なぜパタゴニアは、古着を「新品よりもずっといい」とアピールするのか 背景にある哲学に迫る

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2025年02月25日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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「古着ビジネス」を分析する(出所:ゲッティイメージズ)

 アパレル産業において「リセールビジネス」、いわゆる古着ビジネスに注目が集まっています。Z世代をはじめとした消費者も、リセール品に対して以前より抵抗がなくなっており、むしろ再販商品にこそ価値を感じるといった傾向も見られます。


【画像】パタゴニアがこんなに本気だとは! 「新品よりもずっといい」とアピールする様子を見る(全4枚)


 中でもアウトドアブランド「パタゴニア」の取り組みが、業界に一石を投じたように感じられます。拡大するリセールビジネスについて、流通小売り・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●各社で進む「リセール」「アップサイクル」


 筆者は過去、『実は拡大が続く「リユース市場」 将来は“新品”を上回ると確信できる理由』という記事でリユースマーケットについて記述しました。リセールビジネスには当時から注目していたのですが、そのうち記事を書いた4年前から伸び率が高い部門であった、衣料品のリセール市場について今回は注目します。


 以前、古着といえばリサイクルショップや古着店のほか、「蚤の市」やフリーマーケットで取り引きされるのが一般的でした。近年はメルカリなどフリマアプリの登場により、インターネットを通じた取り引きが一気に増え、リセール市場拡大のきっかけになっています。


 また、セレクトショップ大手のビームスが2024年11月にオープンした「ビームス ライフ 横浜」では、同社初となる古着と古本販売の常設コーナーを設置しています。修理サービスを行う「ビームス工房」も設置し、販売から修理までを完結できるようにしています。


 リサイクルショップ大手のトレジャーファクトリーは、従来の路面店だけでなくショッピングセンターへも出店するようになりましたし、百貨店やセレクトショップでも、リセール品が新品と並んで売られることも珍しくなくなっています。


 リセールだけでなく、アップサイクルの取り組みも増えています。ウィファブリック(大阪市)では、アパレル各社で売れ残った新品衣料を買い取り、大幅に値引きして販売しており、汚れがあるなどの商品はパッチワークや刺しゅうを施して再販売しています。


●まだまだ成長を続けそうなリセール市場


 米国でリセール衣料品のECサイトを運営するスレッドアップが公表した調査結果によると、米国の中古衣料品(リサイクルショップ、寄付を含む)の2023年における市場規模は約440億ドル。1ドル150円換算で約6兆6000億円と見込まれています。5年前から2倍以上に成長しており、2027年には700億ドル(約10兆5000億円)にまで拡大すると推定しています。


 日本国内の市場は矢野経済研究所が調査しており、2016年には2500億円ほどの市場規模でしたが、2022年に1兆円を超え、2026年には1兆4900億円に成長していくと予測されています。消費者の環境意識の高まりやなども影響し、今後もリセール市場は拡大していくでしょう。


●年間で6割以上の衣類が廃棄されている


 現状、国内の衣類新規供給量は年間79.8万トン。そのうち、約9割に相当する73.1万トンが使用後に手放されると推計され、廃棄される量は47.0万トンに及びます(流通せずに廃棄されるものを含めると48.5万トン)。


 毎年、新規供給量の6割以上が廃棄されていることは驚きです。つまり、このような衣類は「もともと作る必要がない」のです。こうしたサイクルを今後も繰り返すのは意味がないどころか、原料や水道光熱費に人件費、物流費や販売管理費など「ムダの塊」です。生産時に排出する二酸化炭素も相当な量でしょう。


 ムダを徹底的になくそうと業界を挙げて動き出しているのが、アパレル業界の現状です。その先頭を走っているのが、アウトドア企業のパタゴニアです。中でも筆者が注目しているのは「Worn Wear」というプロジェクトです。


 「Worn」とは、日本語で「すり減った」「よれよれの」「着用された」という意味の単語で、古着を指します。パタゴニアではほぼ全ての商品に修理対応ができる体制を持っており、プロジェクトでは「リサイクル」と「リペア」の2つに取り組みながら、衣類を長く使い続け、消費や地球への負担を減らすことを目指しています。


