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そば屋で10年間働いてきたAさんは、ある日、お世話になった方の葬儀に参列しました。葬儀を終えて場所を移動し参列者たちと食事をしていると、突然隣に座っていた男性から声をかけられました。その人は亡くなった方の知人だと名乗り、Aさんに「出資してやるから自分の店を出さないか」と持ちかけてきたのです。
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Aさんは驚きましたが、ちょうど独立を考えていた矢先だったので、この話に心が躍りました。その場で男性と連絡先を交換し、独立に向けた行動を進めようと決意します。葬儀の後という不適切さは感じましたが、チャンスを逃したくないという思いが勝ってしまったのです。
それから数週間、Aさんは独立に向けて準備を進めました。店舗の候補地を探し、メニューを考え、必要な資金を計算します。すべてが整ったところで、いよいよ出資のお願いに伺うことにしたのです。
しかし、男性の自宅を訪ねたAさんを待っていたのは、「そんな話をした覚えはない」という男性からの断固として否定でした。確かに食事会の際の男性はビールや焼酎などの酒を飲んでおり、酔っている様子ではありました。
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男性のこの反応を受け、Aさんは途方に暮れました。せっかく準備を進めてきたのに、すべてが水の泡になってしまったのです。口約束とはいえ男性とのやり取りは酒の席だったため無効になってしまうのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに伺いました。
ー口約束では無効になってしまうのでしょうか
民法第522条で「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定められています。したがって口約束であったとしても有効だと判断されます。
ーでは酒の席だったからという理由で無効になることはあるのでしょうか
男性がどれくらい酔っていたかがポイントになるでしょう。泥酔状態や酩酊状態であったとしたら「意思能力」が無いと判断されるかもしれません。その場合は契約が無効となります。
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ーではこの場合では出資してもらえないのでしょうか
Aさんの場合、仮に男性に意思能力があったとしても、出資してもらうのは難しいでしょう。口約束が有効とは言え、契約の具体的な内容が固まってないため請求は困難です。「出資する」といっても、投資的な話なのか会社を作って雇用するのかなどが不明だからです。
こういったケースでは、意思確認をおこなう意味でも開店準備を出資者の男性と二人三脚で進める必要があったと考えられます。また、Aさんが出資の話を受けた翌日に「どのように出店を進めるか相談したい」と男性に相談していれば、もっと早い段階で中止することができたことも悔やまれます。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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