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株式会社カラーのプロジェクトがすごい勢いです。
先日は劇場先行版「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」が公開になり、「宇宙戦艦ヤマト」の制作も控えています。GQuuuuuuXのほうは私もエンドロールにクレジットされているので、もしお好きな方がいれば、ご覧いただけると幸いです。
今回は宇宙戦艦ヤマトの話をしましょう。
といっても、カラー版ではなく、1978〜79年放送の「ヤマト2」についてです。これはヤマトのエピソードとしては二つ目のものです。当時の地球は非常に忙しいことになっていて、西暦2199年にはガミラス帝国からの侵略を受け放射能汚染で滅びかけますし、2201年にも白色彗星帝国に隷属させられかけます。その1カ月後には暗黒星団帝国と接触する羽目になり、翌2202年には本格的な侵攻にさらされます。やっとそれを退けたと思ったら同年中にボラー連邦の惑星破壊プロトンミサイルによって太陽が核融合異常を起こします。続く2203年にも回遊惑星アクエリアスが地球文明を水没寸前に追い込みます。いくら主人公の年齢が進むと作劇しにくいといっても、あまりにも踏んだり蹴ったりです。
暗黒時代と言っていいこの数年間のうち、ヤマト2は白色彗星帝国との戦闘を描いたものでした(シナリオの異なる劇場版「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」〈1978年〉や、さらに新解釈の「宇宙戦艦ヤマト2202」〈2018〜19年〉もあるのでご注意ください)。
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私がこれを見たのは小学生の頃で、いまだにすごく心に残っているシーンがあるんです。といっても、山本の腕がコスモタイガーIIのコクピットからはみ出しているじゃないかとか(劇場版)、なんかミッドウェー海戦っぽいエピソードがあるじゃないかとか、なんでヤマトが機動部隊の旗艦やってるんだとかいう例のあれではありません。
地球防衛軍連合艦隊司令長官の土方竜が予算を取りまくるんです。
戦局が推移するにつれて白色彗星帝国の戦力が圧倒的であることが徐々に判明していき、地球防衛軍は戦備増強を余儀なくされます。遠くにあった脅威が身近に迫り、しかも最初に評価していたよりも強そうなんて悪夢のような状況ではないですか。私だったら震え上がると思うんです。
でも、「敵は強いぞ! なんだかすごそうだ!!」と次々明らかになるときの土方さんのうれしそうなこと!
「アンドロメダ型(ヤマトを上回る10万トン級の新造戦艦。拡散波動砲2門装備)がx隻必要です」「y隻は要るかと」とがんがん建造計画を通し、予算枠を拡大していきます。私にはこれが衝撃だったんです。自分の尻に火がついて、人類全体が滅びかけている状況でも人間はヘゲモニー(支配権)の拡大や、予算獲得の快楽を追求するんだと(小学生の脳裏にはもうちょっと穏やかな言葉が並んだはずですが、もう老境に入り思い出せません)。その姿は死戦に臨む、人類の命運を重く両肩にのせた司令長官というよりは、広がる自分の権勢や新しく手に入る玩具に欣喜雀躍する山師に見えました。あほうな少年は「火事場にはもうけ口がある」と教訓を得たのです。
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実際、「泣きっ面に蜂」の状況になると、畳みかけるように更なる不幸が招きもしないのにやってきます。セキュリティー事故を起こすとセキュリティーコンサルを名乗るブラックハッカーも接触してきますし、スパムメールも不正アクセスも倍増します。何なら味方のはずのセキュリティー対策ソフトも「もっといいプランにしませんか?」と提案してきて、「お前もか!」と裏切られた気持ちになります。もちろん、セキュリティー対策ソフトの衣を被ったマルウェアの売り込みも激化します。
やらかしてしまったとき、焦っているとき、凹んだとき。いろいろな人が魔の触手を伸ばしてきますが、そんなときは深呼吸をして土方さんの顔を思い出すようにしています。
【著者略歴】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)、「機動戦士ガンダム ジオン軍事技術の系譜シリーズ」(KADOKAWA)。Eテレ スマホ講座講師など。
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