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2025年02月25日 11:11 ITmedia PC USER
理論性能は良いはずなのに、大作(AAA)PCゲームタイトルをプレイすると力不足を感じる――先日、そんなグラフィックスカード(GPU)が存在する理由を解説する記事を載せた。
前回の記事で解説したことをザックリ振り返ると、以下の通りだ。
・最近のゲームグラフィックスは単にピーク時の演算性能(TFLOPS)が高いだけでは処理面で厳しい
・GPUのグラフィックスメモリの「容量」と「帯域幅」も重要
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・昨今、そしてこれからのAAAゲームを楽しむには少なくとも12GBのグラフィックスメモリと毎秒400GBのメモリ帯域幅があると望ましい
後編となる本稿では、2025年2月時点において上記の要件を満たせるグラフィックスカードを紹介しつつ、2025年の注目ゲームタイトルとなっているカプコンの「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークテストでいくつかのグラフィックスカードをテストしてみようと思う。
●もう一度「必要なGPUのスペック」をまとめよう
GPUは理論性能値が全てではない……とはいうものの、演算性能が低すぎては本末転倒でもある。2025年のPCゲーミングにおいて、それなりの品質でプレイしたいということであれば、ピーク時の演算性能はPlayStation 5の約10TFLOPSは超えておきたいし、理想をいえばPlayStation 5 Proの16.7TFLOPSを超えれば万々歳だ。
ということで、これからのAAAタイトルを楽しために必要なグラフィックスカードの性能をもう一度まとめると、以下の通りとなる。
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・ピーク時の理論性能は10TFLOPS以上で、16.7TFLOPS以上あればなお良し
・グラフィックスメモリ容量は少なくとも12GBで、16GB以上あれば当面安泰
・グラフィックスメモリの帯域幅は少なくとも毎秒400GB以上で、毎秒500GB以上なら強い
これを踏まえて、入手困難なモデルや3月以降に発売されるものを除いて、現状で手に入るグラフィックスカードをGPUメーカーごとに一覧にしたものが下表となる。
記事掲載時点(2月24日現在)だと、GeForce RTX 50シリーズは売り切れか、異常なまでの“初物価格”が付いているようだ。一方、旧版となったGeForce RTX 40シリーズは最上位の「GeForce RTX 4090」はかなり高騰しており、「GeForce RTX 4070」「GeForce RTX 4080」までは、2024年末と比べると少し値上がりしているようだ。
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AMDのRadeon RXシリーズは最新の「Radeon RX 9000シリーズ」が正式発表前のため、Radeon RX 6000/7000シリーズからピックアップした。ハイエンドモデルも含めて、価格は2024年末時点に近い価格となっている。ある意味でのお買い得感はある。
そしてIntel Arc Graphicsシリーズは、グラフィックスメモリの容量が8GBのモデルが多く、「12GB以上」を満たすものが2モデルしか存在しない。最新モデルはBシリーズなのだが、「Arc B770 Graphics」の登場が未定のため、市場に存在する上位モデルは旧モデルの「Arc A770 Graphics」しか存在しない。その関係で、旧モデルであるはずのA770 Graphicsの方が新モデルよりも理論性能が高く、グラフィックスメモリの容量も多いので、予想外にコスパは良さそうである。
●「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」を測定してみる
2月5日に公開された「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」は、モンスターハンターワイルズをプレイするにあたって、そのPCが性能要件を満たしているかをチェックできるアプリだ。同タイトルの購入を検討している人はもちろん、自分のPCの実力を計測したい人は試してみるといい。
計測結果は、独自の計算式で算出された「スコア」として表される。スコアが2万以上で「非常に快適」と診断され、1万3000〜1万9999が「快適」、1万250〜1万2999で「プレイ可能」として診断される。
先日の記事を読んだ人は理解していると思うし、実際にモンスターハンターワイルズベンチマークを試した人も分かっていると思うが、モンスターハンターワイルズはそこそこスペックの高いGPUがないとマトモに遊ぶのが厳しい。β版の時点でも、先述した3つの要件を満たしていないとPlayStation 5や Xbox Series X並みの品質で4K解像度のプレイは厳しかった。
きっと製品版のPC版モンスターハンターワイルズも、β版に近い仕様となるはずだ。その意味では、モンスターハンターワイルズベンチマークは事実上、2025年以降に登場するAAAゲームタイトルを快適にプレイするための診断アプリの1つとして使えると思う。
ということで、筆者宅にあるグラフィックスカードを使ってモンスターハンターワイルズベンチマークを一通り実行してみよう。使うPCは、別メディアの企画で自作した「12万円PC」で、主なスペックは以下の通りとなる。
・CPU:Ryzen 7 5700X(8コア16スレッド)
・マザーボード:ASRock B550M Pro4(AMD B550チップセット)
・メモリ:DDR4-3200 32GB
Socket AM4にDDR4メモリのシステムということで、最新のハイエンドではない。しかし、AM4世代とはいえ、8コア16スレッドCPUは今でも十分すぎる性能はあるし、今基準の目線で見てもRyzen 7 5700Xはまあまあ優秀な方だと思う。メモリの容量も32GBあるのでスペックが低すぎるということもないだろう。
