育てることで打線の軸ができて、得点力アップが期待できるわけだ。
とはいえ、今の広島打線を見ると、遠くに飛ばせる選手の育成は急務だ。そこはドラフト戦略から見直すべきかもしれない。遠くに飛ばすパワーというのは鍛えればなんとかなるが、飛ばす感覚、ボールを捉える感覚というのは、なかなか教えられるものではない。
もともと広島は足と肩のある選手を重視する傾向があるが、一発が打てる選手を何人か獲ってもいいのでないか。足の速さというのも、打線に一発の怖さがあってはじめて効果を発揮するのだ。怖さのない打線では、機動力は発揮しづらい。とにかく、今の広島打線に必要なのは、起爆剤となりうる選手だと思う。
また、二軍の天福球場にも足を運んだが、汗を流すベテランたちの様子が気になった。田中広輔、松山竜平、上本崇司、會澤翼......。昨年は早い段階から3月中旬には一軍に合流すると伝えられていたそうだが、今季はまだそうした話はないという。つまり、ベテランであっても「力がない者は一軍に上げない」という新井貴浩監督の決意が感じられた。
おそらく、小園海斗、矢野雅哉、末包といった若手を中心に、チームを根本から変えようとしているのだろう。
評論家が1日視察しただけで何がわかるのか、という意見もあるだろう。もちろん否定はしない。しかし、たった1日でも明確に伝わってくるものはある。はたして、広島はどのようなチームになっていくのか。新井監督の采配に注目したい。