日本代表・森保一監督のサッカー観 「裏を突いてボールを奪うのが好き。僕は性格が、かなり悪いのです」

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2025年02月24日 07:30  webスポルティーバ

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森保一監督インタビュー(後編)

◆森保一・前編>>「ワールドカップで優勝するためには?」
◆森保一・中編>>「新戦力のテストはいつやるの?」

 日本サッカーを前進させる要素は、多岐にわたる。

 そのなかでも、代表強化、選手育成、指導者養成、普及──この4つは、出力の大きなエンジンだ。

 日本代表を指揮する森保一監督も、日本サッカー全体に目配せをしている。

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── 森保監督はさまざまなタイミングで、代表選手を育てた指導者への感謝、普及の重要性に触れています。

「現役引退後に最初に指導者として活動したのは、サンフレッチェ広島のアカデミーの巡回コーチで、その後現在のJFAコーチにあたるトレセンコーチとして地域を回りました。それぞれの地域でサッカー文化の発展のため、環境作りのためにがんばってくださっている人たちがいることを、目の当たりにしました。

 その人たちの努力を思うと、普及から選手育成、代表強化のすべてはつながっていると考えることができます。日本代表の国際舞台でのチャレンジが選手育成のヒントになり、サッカーの環境作りにつながるようにしたいと思います。それと......」

── それと?

「レフェリーも大切な存在です。現場、指導者、レフェリーがイメージを共有して、選手育成をしていければと思っています。強い選手、たくましい選手、ひと言にまとめるならいい選手を育てていくためには、レフェリーとの認識の共有が必要でしょう。

 ジャッジでプレーの内容は変わります。日本サッカー発展のために一緒に戦う仲間として、同志として、レフェリーのみなさんとコミュニケーションを図らせてもらっています」

── 普及については、日本国内でのテストマッチがとてもわかりやすいでしょう。一方で、強豪国とのマッチメイクは海外のほうが実現可能性は高い。ここは難しいところです。森保監督がジャッジできるわけではないですが。

「僕は何かを決められる立場にないのですが、日本代表ですから日本国内で、全国のみなさんに応援してもらいながら戦いたい気持ちはあります。

 同時に、アウェーの厳しさでしか培えないものもある。そこは難しいところです。選手たちが海外で力をつけているように、日本とは違った文化や価値観のなかで戦うことは、すごく大切だと思います」

【日本人選手のチェックでいっぱい】

── ヨーロッパでプレーしている選手は、ヨーロッパで戦うテストマッチのほうが圧倒的にコンディションはいいですね。これはもう、はっきりしています。

「コロナ禍の2020年10月と11月、2022年9月、2023年9月にヨーロッパで試合をしましたが、練習から選手の動き、強度が違うと感じました。アウェーでの戦いはチームとして力をつけるためによりいい環境で、選手を守る観点でもメリットはあります。長距離移動、時差、気候の違いなどから生まれるケガのリスクを抑えることにもなります」

── それは明確に理解しておくべきことですね。

「ただ、繰り返しになりますが、選手たちは日本で試合をしたい気持ちを強く持っています。日本国内で日本のみなさんの前で戦うことに誇りを持っていて、彼らのモチベーションになっています。日本へ帰国することが、リフレッシュにもなるようですね」

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 ヨーロッパでプレーする選手が増えれば、プレーをチェックする対象が増える。確認すべき試合が列をなす。

 もちろん、Jリーグの現地視察と映像のチェックも欠かさない。

 日本代表の活動がない期間でも、森保監督とスタッフは映像やデータなどと向き合い、ミーティングを重ねて次の活動に備えている。

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── 森保監督は日々たくさんの試合を見ているわけですが、個人的に注目しているクラブや監督があり、その対象を追いかけるようなことはできているのでしょうか?

