“魔改造”でSEの魂を受け継いだ「iPhone 16e」 不安要素は「価格」「ライバル」「対応バンド」にあり

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2025年02月22日 09:41  ITmedia Mobile

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Appleは、20日未明にiPhone 16eを発表した。iPhone 16シリーズの廉価モデルという位置付けで、事実上のiPhone SE後継機とみられる

 Appleは、2月20日未明に「iPhone 16」シリーズの廉価モデルとなる「iPhone 16e」を発表した。命名規則は異なるが、事実上、「iPhone SE(第3世代)」の後継機になるとみられる。プロセッサを最新モデルに合わせて処理能力を維持しながら、過去に販売されたモデルを部分的に組み合わせて価格を落としている特徴が、これまで投入してきたiPhone SEとの共通点だ。


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 一方で、機能性が高まったこともあり、ドル建てでの価格はやや上がっている。ここに円安ドル高の為替相場が直撃し、日本での価格は9万9800円(税込み)まで上がっている。割賦の審査を簡易化できる10万円は下回ったものの、廉価モデルとしては、過去最高の価格設定だ。処理能力との対比では依然として高コストパフォーマンスながら、価格以外にも不安要素はある。大ヒットしたiPhone SE(第3世代)に続く1台になるのか、その行方を占っていく。


●一部仕様を省きつつ処理能力は上位モデル並みを維持、“SE”の魂は健在か


 iPhone SEと同じ廉価モデルとして販売されるiPhone 16eだが、Appleは、その路線を軌道修正していることが分かる。従来のiPhone SEは、コンパクトでかつリーズナブルな価格設定を特徴としており、ナンバリングモデルでは「iPhone 8/8 Plus」で打ち止めになっていたホームボタンを継続搭載していた。これに対し、iPhone 16eのサイズは、iPhone 16に近く、コンパクトさでの差別化は図られていない。


 名称がiPhone 16eになったことから、より、現行モデルの廉価版という色合いが濃くなった。命名規則は、数字の後に「a」を付けているPixelに近いといえる。iPhone SEは数年にわたって継続販売していくモデルだったが、発売年とひも付けられやすいナンバリングを使ったことで、モデルチェンジの頻度が上げていく可能性もありそうだ。


 コンパクトさやホームボタンという特徴は失われた一方で、商品企画の観点では、iPhone SEとの共通性もある。1つ目は、過去に販売されたiPhoneを“魔改造”的に踏襲していること。例えば、ディスプレイは有機ELだが、iPhone 15シリーズで標準仕様になった「Dynamic Island」を搭載しておらず、形状は2世代前の「iPhone 14」に近い。ただし、カメラは48メガピクセルの単眼で、筐体はデュアルカメラを搭載していたiPhone 14とも異なる。こうしたモノ作りの仕方は、iPhone SE的ともいえる。


 筐体はiPhone 14に近いと書いたが、「アクションボタン」を採用しているところは、iPhone 16寄りだ。iPhone 16シリーズに共通採用された「カメラコントロール」は搭載されていないが、アクションボタンをカスタマイズすることで、カメラの起動やシャッターとして利用できる。また、Apple Intelligenceのビジュアルインテリジェンス(カメラで写したものや風景を検索する機能)も、iPhone 16eでは、アクションボタンに割り当てられる。


 これらに加え、最新モデルにプロセッサをそろえ、処理能力をそろえているのが、iPhone SEから受け継いだコンセプトだ。iPhone 16eに搭載されたのは、「iPhone 16/16 Plus」と同じ「A18」で、ベースとなるCPUの性能は近い。GPUは「iPhone 16 Pro/Pro Max」に搭載された「A18 Pro」より1コア分少ないが、それでもハイエンドモデルと呼べるほどパフォーマンスは高い。実際、iPhone 16eの発表とほぼ同時に公開された製品発表動画では、ゲームが滑らかに動く様子がアピールされていた。


 結果として、廉価モデルながら、iPhone 16シリーズや「iPhone 15 Pro」シリーズと同じく、Apple Intelligenceにも対応できている。シングルカメラのため、他のiPhone 16シリーズほど画角にこだわった撮影はできないものの、手ごろな価格で手に入るiPhoneでApple Intelligenceを使ってみたいというユーザーには、うってつけの端末といえそうだ。現時点ではメモリ容量は非公開だが、オンデバイスのAIを駆動させるため、この部分もiPhone 16/16 Plusとそろえている可能性がある。


●高機能化と円安のダブルパンチで価格は高騰、リセールバリューは?


 その分、iPhone SE(第3世代)より価格は上がってしまった。iPhone SE(第3世代)は5万7800円(64GB版)からで、iPhoneとしては破格の安さだったのに対し、iPhone 16eは9万9800円(128GB版)からと、よりハイエンドモデルらしい価格設定になっている。iPhone SE(第3世代)にあった64GB版がないため、ストレージ容量をiPhone 16eの最小構成である128GBにそろえても、発売当初の価格は6万3800円から9万9800円の値上げになっている。


 仕様面が充実したことが1つと、円安ドル高の為替相場が反映されたのが、その理由とみていいだろう。前者は、為替の影響を受けづらい米国での価格から推察できる。iPhone SE(第3世代)の128GBは、米国でiPhone 16e発表の直前まで、479ドル(米国価格は税別、以下同)で販売されていた。これに対し、iPhone 16eは599ドルと、120ドルほど値上がりしている。iPhone SEのような格安販売はやめ、よりスタンダードモデルに近づけたというわけだ。


