現役東大生のKさん―[貧困東大生・布施川天馬]―
「正直、最初は『居酒屋のくせに生意気だな』と思うところはありましたよ(笑)なんで東大の自分が、って」
今年東京大学を卒業するKさん(仮名)は、笑いながらそう振り返る。彼は、都内有数の進学校から東京大学に現役で進学した「スーパーエリート」。それにもかかわらず、大学在学中には5件以上の居酒屋、レストランのバイトを落とされたという。
見た目は清潔でこざっぱりとしており、物腰も柔らか。口調の端々からは知性と教養を感じさせる彼が、いったいどうして落とされたのか。
◆「君にはうち向いてないと思うけどね」と一蹴された
「当時は地域活性化のボランティア活動に精を出していました。もちろん学業と両立するには時間が足りず、どうしても夕方から夜にかけての時間帯にバイトを入れたかった。それに、飲食業界はキツイと聞いていましたが、どれくらいキツイのか気になったんです」
「当時は箱入り娘ならぬ箱入り息子だった」と振り返る彼は、バイトに金策ではなく社会勉強の側面を求めた。サラリーマン家庭に育ち、両親からは甘やかされたが「自分もいつかは社会の荒波にもまれる」と恐怖におびえる毎日。
大学を出て、社会人になってから荒波に飛び込んだのでは、もう遅い。まだ学生のうちに、多少の失敗があっても目にかけてもらえる身分のうちに、キツイ環境に身を置かんと選んだのが飲食業だった。
だが、世間はそんな彼を冷たくあしらった。
「2件は連絡を入れたのに返事すら返ってきませんでした。面接にたどり着けたお店でも、大分高圧的な態度で圧迫面接されました。ずっと黙ってこちらをにらみつけていたかと思えば、いきなりため口で『君にはうちは向いてないと思うけどね』と一蹴されて。
そうかと思えば『君は、これからの飲食業はどうなると思う?』とか『従業員の働き方についてどんな意見をもっている?』とか、ふわっとした質問を投げられました。
当時の僕はまだ勉強不足でしたし、今でも専門は経営学ではないんです。そんな時に、ビジネス論の話を投げられても、困るというのが本音でした」
◆東大生への世間の反応が冷やかになる瞬間
「東大生だからと言って、なんでもできると思われては困る」。これは、東京大学に籍を置いたものならば、誰もが一度は感じたことのある感想ではないだろうか。世間では東大生の超人ぶりをもてはやす記事や番組であふれているが、全員が万能の天才ではない。
東大生だって知らないことはあるし、わからないことはある。だが、そういった反応を返したときの世間の反応は冷ややかだ。「東大生のくせに、わからないの?」「勉強不足なんじゃないの?」。質問者は、自らの不勉強を棚に上げて、東大生を叩く。
彼は自らの敗因について「まじめすぎた」と振り返る。
「服装は指定通りのオフィスカジュアル。もちろんしっかり洗濯してパリッとした服を着ていきました。遅刻ももちろんせず、10分前には集合済み。ため口で話し始めることもせず、丁寧すぎるくらいに敬語を使いました。
ただ、これらがオーナーさんに『自分とはウマが合わないな』と感じさせてしまったのではないでしょうか」
◆東大生の「秀でている部分」はどこなのか
東大生の秀でている部分は「まじめさ」だ。毎日家に帰ってから1時間、2時間の勉強を続ける生活を、高校1年生から積み重ねた人ばかりが東大に受かる。天才の大学ではなく、秀才の集まる大学なのだ。
だが、実際に東大生を雇いたくないとする経営者もいるだろう。下手に頭が回る分、対応がめんどくさい。それに、「まじめすぎる」ことが、融通の利かなさを想起させる。今回のケースでは、「まじめさ」が悪い方向へと働いてしまったようだ。
塾講師のバイトは時給こそ高いが、実働時間が短くて一日に稼げる額が少ないうえに、拘束時間のうちのサービス残業の割合が大きく、ブラックになりやすいなどの理由から、最近は東大、早慶生からも避けられがちだ。そういった高学歴の学生たちは、社会勉強も兼ねて飲食バイトを狙う傾向がある。
「馬鹿と鋏は使いよう」ということわざがある。いくらテストで点数がとれても、社会経験のない高学歴の学生たちは、時に経営者から「愚か者」とみられる時もあろう。だが、このはさみは使い方次第でよく切れる。
「高学歴で無能な部下」も、扱い方を考えてみてはいかがだろうか。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)