「危機感を持て!」は逆効果? 組織をむしばむ“アオリ虫”の正体

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2025年02月25日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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あなたの会社にもいるかも?  組織をむしばむ3匹の害虫

 「危機感を持て!」


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 業績が低迷する中、こんな声が経営幹部から聞こえてきたら「キキカンアオリ虫」が侵入している可能性が高い。キキカンアオリ虫はムチのような手足を持ち、周りの人を叩き同じように鳴くことを強要する。そのため組織の上部に発生すると瞬く間に現場にまで広がり、気付けば会社中が「キキカンヲモテ!」の大合唱で大騒ぎになる。


 「経営改革」は文字通り、経営を改革することで、「現場改革」とは異なる。だが、キキカンアオリ虫がいったん会社に忍び込むと、本当に変わらなければならない経営はそっちのけで、現場にムチを打ち、経営改革が現場改革に矮小化されてしまう。


 「経営改革」と「現場改革」、どちらが大きな成果が望めるか?


 「経営改革」と「現場改革」、どちらが難しいか?


 業績低迷から脱した会社の多くは、経営改革を実現した会社であるのは言うまでもない。経営改革と現場改革には雲泥の差がある。キキカンアオリ虫が生息している会社では、現場に変革を迫るわりには、経営幹部自身の危機感が欠如している場合が多い。ちなみに、こうした経営幹部のことを「経営患部」と呼ぶので、ぜひ、みなさんの会社でも広めていただきたい。


 要するに、現場にしてみれば「おまえが変われよ!」と経営“患部”に言いたいわけだ。


 だが、実は上層部に目を付けられるリスクを冒してまで、キキカンアオリ虫を自ら駆除しようと思わなくてもいい。業績低迷が続けば、最終的には資本主義で最強の害虫キラー、株主が経営幹部に退場を迫ってくれる。


 株主の意見を代表する社外取締役が頑張ってくれるかもしれない。いずれにしても、様々なステークホルダーがキキカンアオリ虫に取りつかれた経営幹部を退治してくれるので、寿命は短い。


●安全なところに留まろうとする人の性(さが)


 本当の危機に直面した時、人はどういう行動をとるだろうか? 人には自己防衛本能があるから、すぐさま危機を避けようとするはずだ。


 では、危機を避けることができて、安全になったら人はどうするだろうか?


 その安全なところに留まりたいと思うのが人の性ではないだろうか?


 つまり「危機感を持て!」と言われたら人は安全を求めるようになり、それが達成されればそのまま安全なところに留まりたくなる。皮肉なことだが、「危機感を持て!」という改革は長続きせず、業績の低迷を再び招く原因を組織に埋め込むことになりかねないのだ。


●[退治方法]「変化の4象限」という思考法


 キキカンアオリ虫は短命だし、放っておいても外部から害虫退治が駆けつけてくれるので、自ら退治する必要はさほどない。だが、それではあまりにもったいない。


 キキカンアオリ虫の発生を機に、会社の飛躍の道を切り拓く「変化の4象限」という思考法があるので、ここで紹介したい。


 変革に対しての行動の選択肢は2つある。それは「変わる」か、「変わらない」かである。そして、その行動の結果としてあり得るのは、「プラス」と「マイナス」の2つがある。


 それを4象限でまとめると上のような図になる。


 「変わる」の「プラス」の象限には、変わると得られるメリットを考える。この場合はシンボルとして宝物を示している。


 次に「変わる」の「マイナス」の象限には、「変わる」と痛い目に合うかもしれない「マイナス」を考える。この場合はシンボルとして、松葉づえを示している。


 さらに、「変わらない」ことの「プラス」を考える。この場合はシンボルとして、マーメイドを示しているが、人魚には足がなく、居心地のよい今の場所に留まりたいという意味である。最後に、「変わらない」ことの「マイナス」を考える。この場合は、黙っていると食べられてしまいそうなワニをシンボルとして示している。


 実は、「危機感を持て!」と号令をかけるだけでは、4象限の内のワニがいる1つのボックスしか議論していない。「ワニがいるから危ない」と言っているだけだ。


 大切なのは、「じゃあどうするか」、つまり何を変え、それによって何を得られるかを議論することだ。「変わる」ことによるプラス/マイナスは何か。「変わらない」ことによるプラス/マイナスは何かという、4つの局面から議論することが変革には欠かせない。


 「変わる」ことのプラスが明らかなら、人のモチベーションは上がるだろう。一方、「変わる」ことのマイナスに人は怯えるものだが、「松葉づえ」が必要になるかは未来の状況なので、そうした事態を想定して今からマイナスを回避する手を打てる。マイナスを減らす手立てを打つほど、「変わる」ことでプラスの状況が訪れる確率は高まっていく。つまり、「変わる」ことを選択しない理由がなくなっていくのだ。


