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サウジアラビアの首都リヤド近郊にあるキングアブドゥルアジーズ競馬場で催される競馬の祭典、サウジカップデーが2月22日(現地時間)に行なわれる。
そのメインレースとなるのは、GIサウジカップ(ダート1800m)。賞金総額2000万ドル(約30億円。1着賞金1000万ドル=約15億円)という世界最高賞金額を誇るレースに、今年も14頭の精鋭が集まった。
日本からは、フォーエバーヤング(牡4歳)、ウシュバテソーロ(牡8歳)、ウィルソンテソーロ(牡6歳)、ラムジェット(牡4歳)の4頭が出走する。
なかでも注目は、フォーエバーヤング。昨年の同祭典でのGIIIサウジダービー(ダート1600m)を快勝すると、GIIUAEダービー(メイダン・ダート1900m)も勝って、ダート競馬の本場アメリカのGIケンタッキーダービー(チャーチルダウンズ・ダート2000m)でも3着と奮闘した。
その後、日本でも地方交流GIで戴冠を遂げ、再びアメリカのGIブリーダーズカップクラシック(以下、BCクラシック。デルマー・ダート2000m)で3着と好走。本場のトップオブレースにおいて、かつての日本調教馬からは想像もできないような走りを披露してきた。
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同馬を管理するのは「世界の矢作」こと、矢作芳人調教師。今回のレースに向けては、前走の地方交流GI東京大賞典(12月29日/大井・ダート2000m)を勝利後、放牧に出さずに栗東トレセンで調整を続けてきた。その状態について、同調教師は自信をのぞかせる。
「デキで言えば、昨年のUAEダービーとBCクラシックが今まで一番よかった。今回は、それに匹敵する状態のよさですよ」
実際、レースを3日後に控えた2月19日の朝には、坂井瑠星騎手を背にしてダートコースを疾走。僚馬のミストレスを5馬身ほど先行させ、3コーナー付近から徐々に加速していって、最後の直線でミストレスとの差をジワジワと詰めてゴール直後に一気に抜き去った。その走りに、坂井騎手も確かな手応えを得たようだ。
「リードホース(ミストレス)が速かったので、ちゃんとした併せ馬にはなりませんでしたが、前に馬がいてくれた分、最後まで集中して走れていました」
今回のサウジカップでは当初、先に触れたアメリカでの2競走でフォーエバーヤングに先着したシエラレオーネや、一昨年のBCクラシックの覇者ホワイトアバリオといった超強力なメンバーとの対戦が予定されていた。しかし、これらの有力馬が次々に回避。その結果、海外の主要ブック―メーカーではフォーエバーヤングが1番人気の評価を集めることになった。
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無論、矢作調教師はそうした評価、期待にも応えるつもりだ。
「(強い有力馬の相次ぐ回避に)ちょっと残念だよね。アウェーでは負けたけど、中立地(で行なわれるサウジカップ)では負かしてやろうと思ってましたので」
ただ、そんな矢作調教師が「(初ダートがどうか)わからないとしか言いようがないけど、強いのは間違いない」と警戒する馬がいる。香港から参戦するロマンチックウォリアー(せん7歳)だ。
現在8連勝中のロマンチックウォリアー。うち、GIが7勝。日本にも遠征して、GI安田記念(東京・芝1600m)で戴冠を遂げた。後続との着差はそれほど大きくなかったものの、"モノの違い"を感じさせる走りを見せつけた。
前走では、ドバイに遠征。GIジェベルハッタ(メイダン・芝1800m)をコースレコードで圧勝してきた。そんな同馬が今回、世界最高賞金額を目標に捉えて、初ダートながら果敢に挑戦してきた。管理するダニー・シャム調教師が言う。
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「サウジのダートは、地元香港の調教でも使うオールウェザーと同じく、砂と木皮の混合物。そういう意味では、レースとは別ものではあるけど、まったく未経験の馬場というわけではありません。いずれにしても、今回(の出走)は香港競馬にとっても大きなチャレンジです」
実のところ、血統的な裏づけがないわけではない。キングアブドゥルアジーズ競馬場のダートは、かつてドバイワールドカップが行なわれていたナドアルシバ競馬場のダートと質感的に似ている。そして、ロマンチックウォリアーの母の父ストリートクライ、母の母の父シングスピールは、いずれもナドアルシバ競馬場でのドバイワールドカップの勝ち馬なのである。
また、不気味なのはロマンチックウォリアーの主戦を務めるジェームズ・マクドナルド騎手だ。前走のメイダンでは当地初騎乗ながら、ロマンチックウォリアー以外にも2勝を挙げた。
それゆえ、シャム調教師も全幅の信頼を寄せ、「今回は金曜日の騎手招待競走でも(マクドナルド騎手は)騎乗するので、(サウジでの競馬が)完全な初物ではないのも心強い」と、大一番への期待を膨らませる。
日本を代表する若きダート王と、香港が誇る芝中距離の英雄。交わること自体が奇跡とも言える世紀のマッチアップは、どういった結果となるのか。歴史的な瞬間から目が離せない。