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ロンドンで開催されたF1史上初の合同発表会を終えた翌日、角田裕毅(レーシングブルズ)はイタリアのイモラで2025年型マシンVCARB 02のステアリングを握り、シェイクダウンを行なった。
「純白のレッドブル」とも言える印象的なカラーリングをまとい、サイドポッドはレッドブルの昨年型RB20と同じ、攻めたコンセプトを採用。フロントウイングは昨年の最終戦アブダビGPの金曜にトライした完全新型となり、前後サスペンションもRB20と同じものをカスタマー購入している。
昨年型マシンからの正常進化型ではあるが、昨年型の課題であったドラッグ低減とマシン挙動のマイルド化を追求し、ドライバーが限界まで攻めて走ることのできるマシンへと進化しているはずだ。
新人イザック・アジャ(フランス/20歳)をチームメイトに迎えて挑む新たなシーズンに向けて、角田はチームリーダーとしての成長が自分の目指すべき目標だと語った。
「今年は特にリーダーシップ面をドライバーとして確立したいと思っています。チームリーダーとしてどんな振る舞いをするか、チームに対してどういう有益な情報を確実に効率よくフィードバックできるか。特に難しいレースになった時、僕がどういった振る舞いができるかが重要になってくると思うので、そこを意識してやっていきたいと思っています」
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周知のとおり、角田は昨年末にレッドブルのドライバー候補となりながらもチャンスが与えられず、2026年の契約は保持していない。ジュニアチームで6年目のシーズンを迎えることに対してクリスチャン・ホーナー代表が消極的なコメントを発するなど、角田としては苦しい状況にある。
それを打破してF1の世界に残り、さらに上を目指すためにも、この2025年は極めて重要なシーズンになるということは角田自身もよくわかっている。だからこそ、中堅ドライバーとしての価値を示す必要があると感じているのだ。
【ローソンの成績が振るわなければ...】
「レッドブルでもレーシングブルズでもやることは同じで、自分自身の力を証明しなければならないことに変わりはないです。このチームではリーダーシップを発揮するという、今までに経験したことのない違ったステージで結果を出す必要があります。
レッドブルがリアム(・ローソン)を選んだ理由は理解していますし、自分自身にコントロールできないことは(くよくよ考えても)仕方がない。できることをやり続けるしかないと思っています。まだ希望は捨てていないですし、やるべきことに集中して、F1界全体に対してさらに自身の力を証明していきたいと思っています」
角田はレッドブルのリザーブドライバーとして指名されており、次の若手はまだF1ドライブ経験が十分でなくタイヤマネージメントなどを学ばなければならない段階であるため、レギュラー陣に不測の事態があれば、角田がレッドブルのシートに収まることになる可能性が高い。不測の事態というのは、もちろん急病のみならず、成績不振というのも含まれる。
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その場合、交代という決断に至るには、角田自身が目覚ましいパフォーマンスを発揮していることも条件になるだろう。そして、角田はレッドブルに残ることが第一目標と語るが、昨年同様に他チームからのオファーを受けるためにも、さらに成長した姿をアピールすることが重要になる。それがレッドブルに対するアピールとプレッシャーにもなるのだ。
「僕としてはもちろん、レッドブルファミリーに残りたいと思っています。レッドブルに昇格できれば最高ですし、そうでなかったとしても、このチームにはもう5年もいてチームの全員との絆を感じているので、このチームの一員でいたいと思っています。
チームの全員が同じ方向を向いていて、僕に対して大きなサポートをしてくれていると感じます。自分がやるべきことをやって成長していくうえで、それがとても大きいと思っています」
【RB代表も角田の昇格に太鼓判】
チームとしても、昨年はチームCEOとチーム代表、現場オペレーション技術首脳陣の顔ぶれが変わり、組織の強化を進めてきた。
さらに、マクラーレンやFIAにいたティム・ゴスがチーフテクニカルオフィサーとして加わった。15年近くいたイギリス・ビスターの空力開発拠点は手狭になったため、レッドブルのファクトリー敷地内へと移転して今後はレッドブルの新型風洞を利用するなど、これまで以上の提携強化を進めている。
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イギリスの拠点が単なる空力部門ではなく規模を拡大することで、イギリスに多くいる優秀な人材を確保しやすくなるというメリットも大きいと、ローラン・メキース代表は語る。
「ビスターからミルトンキーンズへ移転した理由は開発拠点を近代化することで、レッドブルの新型風洞を利用して、その恩恵を受けることになる。それが最大のメリットだ。
2024年を通してずっと、我々は2週間に1回レースを戦いながら、強固な基盤を築くために正しい人材を獲得し、チーム組織を変えていくこと、チーム運営のプロセスを変えていくことを意識してきた。
F1という世界では、何かすべてを急激に変えてすぐに結果が出るとは思っていないが、適切な人材がチームに揃ったかどうかという点に関しては、100パーセントの自信を持っている。新しい施設の効果が表われるのはもう少しあとになると思うし、2025年型マシンへの効果という点では、これまでのプロセス変更や人材補強の効果が反映されるだろう」
昨年1年間をともに戦ってきたメキース代表は角田のよき理解者であり、角田がレッドブルに昇格するに足る実力を持ったドライバーであると太鼓判を押す。
2025年シーズンを戦ううえでも、角田をレッドブルへと押し上げるべく全力を尽くすと明言する。
「今回昇格できなかったからといって、今後永久に昇格できないということではない。これはレッドブルに限らずどのチームに関しても言えることで、ドライバーが好パフォーマンスを発揮し始めると、周囲の目の色が変わる。
2025年の我々は、次のステップに進んでさらなるパフォーマンスを披露するつもりだ。だから我々が彼に対してするべきことは、まず速いクルマを与え、そして昨年見せた以上のインパクトを残せばまだチャンスはある、ということを忘れないようにさせることだ」
【オフのトレーニングで肉体強化】
角田自身もそのことはよくわかっている。だからこそオフのトレーニングもこれまで以上にやり込んで、身体レベル測定の数値はどれも自己ベストを更新したという。その肉体が自信を与えてくれると同時に、確固たる目標を見定めていることがメンタル面の安定と強さにもつながる。
「今年はやりたいと思っているリーダーシップの確立だったり、成し遂げたいことがたくさんあります。将来ドライバーズチャンピオンになるために、今年は昨年以上に成績を上げて、来年につなげられるようないい走りがしたいと思っています」
純白のマシンですべてをリセットし、角田裕毅はただひたすら上だけを見て走り続けるつもりだ。