「この監督のチームを必ず見る、というのはありませんね。というよりも、日本人選手の相当な数を追いかけるので、とにかく日本人選手をもっと見よう、もう一度見よう、となります」

── それが実情でしょうね。

「たとえば、ペップ・グアルディオラやディエゴ・シメオネは、長期にわたって同じチームを指揮していますよね」

── グアルディオラは2016年からマンチェスター・シティ、シメオネは2011年からアトレティコ・マドリードの監督を務めています。

「それだけの長期間でも、ちょっとずつやることを変化させている。そういうところは見たいなと思います。

 アトレティコのリーガでの立ち位置は、レアル・マドリードとバルサに次ぐものでありながら、2チームと少し離れたところからどうやって勝っていくのかを考えている。日本代表が世界で勝っていくためにどうするかというところで、アトレティコには応用できるものがあると感じているのですが、日本人選手のチェックでいっぱい、いっぱいでして(苦笑)」

【長谷部に指導者のバトンをつなぐ】

── 二度、三度と確認したい選手もいるでしょう。

「ヨーロッパでプレーしている選手については、コーチ陣とグループ分けをして映像の確認をしています。ひとりの選手の映像は必ず複数のスタッフがチェックをして、二重のフィルターをかけるようにしています。

 さらに、担当も入れ替えます。攻撃の選手は名波浩コーチ、守備の選手は齊藤俊秀コーチ、GKは下田崇GKコーチが担当しますが、随時入れ替えて違う視点が入るようにしています」

── 森保監督はポジションに関わらず見ていく?

「はい、そうです。ヨーロッパでプレーする選手についてはデュッセルドルフにスタッフがいますので、タイムリーに情報を入れてもらっています」

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 日本代表スタッフには、北中米ワールドカップ最終予選から長谷部誠コーチが入閣している。

 日本代表の主将として2010年、2014年、2018年のワールドカップに出場し、ドイツ・ブンデスリーガで日本人最多出場を誇る彼は、チームにどのような影響をもたらしているのか。

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── 長谷部コーチに期待するところを、あらためてお聞かせください。

「選手にも我々スタッフにも、彼の経験を伝えてもらう。日本代表選手としての経験、クラブレベルでの現在進行形の経験を、チーム全体に落とし込んでもらう。それを選手にもスタッフにも生かしてもらう、ということです。フランクフルトと日本代表の掛け持ちは大変でしょうが、その両方に関わることが彼の指導者キャリアのプラスになることを願っています」

── それはつまり、指導者のバトンをつなぐことになります。

「そうですね。日本代表で言えば、西野朗さんが僕をロシアワールドカップのコーチに選んでくれて、カタール大会では僕が監督を務めました。同じように自分も、バトンをつないでいけたらと。

 前回のスタッフでは横内昭展(→ジュビロ磐田)さんや上野優作(→FC岐阜)がJリーグの監督となり、日本代表でやっていたことを広く共有してくれたところがあると思うのです。今回のスタッフが契約を終えたあとに何をするとしても、ここでの経験を日本サッカーの発展へつなげてくれると信じています」

【モドリッチの進化版が出てくる】

── 日本代表監督とスタッフが日本人だからこそ、そうやって経験を広く共有でき、日本サッカー界の財産になる。それこそが、自国の監督が指揮するメリットです。森保監督はJFAのプロライセンスの養成講習会などで、ご自身の体験をお話ししていますね。

「オープンにできないこともあるのですが、できる限り共有していければと。サッカーファミリーに対して隠すことはないというスタンスで、オープンにやってきています」

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 ここからは、森保監督のサッカー観に触れていく。

 現代サッカーのトレンドについて聞いていくなかで、監督自身の哲学が浮き彫りになっていった。

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── サッカーが戦術化、組織化されていくなかで、リオネル・メッシのようなタイプの選手はこれからも出現すると思いますか。

「どうですかねえ......メッシとかディエゴ・マラドーナのように、攻撃に特化してスーパーなことができる選手は、出てくるのが難しいのでは」

── 現代サッカーのトレンドを考えると難しい、と。

「そうなるかな、と思いますね。今はもう、それぞれの大陸とか国でサッカーをする時代ではなく、ヨーロッパにトップ・オブ・トップの選手が集まってくるので。何かに特化してそれだけで勝負する選手というのは、難しいのかなと。

 むしろ、ルカ・モドリッチの進化版のような選手が出てくるような気がします。アスリートとして高い能力を持ち、高いインテンシティのなかでボールを意のままに操ることのできる選手が」

── 今、お話のあった高強度や縦に速いサッカーを、森保監督はどうとらえていますか。10番タイプのゲームメーカーが輝いていた、オールドファッションなサッカーにノスタルジーを感じる方もいますが。

