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バーレーンで行なわれる開幕前テストを前に、10チーム中8台の2025年型ニューマシンが出揃った。レッドブルとアルピーヌはテスト初日にお披露目となるが、すでに公開された8台のマシンを見ても、2025年のトレンドはハッキリと見えてきた。
なかでも最も強烈なインパクトを与えたのは、フェラーリSF-25である。最もよく2025年のトレンドを物語っているマシンと言えそうだ。
フェラーリはまず、フロントサスペンションをプルロッド方式に変更してきた。2022年に現行規定となってから2年連続王者のレッドブル、そして昨年王者となったマクラーレンはいずれもプルロッド方式を採用しており、ついにフェラーリもこれに倣(なら)った形だ。
フェラーリの車体部門テクニカルディレクター、ロイック・セラはこう説明する。
「SF-25のメインは、空力開発の余地を広げること。SF-24はいいマシンだったが、すでに開発の余地はなくなっており、空力を向上させるためのスペースを生み出す必要があった。そのため、フロントサスペンションを変更し、空力的な開発余地を拡大したんだ」
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現在のF1マシンのサスペンションは、アームを利用した「気流の制御」がメインの目的となっている。ノーズ脇からフロントタイヤ内側を抜けていく気流を、上に逃げていかないようサスペンションアームで整流して、サイドポッドへと流すのだ。
ただそのためには、プッシュロッドがモノコック上面に伸びていては邪魔になる。よってレッドブルやマクラーレンは、空力的な理由でモノコック下面にマウントすることができるプルロッド方式を選択してきた。
タイヤを地面に接地させて衝撃を吸収するというサスペンション本来の目的も重要ではある。だが、ほとんどストロークしないほど硬くセットアップする今のサスペンションならばメカニカル性能の差はほとんど出ず、それよりも空力面で得られるメリットのほうが大きいというわけだ。
【0.03秒で順位が変わる開発競争】
王者マクラーレンは、プルロッド式のフロントサスペンションをさらにアグレッシブなレイアウトにして、マシンの空力性能を突き詰めてきた。
昨年からレーシングブルズも追随し、今年はフェラーリも加わった。プッシュロッド方式を維持しているのは、メルセデスAMG以外では独自開発が難しいカスタマーチームだけになってしまった。
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そして、フェラーリがそのプルロッド式サスペンションの恩恵を受けて「開発の余地」を生み出したのが、サイドポッドだ。
コクピット脇にせり出した板の下に、ほとんど見えないような薄さで冷却風取り入れ用の開口部を設け、サイドポッド下側を大きくえぐって気流をスムーズに流す。サメの口のような形をしていることから「シャークマウス型」と呼ばれるこのサイドポッドが、今季最大のトレンドになっている。
昨年レッドブルが先鞭(せんべん)をつけたこの手法は、昨シーズン中にいくつかのチームがすでにコピー。内部のラジエター配置やフロントサスの整流効果の不足などで対応ができなかったチームも、2025年型マシンではこぞってコピーしてきており、ここまでに発表された8台のマシンすべてがシャークマウス型となった。
2025年は現行レギュレーションで4年目のシーズンとなり、マシンの開発はどのチームも行き着くところまで来ている。そのため伸びしろは決して大きくなく、4チーム7人のドライバーが勝利を挙げた昨年以上の大接戦になるとみられている。
「昨年のひとつ前のポジションとのタイム差は0.03秒だった。0.03秒で順位が変わる。つまり、空力面、メカニカル面、タイヤマネージメント面など、それぞれで見づける0.001秒ずつが意味を持つんだ。2025年型マシンは開発が突き詰められ、改良点を見つけ出すのはこれまで以上に困難になるが、一方でその0.001秒が重要な意味を持つことになる」(セラTD)
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フロントサスペンションやサイドポッドなど、どのチームもトレンドに倣うようになれば、その0.001秒を稼ぐための方法がどんどん少なくなってくるのは当然だ。
【カーボン地剥き出しのマシンも減少】
となれば、あとはドライバーがどれだけマシンの限界を引き出せるかの勝負。チームとしては、ドライバーが自信を持って攻めやすいマシンを作り上げることも重要なポイントとなる。
昨年のレッドブルRB20のように、速さは持っていても挙動がナーバスで手懐けるのが非常に難しいマシンでは、安定してその速さを発揮することはできない。
この「ドライバーフレンドリー」というのも、今年多くのチームが掲げているトレンドだ。
レーシングブルズやハース、アストンマーティンなどは、リアの空力安定性を向上させることが昨年型マシンの課題であった。2025年型では、ブレーキングからターンインの時にドライバーが限界まで攻めることができ、予測可能で一貫した挙動を示すマシンへの改善が見られる。
そうなれば、2025年はこれまで以上にドライバーの腕によって勝負が決まる場面が増えてくるかもしれない。それも、0.1秒や0.3秒ではなく、前述のような0.03秒といった、ほんのわずかな差の勝負だ。
「ドライバーからのフィードバックで最も重要な要素のひとつが、マシンの抱えているリミテーション(制約)が何かということだ。つまり、速く走るために何が必要なのかということだ。
今はマシン開発の大半がバーチャル(シミュレーション)で行なわれているが、バーチャルは現実とは異なる。速く走るために何が問題になっているのか、何が必要なのかというのは、極めて人間的な要素であり、人間にしか表現することはできない。ドライバーから引き出したいのは、まさしくそこだ」(セラTD)
もうひとつのトレンドは、どのマシンも色とりどりにペイントされているカラーリングが増え、カーボン地剥き出しの面積が減ったことだ。
これはつまり、マシンの軽量化が進んで800kgという最低重量をクリアできたマシンが増えてきたことを意味している。10kg重ければ1周あたりおよそ0.3秒はロスしてしまうのだから、この大接戦のなかでは非常に大きな要素だ。
【2025年を捨てるか、結果を獲るか】
そして今年のチームは、もうひとつの勝負に直面することになる。2026年型マシン開発とのバランスをいかに取るか、ということだ。
2025年型マシンの改良を続けながらも、レギュレーションが大きく変わる2026年型マシンを同時に開発しなければならない。しかし、今のF1にはコストキャップがあり、空力テスト制限もある。昔のように物量作戦で対処するのではなく、限られた予算と風洞実験時間のなかで、2台のマシンをいかに開発していくかを考えなければならない。
「2025年はとてもチャレンジングなシーズンになる。1年の間に2台のまったく異なるマシンを開発していかなければならないからだ。
2026年規定は、車体もパワーユニットもタイヤも変わり、その性質は大幅に異なる。その2台のマシン開発のバランスをいかに取っていくか、非常に大きなチャレンジになるね」(セラTD)
早々に2025年を捨てて2026年にフルコミットするチームもあれば、2025年型マシンの改良を続けて目の前の結果を獲りにくるチームもあるだろう。
どのチームもまだ確固たる計画は立てておらず、シーズンが開幕して勢力図が見えたところから、この動きが活発化していく。
おそらく、頭ひとつ抜け出すチームなどない。もしかすると、大混戦の中心は4強チームだけでなく、中団グループからも加わってくるかもしれない。そんなフィールド全体が密集した2025年のF1シーズンのなかで、各チームがどんな戦いを見せるのか非常に楽しみだ。