恐らく、このあたりのスペックでPCゲームを楽しんでいるPCゲーマーは少なくないはずだ。
そして今回、筆者宅にあるグラフィックスカードで、先ほど挙げた要件を満たせるものは以下の通りだ。
・Radeon RX 6800 XT
・GeForce RTX 5090
・GeForce RTX 4090
・GeForce RTX 4070
・GeForce RTX 3090
・Arc B580 Graphics
比較用として、要件を微妙に満たしていないグラフィックスカードをITmedia PC USER編集部に借りてもらい、一緒に試すことにした。
・Radeon RX 7600(理論性能は満たすものの、メモリ帯域幅が足りない)
・GeForce RTX 4060 Ti 16GB(グラフィックスメモリの容量は十分なものの、メモリ帯域幅が足りない)
・GeForce RTX 4060 Ti 8GB(グラフィックスメモリの帯域幅と容量が足りない)
ベンチマークの設定にも言及しておこう。
既に、他メディアでも広くさまざまなGPUを用い、いろいろな解像度でテストを行っていると思うが、その多くはデフォルト設定のままでテストをしている。同じことをやってもしょうがないということもあり、今回はあえて設定を変えてテストを行った。
まず解像度だが、よく使われる「フルHD(1920×1080ピクセル)」と「4K(3840×2160ピクセル)」の2つをセレクトし、実行している。
また、グラフィックプリセットは通常、搭載しているGPUを勘案しての“お勧め”が自動選択され、レイトレーシングは「オフ」となるが、実際にプレイする環境を考慮して以下のようにしてみた。
・フルHDでのテスト(→ミドル〜ミドルハイクラスのPCを持っていると想定)
・グラフィックスプリセット:中
・レイトレーシグ:中
4Kでのテスト(→ハイエンドPCを持っていると想定)
・グラフィックスプリセット:ウルトラ
・レイトレーシング:高
なお、いずれの解像度でもフレーム生成は「オフ」としている。これも、多くのアクションゲーマーはオフにすることが多いと想定してのことだ。
確かに、フレーム生成を使うと表示こそ滑らかになるが、ゲームプレイ時の操作遅延が大きくなる傾向が出てきてしまう。例えば実動で30fps(33.33ミリ秒)のゲームをフレーム生成技術で60fpsにしようが、120fpsにしようが、ゲーム操作の入力タイミングサイクルは33.33ミリ秒間隔のままで変わりない。
万が一、プレイヤーが「実描画フレーム」ではなく「生成された補間フレーム」の方を見てゲーム操作を行った場合、入力遅延は最大で66.66ミリ秒(通常の2倍)にまで増大する。これは、それなりのアクションゲーマーであれば知覚できる。
フレーム生成を有効にしてプレイした際に「あれ? ゲームプレイの腕前が落ちたかな?」と疑問に思ったときは、一度フレーム生成を無効にして試してみるといい。
●「メモリ帯域」の影響は甚大 4K時には「理論性能」も無視できない
話が脱線しかけたので元に戻そう。今回のベンチマークテストの測定中には、PC全体の消費電力を市販のワットメーターで計測した。測定中のイメージはこんな感じだ。記録値は、計測中の瞬間最大消費電力値を採択した。
さて、結果をまとめた表は以下の通りとなる。
表中、4K解像度のテストで「プレイ不可」判定となったGPUでは、フルHDテストの方が消費電力が高い結果を出しているが、これは誤記あるいは誤測定ではない。GPUが各ユニットにおいて“理想通り”に描画処理を回すことができず、結果としてGPU負荷率は常に99%に貼り付いているのに消費電力はそれほど上がらなくなる――これが、不思議な逆転現象の正体だ。
フルHDなら「Arc B580 Graphics」が意外といい
まず、フルHD解像度は今回試したGPU全てで「表示に快適」判定を獲得した。バリュークラスのGPUであるArc B580 Graphicsは理論性能が14TFLOPS程度だが、それでもグラフィックスメモリの帯域幅が毎秒456GB、容量も12GBあるので、フルHD解像度をターゲットにするなら良い選択肢となりそうだ。
ちなみに、Arc B580は消費電力も少ない。コスト重視の入門クラスのゲーミングPCにはピッタリかもしれない。
「GeForce RTX 4090/5090」は最強レベルだが消費電力に難あり
ベンチマークスコアでトップに立ったのは、当然のように「GeForce RTX 5090」である……のだが、「GeForce RTX 4090」もいい感じだ。というか、5090と4090のスコアはほとんど変わらない。
これには2つ理由がある。1つはCPU(Ryzen 7 5700X)がやや古いこと、もう1つはCPUのPCI Expressバスが「PCI Express 4.0」準拠で、5090が要求する「PCI Express 5.0」よりも転送速度で劣るということだ。CPUやPCI Expressバスの性能に足を引っ張られて、5090のポテンシャルを最大限に引き出せなかった可能性も否定できない。
しかし言い方を変えれば、今回テストに用いたPCと同程度の性能なら4090でも十分だということだ。もっとも、4090も5090も消費電力が非常に大きいことはとても気になる。
GeForce RTX 3090は4Kで強いものの消費電力がネック
「GeForce RTX 4070」と「Radeon RX 6800 XT」は、解像度を問わず近しいスコアをマークした。理論性能だけを見るとRadeon RX 6800 XTの方が3割も低いのにスコアが拮抗(きっこう)したのは、グラフィックスメモリの帯域幅が近いからだと思われる。
「GeForce RTX 3090」は、2020年当時は“ウルトラハイエンド級”だったのだが、フルHD解像度のスコアは、1つ先の世代のミドルレンジである4070とほぼ同じだ。しかし、理論性能値とグラフィックスメモリ帯域の差に助けられて、4K解像度のスコアでは4070を引き離している。グラフィックスメモリの容量で見ると、3090は4070の2倍もある。そこにも大きな価値はあると思うが、消費電力は4070の1.5倍。あえて今から選択するのは難しいかもしれない。
グラフィックスメモリの帯域や容量が不足するとどうなるのか?