 ただし、iPhone SE(第3世代)の発売時点よりも為替相場が大きく円安方向に振れているため、日本での値上げ幅は3万6000円にもなっている。直近の価格である6万9800円との比較でも、値上げ幅は3万円になる。120ドル(現時点で約1万8000円)以上の値上げだが、これは、iPhone SE(第3世代)に直近の為替レートが反映されていなかったためだ。日本では、意図的に安く販売していたといえる。


 対するiPhone 16eは、現時点での相場に近い為替レートが設定されている。2月21日時点の為替相場をそのまま当てはめると、599ドルは約9万円。9万9800円から消費税を除いた9万727円に限りなく近づく。機能性の向上だけで価格が上がった米国に対し、日本では為替相場の反映も値上がりの大きな要素といえる。円安ドル高はコントロール不能な要素で、Appleにとっても不運だったが、以前のように、気軽に買えるハイエンドモデルではなくなってしまったのは少々残念だ。


 もっとも、iPhoneはリセールバリューが高く、キャリアの残価設定型購入プログラムで免除できる金額は大きくなるため、実質価格は抑えやすい。免除できる残価の基準となる買い取り価格を公表しているリユースモバイル・ジャパン(RMJ)の資料によると、先代のiPhone SE(第3世代)、128GBは、24カ月目で3万9009円の買い取り価格がついている。発売時点での価格を元にした残価率は約61%。同じ基準でiPhone 16eを下取りに出せれば、6万円程度は免除できる計算になる。


 さらに、キャリアには最大4万4000円までの割引が認められている。ここまで加味すれば、価格を毎月1円程度まで下げることも不可能ではない。一括で買える気軽さは失われてしまったが、端末購入プログラムであれば、比較的、負担を抑えることができる。シングルカメラとはいえ、プロセッサにA18を採用した端末としては十分リーズナブルに提供できるというわけだ。


●ライバルはiPhone 16? 対応バンドも不安要素に――コンパクトiPhone好きに受け入れられるか


 実際、auは「スマホトクするプログラム」で、MNP利用時の価格を2年実質47円に設定。ドコモも、MNPで契約した際に、上限に近い4万2900円の割引を出し、「いつでもカエドキプログラム」と合わせることで実質価格を1210円まで抑えた。ソフトバンクは当初、MNPで2万4960円をつけていたが、予約開始直後に価格を改定し、新規契約やMNPで「新トクするサポート(スタンダード)」を利用した際の実質価格を24円まで引き下げた。


 とはいえ、端末の下取りを前提にした実質価格で見ていくと、ノーマルモデルのiPhone 16も十分手に取りやすい価格で販売されている。例えば、ソフトバンクのiPhone 16は新規契約/MNPの場合、24回目までの月額代金が652円に抑えられており、総額でも1万5648円だ。この程度の差であれば、より性能が高く、カラーバリエーションにも富んだiPhone 16を選ぶ人も少なくないはずだ。iPhone 16の取り扱いがないUQ mobile、Y!mobileでは武器になるものの、メインブランドで主力になるかというと、そこには疑問符も付く。


 もう1つの不安要素が、LTEのBand 11/21(いずれも1.5GHz帯)に非対応なこと。Appleは、iPhone 16eからモデムを自社製の「Apple C1」に切り替えたのと同時に、展開国ごとに分けていたモデル数の数を減らしている。iPhone 16シリーズだと、日本で販売されるモデルはカナダや米領グアムやサウジアラビア、カタールなどと同一型番で、欧州や東南アジアなどで展開されるモデルとは分かれていた。これに対し、iPhone 16eでは、日本が欧州や東南アジアなどと同一のモデル数にまとめられている。


 結果として、日本向けのモデルが対応していたBand 11/21が非対応になってしまった。新しいモデムが原因なのか、コストカットのためにモデル構成を見直したことが原因なのかは定かではないものの、結果として、都市部でトラフィックをさばくために使う周波数の1つが使えないことになった。特に影響を受けそうなのが、ドコモだ。同社のBand 3(1.7GHz帯)は東名阪でしか利用できず、それ以外の地方都市はBand 21に頼ることが多い。Band 3が利用可能な東名阪でも、トラフィックを分散させるため、この周波数帯が活用されている。基地局数は、2024年3月時点で3万を超える。


 総務省の有識者会議で明らかになったように、ドコモがメーカーに求める対応周波数は、「必須」「推奨」「任意」の3つに分かれており、他の端末の対応状況からは、Band 21は推奨に分類されることが推測できる。そのため、価格の安いエントリーモデルでは、Band 21の導入が見送られることもある。とはいえ、10万円近いハイエンドモデルが非対応なのは異例だ。


 特に同社は都市部でのネットワーク品質低下に苦しんでおり、トラフィックが特定の周波数に偏ることはなるべく避けたいはずだ。その端末の通信がしづらくなるだけでなく、逼迫(ひっぱく)した周波数を使う他の端末にも影響を与える可能性もある。キャリアによって温度差はありそうだが、Band 11/21が欠けているのは、キャリアが“推し端末”にしづらい要素になりかねない。


 また、iPhone SEはコンパクトさや押すだけでホーム画面に戻れるホームボタンやTouch IDが売りの1つだったが、iPhone 16eからは、こうした特徴がなくなっている。外観的にはより標準モデルに近づいた半面、こうした美点を評価していたユーザーが買い替えに走るかが読めない。大胆にコンセプトを変更し、機能だけなく外観まで刷新したiPhone 16eだが、iPhone SE並みのヒットにつながるかは未知数といえそうだ。



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