画像はイメージです円安に伴い、各地でインバウンド消費が加速度的に増えている。特に、今年の冬は雪質のいいスキー場や温泉地などに外国人観光客が大量に押し寄せ、コロナ禍で落ち込んだ観光業界にとっては恵みの雨となった。
ただ、文化も価値観も違うわけだから、各地でさまざまなトラブルが勃発。現場の人々は、これまでになかった対応に迫られるようになっている。今回、外国人観光客との間で発生したやっかいな出来事について明かしてくれたのは、須藤真一さん(仮名・30代)。彼は、スキー場の近くで温泉旅館を経営する一族の人間で、現在は専務として施設の運営に携わっている。
◆過去最高の売り上げをたたき出すも…
「コロナ禍のときは廃業を覚悟したくらいに需要が落ち込んで。売り上げは9割減となり、お客さんがほとんど来ないので、半数の従業員に辞めてもらったほどです。しかし、コロナ禍が明けてから、まずは日本人の観光客が復活しはじめ、昨年からは海外のお客様が急増。今年の3月末までは平日でも予約でいっぱいの状況です。ここ数年のマイナスを取り戻しただけでなく、過去最高の売り上げの見込みになっています」
◆熱いお風呂が苦手だから…湯舟に水を入れて冷ます暴挙
須藤さんの旅館は売り上げが驚異的に伸びた。これにより、退職した従業員も再雇用でき、インバウンド需要をしっかりと受けることに成功したといえる。だが、諸刃の剣でもあった。これまでにはなかったトラブルが続々と降り掛かってきたそうだ。
「どうやら欧米人の方は熱いお風呂が苦手な傾向にあるようで……。温泉の温度が熱すぎるという苦情が殺到して対応に苦慮しました。なかには、湯舟に水を入れて冷まそうとされたことも……。このままだと昔からの常連さんで、贔屓にしてくださっている日本人のお客さんが離れてしまうのではないかと心配しています。英語で注意書きを書いた張り紙を出しているのですが、あまり効果はない状況です」
館内の利用方法でもトラブルが起きるケースが多いそうだ。
「時差がある国からいらっしゃるお客さんは、周囲を気にせず深夜でも普通に大騒ぎしていました……。体の大きい海外のお客さんに注意するのは怖いですし、警察沙汰にするのも信頼にかかわるので行いたくなく、ほとほと困り果てています。せっかく復職してくれた仲居さんのなかには、『海外のお客さんの相手をしたくない』と辞めてしまった人も。日本人のお客さんは、常識的で優良な客だったんだなとつくづく実感しています」
◆スキー場で立ちションする人も…
売り上げはアップしたものの、外国人観光客の対応に四苦八苦している須藤さん。こういったトラブルは、旅館だけでなく近隣のスキー場でも日常茶飯事に起きていると教えてくれた。
「近くのスキー場はスノーボーダーに人気が高いのですが、海外のお客さまはコース外のバックカントリーが目的の場合も多くて。各地でバックカントリーをして怪我や死亡するケースが増えていますが、付近のスキー場でもトラブルが起きています。遭難だけでなく、いきなり禁止区域からコースに戻って来るスノーボーダーもいて、普通に楽しんでいるお客様に迷惑をかけています。また、リフトから途中で降りたり、平気で立ちションする人なんかも……。日本人客からかなりの数の苦情が出ていて、対応に困っていると聞きます」
◆海外のお客さんは1割程度でいい
こういったトラブルは、各地で起きているのだろうと須藤さんは説明してくれた。
「他県で旅館を運営する知り合いの経営者に聞いても、同じような悩みを抱えている。でも、どうやって対処したらいいのか、誰もわからない状況です。お客さんが来てくれるだけでありがたいのですが、このまま外国人のお客さんが増え続けたらどうなるのか不安です。旅館をこれまで支えてくださったのは日本人のお客さんですし、贅沢を言えば海外のお客さんは1割程度でいいのが本音。当館でも前述の張り紙や、旅行代理店に事前に説明してもらうなど、対策は練っていますが、どこまでマナーが向上するのかは未知数です」
日本を訪れるすべての外国人がマナー違反をするわけではないだろうが、このままだと受け入れる旅館やホテルの従業員は、どんどん疲弊していくことになりそうだ。
<TEXT/高橋マナブ>
【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている