限定公開( 1 )
『呪術廻戦』の世界を必死で生き抜く主人公として、多くの人に愛されている虎杖悠仁。作中でも他のキャラクターに好感を抱かれる機会が異様なほどに多く、さまざまな逸話を残してきた。虎杖はなぜ、それほどまでに人望を集められるのだろうか。
『呪術廻戦』第30話「そういうこと」はなぜ屈指の人気エピソードに? 虎杖らの日常と恋模様に注目
その人たらしっぷりは、物語の序盤から徹底して描かれていた。まずは初対面の伏黒恵に善人であることを確信させ、「死なせたくありません」と言わしめた後、呪術高専入学時には頑固な夜蛾学長の心を動かし「合格」の言葉を受け取っている。その後も、虎杖の言動によって心の壁を溶かされたキャラクターは数知れない。
極めつけは、現在放送中のアニメ『呪術廻戦』2期でも描かれた小沢優子のエピソードだ。彼女は中学時代の同級生として、虎杖にひそかな恋心を抱いていた人物で、卒業後に偶然再会を果たすことになるのだった。
中学生の頃、小沢は同級生から容姿を揶揄されており、男性に対する嫌悪感を持っていたのだが、虎杖だけは例外だった。たとえ本人がいない場でも、容姿を一切からかうことがなかったのだ。それどころか、食事マナーや書き文字の美しさといった本人も気づいていない魅力を見抜いてくれたという。
|
|
なお、小沢は卒業後にすっかり体型が変わり、中学時代とは別人のようになっていたのだが、虎杖は一目で同一人物だと気づいていた。彼女を外見だけで判断していなかったことを示す、何よりの証拠だろう。
この一件は、周囲の意見に流されない心の美しさを描いたエピソードだ。しかしそれだけではなく、とくに接点もないクラスメイトのちょっとした個性を気にかけるという虎杖らしい一面が表現されているとも言える。少年マンガの主人公らしからぬ、この繊細な心のあり方こそが、虎杖の特性なのではないだろうか。
■新時代の主人公はやさしさが重要?
よくマンガ編集者の口から語られる内容だが、少年マンガの主人公は、強烈なエゴによって物語を突き動かす存在だと言われることが多い。なんらかの夢や野望、欲望を胸に抱いて、そこに周囲の人々を巻き込んでいくというあり方だ。たとえば『ドラゴンボール』の孫悟空なら、「強くなること」が強い原動力となっていた。
そうしたエゴイズムの存在があってこそ、読者の胸を躍らせる壮大な冒険が成立すると言ってもいい。しかしその反面、時に他人の心に対して無神経な振る舞いをとってしまうのも、エゴイストの特徴だろう。悟空が異性に対してデリカシーに欠けた行動をとり続けてきたことは、それを象徴するかのようだ。
|
|
一方で、虎杖は少年マンガの主人公でありながら、人の心をよく理解し、利他的な振る舞いを徹底してきた。あたかもエゴイズムを放棄しているかのように見えるほどだ。もちろん虎杖にも「人を助けたい」という使命感はあるが、それは最初祖父から託され、その後宿儺との関わりで逃れられなくなった“呪い”のようなものだ。おそらくそうした特殊な性質こそが、虎杖の過剰なやさしさや共感能力を生んでいるのではないだろうか。
奇しくも、同じ『週刊少年ジャンプ』で大ブームを巻き起こした『鬼滅の刃』の竈門炭治郎も、エゴイズムを振り捨てて他人のために生きる主人公だった。なにかと窮屈な時代、読者はマンガのなかに“やさしさ”を求めているのかもしれない。
(文=キットゥン希美)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。