
トランプ政権が発足してから1カ月が経過するが、ウクライナ戦争やガザ紛争の停戦を自身のレガシーとして位置づけ、ノーベル平和賞への意欲を見せているとの報道が散見される。しかし、この意欲は純粋な平和への貢献意欲から来ているものではなく、個人的な名誉欲や虚栄心に基づくものであろう。
【写真】「北方領土ってこんなに大きいんだ」本州の大きさと重ねてみると…比較画像が話題に
まず、トランプ大統領がノーベル平和賞に強い執着を示している事実は、彼の過去の言動から明らかである。過去の演説や記者会見で、トランプ大統領はたびたび前任者であるバラク・オバマ元大統領が2009年にノーベル平和賞を受賞したことを引き合いに出し、オバマは大統領就任早々に何もしていないのに受賞したと批判しつつ、自身の方がより具体的な成果を上げていると主張してきた。例えば、2019年2月、トランプ大統領は北朝鮮やシリアで大きな功績を上げ、ノーベル賞をもらってもおかしくないが、彼らは決して私にくれないだろうと不満を漏らした。この発言は、トランプ大統領が賞そのものに強い関心を持ち、受賞できないことへの苛立ちを感じていることを示唆している。
また、トランプ大統領は第1期政権でアブラハム合意を成立させたことを高く評価している。この合意は、イスラエルとアラブ諸国の間に長年存在した敵対関係を緩和し、地域の安定に寄与するものとされている。2020年に署名されたこの合意を理由に、彼は複数回ノーベル平和賞にノミネートされており、例えば米国のクラウディア·テニー下院議員やノルウェーのクリスチャン·ティブリング=ゲッデ議員らがその功績を称えて推薦を行った。
しかし、それに対する反発も多い。一部では、トランプ大統領の平和への取り組みが真に利他的なものではなく、むしろ自己顕示欲や政治的レガシーの構築に駆られているとの見方が根強い。また、トランプ大統領はウクライナの停戦について、ロシア軍がウクライナ領土を占領する現状での停戦を前提とするが、それは侵略を容認する形となり、長期的な平和ではなく単なる紛争の凍結に過ぎない。ガザ問題におけるパレスチナ人追放とリゾート地化という計画についても、人権侵害や民族浄化の懸念を招き、ノーベル平和賞の精神とは正反対であることは明白であろう。トランプ大統領の一国主義的な姿勢や国際機関への敵対的な態度は、ノーベル委員会の伝統的な価値観と対立する可能性があり、どれだけ具体的な成果を上げたとしても、受賞が認められる理由にはなり得ないだろう。
|
|
結論として、トランプ大統領がノーベル平和賞を本気で狙っていることは、彼の発言や行動からほぼ確実である。彼は自身の外交成果を最大限に活用し、賞を自身の政治的キャリアの頂点として位置づけようとしている。しかし、その動機が平和への真摯な献身ではなく、個人的な名誉や前任者への対抗心に基づいていると見なされる場合、また、トランプ大統領の提案する解決策が国際法や人権の観点から問題視される場合、受賞は極めて困難であろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。