16年ぶりに活動再開の名門・日産自動車野球部 公立大出身の無名左腕・友野聡太の軌跡

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2025年02月23日 07:30  webスポルティーバ

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 かつて社会人野球の最高峰である都市対抗野球で2度優勝を果たした日産自動車が、15年の休部を経て今年復活を果たした。2月17日には神奈川県横須賀市の追浜工場で新体制発表記者会見が行なわれ、活動再開1期生となる22名もお披露目された。

 実績のある選手から経験の少ない選手までさまざまだが、そのなかで異色の経歴を持つのが左腕の友野聡太だ。

【練習メニューは自ら作成】

 友野は神奈川大学2部リーグに所属する部員22人(2024年度)の横浜市立大出身で、横浜市鶴見区で生まれ育った生粋の"ハマっ子"だ。

 寺尾中では軟式野球部に所属するも「左投手が3人いるなかのひとり」で、県立横浜平沼高時代は「最高で県3回戦、球速は130キロ出るか出ないか」という、特に目立つ存在ではなかった。

 だが、横浜市立大の臼杵大輔監督は「体が大きく、いいフォームで投げている。社会人野球でもプレーできる選手だと思いました」と素質を見抜き、声をかけた。そして友野は受験勉強に励み、一般受験で合格して入部を果たした。

 友野にとって大きかったのは、横浜市立大の環境が合っていたことだ。

「やらされるのではなく、自分で考えて練習するスタイルで、投手も各自の判断に任されていました。だから練習メニューは自分でつくっていました」

 臼杵監督が自営業を営んでいるため、指導するのは主に土日のみと、学生主体の練習が圧倒的に多かった。また、部員数が少なかったこともあり、下級生の頃から多くの登板機会が与えられた。そのなかで試行錯誤し、自らの成長方法を確立していった。友野が振り返る。

「最初はSNSを活用して情報を集め、いろいろと試しました。しかし、うまくいかないことのほうが多く、体系的な知識にはなりませんでした。でも3年生になってから、SNSで見つけた岩松知毅さんの指導を受けるようになりました。ひとりの指導者にしっかり学ぶことで、より精度の高い練習ができるようになりました」

 その成果は顕著に現れ、4年春にはストレートの球速が140キロを超えるまでに成長。リーグ戦では優勝こそ逃したものの、防御率1.70の好成績を収めた。さらに昨年8月15日の神奈川県野球交流戦で、DeNAの二軍と対戦する神奈川大学リーグ選抜に2部リーグから唯一選出された。

 この試合で友野は、同点の8回二死一塁の場面で登板。右打者に対し、得意のクロスファイヤー(利き腕の対角線に投げるストレート)を駆使し、ショートゴロに打ちとる見事な火消しを見せた。

【強みはストイックに取り組めること】

 この試合を観戦していたのが、2025年の野球部復活に向けて選手の採用を担当していた日産自動車の伊藤祐樹監督だった。伊藤監督は以前にも友野の練習を視察し、「球に力があり、指先の器用さを感じました。持っている力を発揮できれば、十分に社会人野球で通用する」と評価していた。そしてこの試合での堂々としたピッチングを見て、採用を決断したという。

 プロ選手を相手にした、いわば"最終トライアウト"のような状況だったが、友野は「マウンドに上がってしまえば、緊張はしませんでした。楽しいといったら変ですが、ワクワクしました」と強心臓ぶりを発揮し、復活する名門の扉をこじ開けた。

 内定後、秋の2部リーグで圧巻の投球を披露。9月15日の鶴見大戦では、9回を投げて3失点、15奪三振の快投を見せた。試合には敗れたが、1部リーグの経験がある相手に対して、キレのいいストレートで押し、スライダー、カーブを見せ球にし、決め球にはブレーキの効いたチェンジアップが冴え渡った。また、「ストライクゾーンが広めだったので......」と球審の特徴を把握し、ゾーンを広く使う頭脳的な投球も展開した。

 日産自動車に入部するにあたり、強豪校出身の選手や強豪社会人チームとの対戦について、「レベルの高い環境でプレーすれば、自分の能力もさらに向上すると思うので、とてもワクワクしています」と、新たな挑戦に期待を膨らませた。

 これまでまったくの無名だった自身の球歴についても、友野は前向きに捉えている。

「卑下することなく、誇りを持ってやっていきたいです。自分の強みはストイックに取り組めること。やらされる野球ではなく、常に自ら野球に向き合ってきました」

 その原動力は、「努力すれば成果が出るのが面白い」という思考だ。

「勉強もそうですが、あまりマイナスに考えることはありません。僕は、自分を信じ込ませる力が高いと思っています(笑)。固定概念には縛られたくない。"受験勉強はつらい"と言われますが、実際になぜつらいのかを明確に説明できる人は少ない。『別につらいものではないのでは?』と捉えれば、楽しいことも見つかります。今は野球で自分の限界に挑戦したいです」

 これまで歩んできた道が、友野にとっての大きな武器となる。復活した名門野球部で、どのような投球を見せてくれるのか。友野の活躍が日産自動車だけでなく、多くのアマチュア選手の希望になることを期待したい。

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  • この時期に再開とは。会社自体が無くなりそうなのに。
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