「今のサッカーは好きですね。プレミアリーグを見てきたこともあって、強度が高くてゴール前での攻防が多いサッカーは嫌いじゃないのです。それから、これは現役当時から感じていることですが、『1-0で勝てるチームは強い』というのが僕の持論で」

【1-0で勝つチームに強さを感じる】

── 偶然ではなく意図的に、必然的に、1-0で勝てるチームは強い、ということですね。

「1-0で勝つのが守備的かどうかはケース・バイ・ケースでしょうが、僕が言いたいのはメンタリティです。1-0で勝つのはめちゃくちゃキツい。どんな試合でも『やられても仕方がない』という場面はあるもので、精神的に守りに入らずにそのまま押しきるにしても、割りきって守りきるにしても、キツいものです」

── どの時間帯でリードをするかによっても、メンタリティや戦い方は変わってくるのでしょうが。

「2点目を取ってリードを広げて勝つ、1-0のままでも自分たちが押しきって勝つのは理想でしょうが、押されているようで実は優位に試合を運んで、最後まで1-0で持っていくようなチームに、僕は強さを感じるのです。

 現役当時に鹿島アントラーズと対戦していて、自分たちはやれている感覚があるのだけど、終わってみたら負けていた......ということがあって。それから、アントニオ・コンテが監督をやっていた当時のユベントスは大好きでした。クオリティを持った選手たちがハードワークしまくって、1-0で勝つ。相手が来たら2-0へ持っていく。それは自分の好きなサッカーですね」

── コンテのユベントスはセリエAで3連覇を達成しましたからね。試合運びに巧さを感じさせました。駆け引きに優れている、というか。

「サッカーは駆け引きの連続じゃないですか? なので、現役当時は相手の狙いとか意図を考えて、その裏を突いてボールを奪うとか、試合を進めるとかが好きでした。僕は性格が悪いのです。かなり悪いのです(笑)」

── いえいえ(笑)。ボランチならではの思考でしょう。

「相手との精神的な駆け引きは、面白いところがありますね」

── 代表監督としても、駆け引きをしていますね。

「それはもう、試合前から始まっています。相手を分析するじゃないですか。直近の3試合、5試合の傾向をつかんで、こうだったからこうしようと準備をする。

 でも、相手も自分たちを分析してくることはお互いに織り込み済みで、前節までと同じ流れでくるのか、何かを変えてくるのかという駆け引きがある。それによってプランA、プランB、プランCと、どんどん手を打っていかないといけないので」

【愚直にやって勝てるわけじゃない】

── こうやって話を聞いていると、監督とは少しぐらい性格が悪いほうがいいのかな、と思えてきました(苦笑)。

「広島の監督をやっていた当時は、愚直にやっていれば勝てるかなと思っていました。でも、そうですね、必ずしもそうじゃないかもしれないですね(笑)」

   ※   ※   ※   ※   ※

 日本代表の活動は、年間10試合から15試合ほどだ。国際大会で勝ち上がればもう少し増えるが、1試合が持つ意味は重い。たった1試合で、評価が一変するからだ。

 それだけに、代表監督の決断はその一つひとつが賛否を巻き起こす。結果に結びつけて厳しく批判されることもある。

 森保監督も例外ではない。批判も受けてきた。これから厳しい立場に追い詰められるかもしれない。

 そのうえで、間違いなく言えることがある。

 日本代表というチームについて、誰よりも考えているのは森保監督である。そして、自分より監督にふさわしい人材がいるのなら、すぐにひとりのサポーターへ立場を変える覚悟を、胸に強く刻んでいる。

<了>


【profile】
森保一(もりやす・はじめ)
1968年8月23日生まれ、長崎県長崎市出身。1987年に長崎日大高からマツダに入団。1992年にハンス・オフト率いる日本代表に初招集され、翌年「ドーハの悲劇」を経験。サンフレッチェ広島→京都パープルサンガ→広島→ベガルタ仙台を経て2004年1月に現役引退。引退後はコーチとして広島とアルビレックス新潟で経験を積み、2012年に広島の監督に就任。3度のJ1制覇を成し遂げる。2017年から東京五輪を目指すU-23代表監督となり、2018年からA代表監督にも就任。2022年カタールW杯の成績を評価されて続投が決定し、現在2期目。日本代表・通算35試合1得点。ポジション=MF。身長174cm。

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