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20代の大学生に交じり、笑顔を見せるシニアの女性がいる。ノートルダム清心女子大児童学科4年の三谷原るり子さん(70)=倉敷市。「4年制大学で学びたい」という半世紀抱えてきた夢を実現させ一昨年、社会人試験で3年次に編入。あこがれのキャンパスライフを過ごして3月、門出を迎える。卒業論文のテーマは「サクセスフルエイジング」。これからも豊かな老後を日常生活で実践するつもりだ。
高校卒業を控えた18歳の春、三谷原さんは同大英文科に合格していた。「英語を学んで客室乗務員になりたかった」ものの、妹の私立高校進学と重なり、家計の負担を考えて短大進学を選んだ。卒業後は40年間、幼稚園教諭として働き、福祉事務所にも8年勤務。結婚、出産、子育てもあり充実した人生だったが、4年制大学への思いはずっとくすぶっていた。
転機はノートルダム清心学園元理事長の故渡辺和子さんとの出会い。40代のころ参加した同大公開講座の茶話会で「いつでも学びにいらっしゃい」と、励ましてくれた渡辺さんの言葉に支えられた。義母を見送り、仕事のめどがついたのが数年前。夫の強さん(75)が賛成し、オランダで暮らす娘も「こちらでは70代の人も大学で学んでいるよ」と背中を押してくれた。
悪戦苦闘の受験勉強の末、2023年4月に晴れて同大3年生に。心理学を専攻し、講義はキリスト教や文化と共生、古代文学など興味深いものばかり。家事をしながらの通学やリポート提出はきつかったが、学びへの情熱は冷めることがなかった。また、自身の授業だけではなく、障害のある学生のノート筆記を引き受けたり、学園祭で来場者を案内する広報スタッフを務めたり。学生生活を満喫した。
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孫のような同級生たちからは「るり子さん」と慕われる。パソコン操作などを教えてもらう一方、幼稚園教諭だった自身の経験を話すことも。「るり子さんには人生を切り開く力がある。年齢を重ねても生き生きと過ごす姿を間近で見せてもらった」と同じゼミの赤澤莉子さん(22)。
卒論の題材とした「サクセスフルエイジング」は、加齢に伴う変化を前向きに捉え、健康で充実した人生を目指す考え方。発達心理学でこの言葉を知り、卒論のテーマに据えた。研究は75歳の強さんと、40年前に92歳で亡くなった祖母、70歳の自分自身の3人を対象に進めた。それぞれの老後の過ごし方を探る中で、見えてきたのは「他者との関わりの大切さ」だった。
数年前から子ども食堂の運営に携わる強さんは、月2回の活動に尽力し、米や野菜を作って参加者に届ける。多くの親子の喜ぶ顔が日々の励みになっているようだった。記憶の中の祖母も短歌やスポーツ観戦といった趣味を楽しみつつ、近所の困窮家庭への差し入れを晩年まで続けていた。
「当初は、好奇心を持って自分が学び続けることが豊かな老後につながると思っていたが、それだけではなかった」。卒論では、社会と積極的に関わることで周囲に受容され、それが自己肯定感を高めると結論づける。幼稚園教諭だった過去の自分も振り返り、「誰かに喜ばれ、自分を生かせる場があることが生きがいになると気付いた」という。
卒業後は強さんと子ども食堂を手伝うほか、小学校や公民館などでのボランティアを考えているという三谷原さん。「50年ぶりに手にした2年間の学生生活は、人生の忘れ物を見つけたような、かけがえのない時間だった」。大学で得た学びと喜びをどのように周囲に返し、生かしていくか。それこそが自身のサクセスフルエイジングだと感じている。
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(まいどなニュース/山陽新聞)
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