 「変わる」ことによって得られるプラスが大きいことがわかれば、居心地のよさを優先し「変わらない」ことを選んでいたマーメイドも、「変わる」ことへの抵抗がなくなる。


●[事例]じり貧から赤字に陥った会社の経営改革


 世の中にない部品をいち早く開発し一世を風靡(ふうび)してきたQ社だが、国内外の価格攻勢を受けてジリジリとシェアが低下。しかも、そうした価格攻勢を仕掛けてくるライバルたちは、Q社が一番儲かっている商品群に集中して勝負をかけてくる。


 2代目、3代目の社長時代もじり貧状態が続き、産業界にとどろいていた尖ったブランドイメージは影が薄れ、ついに創業以来の赤字に転落、「危機感」どころか本当の経営危機に陥り、株主からの要求で社長が更迭、経営陣は刷新された。


 そんなQ社の労働組合メンバー3名が、経営危機のさなか、私たちが制作した、世界的ベストセラー『ザ・ゴール』のアニメ映画を観たと言って助けを求めにきた。


 「あれを見て感銘を受けました。商品や技術のイノベーションではなく、オペレーション、つまり働き方のイノベーションで会社がよくなるのだと。ウチの問題は、すべてが遅いこと。だから競合の後追いになる。みんな一生懸命働いているのになんで儲からないのか、やっとわかった気がしました」


 藁にもすがるつもりで相談に来たのだという。聞けば、2代目社長時代から「危機感を持て!」の大号令が経営幹部から発せられたが、何も状況は改善せず、3代目も同じ号令を出すばかり。危機感をあおりながらも一向に変わらない経営の遅さに、現場は辟易(へきえき)していたという。


 明らかにキキカンアオリ虫が増殖している証である。


 さらに悪いことに、後ほど紹介する「DXアオリ虫」「ヨソウ虫」も危機につけ込んで現れ、DXプロジェクトが立ち上がったり、需要予測システムを導入したりするなど現場は混乱。無駄な投資をしたことで、財務的にさらに厳しい状況に追い込まれていた。


 組合有志が考えたのは「オペレーション・イノベーション作戦」。


 現在の標準リードタイムは13週間だが、それを守れないこともあるという。最短どのくらいの期間でモノが出せるかを聞いてみると、現実の話として、クレームが経営トップに来て最優先でスケジュールを検討する時は、ボトルネックの稼働状況を考慮して納期回答をしているという。緊急の場合は1日、たいていの場合は3日間あれば十分とのことだった。


 3日間のリードタイムをすべての商品で実現する「オペレーション・イノベーション作戦」を実現するとどうなるかを「変化の4象限」でまとめたのが下の図だ。


 ご覧のように、「オペレーション・イノベーション作戦」で実現できることはいいことずくめで、むしろやらない場合のリスクは大きい。


 「変わる」ことの「マイナス」も、組合という立場を活用し非公式な労使懇談会を実施したところ、「変わらなければいけないのは経営幹部ですね」と了承を得られた。


 財務効果は大きかった。


 リードタイムが13週から3日になると、それだけで約3カ月分の棚卸在庫が減り、その分キャッシュが捻出される。それは、DX投資でドブに捨てた資金を大幅に上回る効果だった。


 オペレーション・イノベーション作戦には営業も参加、3日間のリードタイムを標準として1日の場合は価格を倍にしても売れるとのこと。


 こうした効果を社外取締役に示したところ、「成果が出たら社員に必ず報いてください」と応援してくれた。これを聞いた組合有志のメンバーが喜ばないはずがない。


●[まとめ]あなたの「常識」は正しいのか?


 「ウチの会社が変われないのは危機感がないから」


 こんな言葉をよく耳にするが、本当だろうか? 経営幹部が「危機感を持て!」と連呼するだけで変われるようなものは、本当の経営改革とは言えない。「変わる」こと、「変わらない」ことにはそれぞれ、「プラス」と「マイナス」の影響がある。これらを明らかにして議論することが、本当の改革の出発点ではないだろうか。


【名称】キキカンアオリ虫


【主な生息地】「危機感を持て!」と大号令を飛ばす経営トップの周辺


【特徴】「キキカンヲモテ!」と聞こえる鳴き声を出すと同時に、ムチのように変異した手足で周囲の尻を叩き、同じように鳴かせて大合唱となる。現場に変革を迫る一方、最も変わらなければならない経営幹部が変わらないので、業績が好転しない。その結果、株主などから圧力を受け、経営陣から失脚するので寿命は意外と短い。


(岸良裕司、ゴールドラットジャパンCEO)



このニュースに関するつぶやき

  • アサヒ新聞や小池都知事のような「コロナ煽り虫」は、なかなか駆除されませんねえ。
    • イイネ!4
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