『呪術廻戦』なぜ乙骨憂太は五条悟のために命を賭けたのか 最終巻で描かれたエピローグの意味

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2025年02月23日 08:00  リアルサウンド

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©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

※本稿は『呪術廻戦』最新話までの内容を含みます。ネタバレにご注意ください。


  『呪術廻戦』の乙骨憂太といえば、呪術師らしからぬ温厚な人柄の持ち主だが、作中では何度か激高するシーンが描かれていた。そのとき感情のトリガーになっていたのは、決まって“大切な誰か”の存在だ。


(参考:【写真】『呪術廻戦』リアルに再現した五条悟のフィギュアを見る


 本編終盤の「人外魔境新宿決戦」では、乙骨は五条悟のために感情を迸らせ、自分の命を賭けるほどの覚悟を示していた。それでは五条は乙骨にとって、いかなる存在だったのだろうか。


  2人の出会いはまず、本編の前日譚『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』にさかのぼる。乙骨は“呪い”の力によってクラスメイトに重傷を負わせてしまい、自責の念から外界との関わりを断ち、1人で生きていこうとしていた。しかしそこで五条は「1人は寂しいよ?」と声をかけ、乙骨を呪術高専に通わせることで、なかば無理やり他人との関わりを作ってやる。


  そして乙骨は呪術師としての力を身につけつつ、禪院真希や狗巻棘、パンダという仲間を得ることで、この世界における居場所を見つけるのだった。すなわち乙骨にとって五条は、自身を孤独から救い出してくれた恩人ということになるだろう。


 「人外魔境新宿決戦」における乙骨の行動も、そうした関係性から見ると理解しやすい。この戦いで乙骨は、コピーしてあった羂索の術式を使い、すでに死んでいる五条の肉体へと“意識の乗り換え”を行った。簡単にいえば死体の乗っ取りであり、一種の禁忌をおかすような行為であることは言うまでもない。


  当然、決戦前の作戦会議では周囲から猛反対を受けるものの、そこで乙骨は逆に怒りをあらわに。これまで自分たちが「怪物になること」を五条1人に押し付けてきたとして、今度は自分が人間性を捨てて怪物になることを宣言するのだ。


  なお第261話の回想シーンでは、呪術総監部を襲撃しに向かう五条の姿を乙骨たちが見届けている姿も描かれていた。そこで乙骨は「もう独りで怪物になろうとしないでください」と声をかけており、どこまでも五条に寄り添おうとしていたことが見て取れる。


  五条が自分に生きる居場所を与えてくれたのと同じように、今度は彼を孤独な世界から救い出したい……。おそらくはそれが乙骨にとっての恩返しだったのだろう。


五条を“解呪”しようとしていた乙骨


  また乙骨と五条の関係は、別の視点から捉えることもできる。というのも2人はいずれも、“死者との関係に囚われていた”という共通点があるからだ。


 前日譚で描かれた内容だが、当初の乙骨は交通事故で亡くなった幼馴染み・祈本里香が“特級過呪怨霊”としてとりついているという設定だった。しかしその後、実際には乙骨の側が呪いをかけていたことが判明。大切な人の死を受け入れることができず、無意識のうちに彼女を現世に繋ぎとめていたのだった。


 これに対して五条は、夏油傑との過去に囚われ続けていた人物だ。かつて親友だった2人は、呪術高専時代に決別し、夏油は“非術師のいない世界”を作ろうとする呪詛師となった。この出来事が五条に与えた影響の大きさは計り知れない。それまで五条は自分だけが強くなることを意識し、自身の術式を磨き上げることに邁進していたが、一転して呪術高専の教師となり、すぐれた仲間を育てることに心血を注ぐようになった。


 ポジティブな変化ではあるかもしれないが、この影響関係は一種の“呪い”だったと言うこともできるだろう。実際に五条は、最後まで“夏油に置いていかれた”という気持ちを振り払うことができていない。呪術総監部の抹殺を行ったのも、教え子たちのためという方便はあるものの、両親や非術師の村人を皆殺しにして“怪物”になった夏油に追いつくための手段だった。


 すなわち、乙骨と五条はいずれも身近な人と呪い、呪われる関係に生きていた。しかし乙骨が祈本里香との関係を文字通り“解呪”したのに対して、五条は呪いから解放される機会を持たなかった。だからこそ乙骨は、強い決意をもって五条に寄り添おうとしたのではないだろうか。


 その試みが実を結んだかどうかはともかくとして、単行本30巻に収録されたエピローグでは、2人の関係に1つの結末が与えられている。最終決戦の後、乙骨が五条家の当主代理になったことが明かされているのだ。数十年後、五条家の屋敷では乙骨の孫たちが五条の教え子であるパンダと邂逅を遂げており、孤独とはほど遠い賑やかな悲鳴が響き渡っていた。


 メインストーリーの裏側で、綿密にその心理が描き出されていた乙骨と五条。2人の関係性については本編で描かれなかった部分も多いので、今後作者・芥見下々が何らかの形で補完してくれることにも期待したい。


(文=キットゥン希美)



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