中山記念に出走予定のシックスペンス(撮影:下野雄規) 【文・構成:伊吹雅也(競馬評論家)=コラム『究極のAI予想!』】
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
◆1番人気馬が期待を裏切りがちである点に注意したい
AIマスターM(以下、M) 先週はフェブラリーSが行われ、単勝オッズ4.3倍(2番人気)のコスタノヴァが優勝を果たしました。
伊吹 着差以上の完勝と言って良いのではないでしょうか。スタート自体はそれほど良くなかったのですが、すぐにダッシュがついて先行した各馬のすぐ後ろ、内から2頭目のポジションを確保。3コーナーから4コーナーをほぼ馬なりで通過し、ゴール前の直線入り口で先行勢の外めに持ち出しています。
その後、残り400m地点を過ぎたあたりで前のウィリアムバローズ(13着)、サンデーファンデー(10着)を捕らえ、単独先頭に。中団から伸びたペプチドナイル(4着)、ミッキーファイト(3着)がすぐ後ろで食い下がり、決勝線の手前では最内からサンライズジパング(2着)が迫ったものの、最後の最後までリードを守り切りました。
スマートなレース運びで流れに乗せた鞍上のR.キング騎手も、それに応えて横綱相撲を完遂したコスタノヴァも、本当にお見事ですね。多少異なる展開になっていたとしても、他の馬が先着を果たすのは難しかったかもしれません。
M コスタノヴァは5歳で、今回が通算10戦目。4走前の白嶺Sを勝ってオープン入りし、3走前の欅S、前走の根岸Sと着実に勝利を積み重ねてきましたが、GIに出走するのは今回が初めてでした。
伊吹 2走前のクラスターCで6着に敗れてしまったとはいえ、ダートのレースはこれまでのところ9戦7勝2着1回、東京のレースに限れば6戦6勝。まったく底を見せないまま頂点まで上り詰めたと言って良いでしょう。ちなみに、母のカラフルブラッサム、オープンまで出世した半兄のリレーションシップは、いずれも芝のレースを主戦場としていた馬。
コスタノヴァ自身もデビュー戦(11着)は芝のレースでしたが、この一戦のみでダート転向を決めたのは、いま思うとなかなかの英断ですよね。これが現在の快進撃に繋がったわけですから、陣営にとっても今回の勝利は格別だったのではないかと思います。
M 次走は未定とのことですが、どのレースを使うとしてもかなりの注目を集めることになるでしょう。
伊吹 ただ、東京のレースを主戦場としてきた馬なので、他場のレースを選んだ場合は、競馬ファンの評価が割れるかもしれません。ちなみに、2023年のフェブラリーSを制したレモンポップも、その時点では東京のレースしか勝ったことがなかった馬。しかし、その後に盛岡・中京・浦和の3場でGI級競走を計5勝しました。コスタノヴァが同様の戦績を収めることができるのかどうか、これからじっくり見極めていきたいと思います。
M 今週の日曜中山メインレースは、国内外の大舞台へと繋がっていく注目の中距離重賞、中山記念。昨年は単勝オッズ16.1倍(7番人気)のマテンロウスカイが優勝を果たしました。なお、その2024年は単勝オッズ35.6倍(10番人気)のドーブネが2着、単勝オッズ10.0倍(4番人気)のジオグリフが3着という結果で、3連単の配当は54万2050円。今年も伏兵の台頭を警戒しておいた方が良いのでしょうか。
伊吹 過去10年の中山記念における3連単の配当を振り返ってみると、平均値こそ11万1237円ですが、中央値は2万2540円。荒れた年もある一方で、過半数の6回は3連単3万円未満の低額配当決着です。
M ただ、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、1番人気馬がかなり苦戦していますね。
伊吹 2022年のダノンザキッド(7着)、2023年のソーヴァリアント(9着)、2024年のソールオリエンス(4着)と、ここ3年の単勝1番人気馬も上位に食い込めていません。もっとも、単勝2番人気から8番人気の馬が2015年以降[7-9-10-44](3着内率37.1%)だったのに対し、単勝9番人気以下の馬は2015年以降[0-1-0-42](3着内率2.3%)。超人気薄の馬が馬券に絡む確率は低いと見るべきでしょう。
M そんな中山記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、シックスペンスです。
伊吹 話の流れからすると興味深いところを挙げてきましたね。今回のメンバー構成なら、おそらく単勝1番人気の支持を集めることになりそう。
M シックスペンスは4歳馬。2走前の日本ダービー(9着)で初黒星を喫したものの、仕切り直しの一戦となった前走の毎日王冠を快勝しています。3走前にはスプリングSを制していて、コース適性の高さは証明済み。大きな不安要素が見当たりませんし、今回も人気の中心となるでしょう。
伊吹 どちらかと言えば穴党であるAiエスケープがこの馬を指名したということは、今回は妙味ある伏兵がいないということなのかもしれませんね。この見立てを踏まえたうえで、私はレースの傾向からシックスペンスの信頼度を見積もっていきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは各馬の出走数をチェックしておきたいところ。2019年以降の3着以内馬18頭中16頭は、キャリア18戦以内でした。
M キャリア豊富な馬は過信禁物、と。
伊吹 ちなみに、出走数が19戦以上、かつ“同年の、JRAの、重賞のレース”において3着以内となった経験がない馬は2019年以降[0-0-0-30](3着内率0.0%)。年明け以降の重賞で馬券に絡んでいるような馬でない限り、キャリア19戦以上の馬は疑ってかかるべきでしょう。
M シックスペンスは出走メンバー中最少のキャリア5戦。この傾向からは強調できる一頭ということになります。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価した方が良さそう。同じく2019年以降の3着以内馬18頭中12頭は、前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.4秒以内でした。
M なるほど。大敗直後の馬は強調できませんね。
伊吹 補足しておくと、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.5秒以上、かつ“JRAの、2000m未満の、GIのレース”において7着以内となった経験がない馬は2019年以降[1-0-0-35](3着内率2.8%)。大敗直後だったにもかかわらず好走を果たした馬の大半は、1マイルのビッグレースで善戦した実績があった馬です。
M 先程も触れた通り、シックスペンスは前走の毎日王冠を快勝している馬。この条件も問題なくクリアしています。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬18頭中15頭は、前走の出走頭数が15頭以上でした。
M こちらもなかなか興味深い傾向。前走が少頭数のレースだった馬はあまり上位に食い込めていません。
伊吹 中山記念の出走可能頭数は16頭で、特別登録を行った馬は18頭。“フルゲート”となる可能性すらありますから、例年以上に前走が多頭数のレースだった馬を重視したいところです。
M シックスペンスの前走、毎日王冠は14頭立て。ギリギリとはいえ引っ掛かっていますし、評価を下げた方が良いのでしょうか。
伊吹 正直なところ、私はより不安要素が少ない別の馬に◎を打つつもりでした。もっとも、これだけ能力の高い馬で、Aiエスケープも中心視しているわけですから、無理に嫌う必要はまったくありません。おそらく私も、最終的にはある程度重いシルシを打つと思います。