 Worn Wearでは、新品よりもリセール品を買ってほしいというメッセージを発信し「新品よりもずっといい」いうキャッチコピーまでつけて取り組んでいます。


●パタゴニアの「本気すぎる」取り組みとは


 パタゴニアも営利企業ですから「新品を買ってもらわないと、商売として成り立たないのでは」と気になるところ。そんな心配はつゆしらず、ここ数年、同社は本気の取り組みを続けています。


 筆者がこの取り組みを知った2021年は「Worn Wear ポップアップストア パタゴニア東京・渋谷」というイベントを1カ月間開催。もともと米国で実施していたリユースやリペアの活動を、日本でも試験的に始めたのがこの頃でした。当時、渋谷店では1階に売り場を設置しています。通常であれば目立つ1階には新品を置きたいところですが、1階で古着の販売を大々的に展開するほど、本気度が高いのだと感じました。


 売り場では「無駄な物は買わないで」とPOPを掲示しており、古着の購入は1人につき2点まで。陳列していた商品は、社員から買い取って補修やクリーニングを施した自社製品です。その他、埋め立て地に受け入れられた布地の量や、これまでに同社が修理した着数、衣類を長く着ることでどのくらいのフットプリント(衣類などを使用・廃棄することで生じる環境負荷)が削減できるかといった掲示もありました。


 その後、2024年9月に大阪駅直結の施設にオープンした店舗では、Worn Wearを常設コーナーとして設置しています。


 モノを長く使い続けて全体的な消費を減らし、環境へ貢献する同社の考えには、創業者であるイヴォン・シュイナード氏の哲学が影響しています。同氏は登山家であり、その経験を基にパタゴニアを創業し、取引先も巻き込んだ社会的責任を果たす経営を先導してきた「環境経営」の第一人者として知られています。


●配当だけで「1億ドル」 年商の1%を寄付


 過去には地球環境を守る資金を増やすため、創業家が持つ株式を全て、新設の目的信託(受益者が決まっていない信託。ある目的のために資産運用をする)と非営利団体に寄付するなど、話題を呼びました。2022年当時の時価総額は2230億ドル、日本円で3400億円ほどに相当します。パタゴニアは「地球が私たちの唯一の株主になった」として、事業への再投資にまわさない資金を毎年、配当金として上述した2つの組織に分配しており、配当だけで毎年1億ドルといえば、規模の大きさや本気度が伝わるでしょう。


 同社は2018年に、会社の目的を「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と再定義しています。こうしたミッションは、従業員に権限移譲をし、上司に一切判断を仰ぐことなく行動できるきっかけをもたらしているともいわれています。


 パタゴニアは、本格派の登山用具が買える店としてヘビーユーザーを引き付けているブランドです。人命に関わる道具であることが、常に最高の品質を目指すという考え方を生んでいます。それを衣料品にも適用させ、さらに環境と社会への責任を持つようにさまざまな活動を行ってきました。


 毎年、売上高の1%を環境保護団体に寄付する活動もその一環です。同社の売り上げは、2022年で15億ドルですから、年間で1500万ドル=約22億円を寄付していることになります。さらに、これだけでは足りないと同社では考えているからこそ、Worn Wearの取り組みも加速させているのでしょう。Worn Wearのオンラインストアでは、14万着以上の中古品を販売し、オンラインのリセール商品の売り上げは2017〜20年で500万ドル(約7億5000万円)ほどと、着実に成果を出しています。


 シュイナード氏は「パタゴニアが努力していけば、同社のように正しくビジネスをする会社がもっと増える」と考えていたようですが、実際には「グリーンウォッシング(見せかけの環境対応)」が多いことを嘆いています。これからのアパレル企業は、本気で社会課題の解決に取り組むべきです。それをパタゴニアは身をもって伝えています。


 今後、アパレル各社が新業態の開発や新サービスの導入を進めることで、リセール市場はさらに活性化するでしょう。結果的に衣服が循環することで、衣料品の廃棄量は削減されていくはずです。パタゴニアのような企業が世の中に増えてくることを期待します。


(岩崎 剛幸)



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