比較用に借りた「Radeon RX 7600」と「GeForce RTX 4060 Ti(8GB/16GB)」の結果についても見ていこう。
まずグラフィックスメモリの容量が8GBのRadeon RX 7600とGeForce RTX 4060 Ti(8GB)については、4K解像度のテスト結果がかなり悪い。理論性能的にはより低いはずのArc B580にもかなわない。もっとも、Arc B580の4Kテストも「ゲームプレイに問題あり」であることには変わりないのだが……。
一方、同じ理論性能を持つGeForce RTX 4060 Tiの8GBモデルと16GBモデルを比べると、16GBモデルについては4K解像度でもギリギリで「ゲームプレイ可能」の判定となった。GeForce RTX 4060 Tiとほぼ同じ理論性能を持つRadeon RX 6800 XTは、グラフィックスメモリの帯域幅が広いおかげか「快適にプレイできる」スコアをマークした。
ちなみに、フルHD解像度ならRadeon RX 7600はもちろんGeForce RTX 4060 Ti(8GB/16GB)も「非常に快適にプレイできる」という判定となる。4Kで遊ぶことを考えなければ、グラフィックスメモリは8GB、帯域幅は毎秒300GB以下でも快適に遊べそうだ。
もっとも、GeForce RTX 4060 Tiの実売価格は8GBモデルでも7万〜8万円台で、下手をすると10万円弱の製品もある。「フルHDでも構わないからモンスターハンターワイルズを遊びたい」という人は、実売で半額程度から手に入るArc B580やRadeon RX 7600/7600 XTがベターかもしれない。
CPU/GPUの負荷はどうなのか?
最後に、モンスターハンターワイルズベンチマークを実行している際のCPUやGPUの負荷についても言及しておこう。
テスト中は、フルHD/4Kいずれの解像度でもCPU負荷は60〜70%あたりだった。Ryzen 7 5700Xではなくて、1つ下の「Ryzen 5 5600X」(6コア12スレッド)でも大丈夫そうだ。ただ、PCではバックグラウンドプロセスがいろいろと動作していることを踏まえると、同じPCでゲーム実況配信も同時に行うなら8コア16スレッド以上のCPUの方が良いとは思う。
GPUについては、いずれも4K解像度時は負荷が99%に到達していた。逆にフルHD解像度ではGeForce RTX 4090/5090といったウルトラハイエンド級GPUなら80%前後にとどまる。これは、先述の通りCPUやPCI Expressバスの性能による“頭打ち”で、GPUの最大性能を引き出せなかったのだと思う。
●GPU選びは「理論性能」の高低だけにとらわれてはいけない!
筆者はPCゲーミングを積極的に楽しんでいる。それでも「PCI Express 5.0対応」「DDR5メモリ」というPCにアップグレードしたのは2024年になってからだった。
実際問題として、「普段使いのPC」として考えるなら今でも「PCI Express 4.0対応」「DDR4メモリ」のシステムで困ることはない。しかし、殊にPCゲーミングとなると、特に最新AAAタイトルは、最新技術を積極活用してくることもあって、ユーザーに対して要求する性能の“底”を年々、少しずつ上げてきている。
2025年の“底上げ”は、ある一定の性能クラスのPCを持つゲーミングファンに「買い換え」あるいは「システムのアップグレード」をやんわりと要求するレベルに達していると感じる。
筆者のように、2025年内にPCゲーミングのシステムをアップグレードしようと計画している人は一定の割合でいるはずだ。ゲーミングPC自体の新規購入/買い換えの計画を練っている人も多いだろう。
その際、ゲームプレイにおいて特に重要なアイテムとなるGPU選びには、ことさら慎重に熟慮を重ねた方がよい。その際に、この記事で挙げた3つの要件について意識して見てほしい。
(C)CAPCOM
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