バスケ女子日本代表ゲインズHCの指導の基軸 「いいコミュニケーター」であるためにすべきこと

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2025年02月27日 07:30  webスポルティーバ

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バスケットボール女子日本代表
コーリー・ゲインズHCインタビュー(後編)

◆コーリー・ゲインズHC前編>>目指す「オーガナイズド・カオス」とは?

 トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)の「右腕」として男子日本代表を支えてきたコーリー・ゲインズ氏が、女子日本代表を率いることになった。インタビュー前編では、長年の友人でもあるホーバスHCとのコーチングの相違点や、女子日本代表への想いを語ってくれた。

 インタビュー後編では、具体的な強化のビジョンについて話を聞く。新しい選手の発掘やコミュニケーション方法など、ゲインズHCが培ってきた指導スタイルとは──。

   ※   ※   ※   ※   ※

── 女子日本代表を強くするキーワードとして用いた「オーガナイズド・カオス」という単語は、ゲインズHCの師匠であるポール・ウェストヘッド氏が用いていた言葉だそうですね。

「そのとおりです。彼が最初に『ラン・アンド・ガン』と呼ばれるシステムを考案した時、周囲は『クレイジーだ』と言っていました。しかし今、そのバスケットボールは誰もがやっていることです。私は大学時代にウェストヘッドHCの下でプレーし、のちにWNBAフェニックス・マーキュリーでAC(アシスタントコーチ)も務めたので、彼から多くの影響を受けました。

 ウェストヘッドだけでなく、パット・ライリー(HCとしてレイカーズとマイアミ・ヒートで計5度のNBA王座獲得)やジェフ・ヴァン・ガンディ(ニューヨーク・ニックスとヒューストン・ロケッツでHC)、ジョージ・カール、バーニー・ビッカースタッフ、ドウェイン・ケイシーなど、多くの優れたコーチたちの下で指導を学んできました。彼らから教わったことに少しずつ改良を加えながら、自分のオリジナルを昇華させたわけです。今の私があるのは、こうしたコーチたちのおかげです」

── これから女子日本代表を作っていくにあたって、新たな若手の起用についてはどう考えていますか?

「ベテランと若手をうまく組み入れていくことが大事だと思っています。アメリカの大学バスケットボールも昔は、選手が4年間プレーをすることは普通で、チーム内に4年生が4〜6人ほどいるのも当たり前でした。しかし時代は変わって、4年生はゼロ、3年生がふたり、2年生がひとり、あとは全員1年生......というところも今は少なくありません。

 制度の変更などもあって、優れた選手たちはすぐにNBAへ行ってしまうか、ほかの学校に転校してしまうからです。『大学バスケットボールが台無しになってしまった』と嘆く人もいます。ベテランが少なく、チームとしての安定感を失ってしまっているからです」

【コーチとしてやるべきこと】

── やはりベテランはチームに欠かせないでしょうか。

「ベテランの存在は必要です。ベテランは若手たちに教えることができるので、私はいろんな年齢の選手がチームにいることが望ましいと思っています。年長の選手はいつかチームを去り、そして新たな若い選手が入ってきます。それも自然な新陳代謝です。

 すでに、ユニバーシアードへ向けたU22世代の女子代表候補合宿にも視察に行っています。日々練習に顔を出し、コーチ陣のミーティングに参加し、練習試合にも行きました。今後もアンダーカテゴリーと連携を取っていくつもりです」

── U22の選手たちを見ていて、日本女子の潜在能力についてどう感じていますか?

「今回U22を見に行った時は、数人のトップ選手がケガをしていました。ですが、それでも優れた才能を感じさせる選手たちを確認できました。

 ユナイテッドカップ(Wリーグが今年から始めたカップ大会)にも視察へ行きました。(馬瓜)ステファニー、(馬瓜)エブリン、キキ(林咲希)、アース(宮澤夕貴)......代表でも活躍するベテランたちに会いましたが、U22の合宿に参加していない才能のある若手たちがいることにも気づきました。名前は挙げませんが19歳なのにすばらしい選手がいて、驚きましたよ」

── 若手の才能を伸ばすことも、女子日本代表の強化として大事ですよね。

「男子日本代表での例を出します。今はみなさんの多くが吉井裕鷹(三遠ネオフェニックス)の存在を知っていますよね。だけど、彼が代表に招集され始めたころは、『吉井って誰?』という感じだったはずです。なにせ、Bリーグでもほとんどプレーをしていなかったのですから。

 結果、彼は代表でプレーを続けることで自信を深めていきました。それこそが『コーチとしてやるべきこと』です。選手たちの自信を削ぐことは簡単です。しかしそうではなく、コーチは自信を与えなければいけません。それこそがコーチングだと思っています」

【いいコミュニケーターとは...】

── 選手選考に関して、海外育ちで日本のパスポートを持っている選手の起用について、ゲインズHCの考えを聞かせてもらえますか?

「すでに選手の発掘は始めています。具体的な名前を挙げるのは差し控えますが、選手のひとりは日本代表活動に参加することを切望しています。ほかにも幾人か候補がいますので、今後も話し合いを継続できたらと思っています」

── 就任会見でゲインズHCは、ニューヨーク・ニックスの球団社長に就任したフィル・ジャクソン氏が指導者の道から身を引いた理由として、「選手たちとコミュニケーションを取ることができなくなったから」という話を紹介していました。ゲインズHCにとって「コミュニケーション」とはどのようなものでしょうか?

「例えを用いながら話しましょう。ここにジョン・ウッデン(UCLAを10度の全米大学王者に導いた名将)やフィル・ジャクソン、パット・ライリー、レッド・アワーバック(ボストン・セルティックスに9度のNBA王座をもたらしたHC)といった歴代の名将たちがいて、女子日本代表を通訳なしでコーチしてもらったとします。彼らのバスケットボールの知識はとてつもなく膨大で、すべてを知り尽くしています。彼らが獲得してきた優勝回数を足せば30くらいになるでしょうか。

 でも、彼らがロシア語しか話せなかったとしたら、選手やスタッフたちに指示を出しても、受け手は何を言っているかわかりません。名将たちがとてもいいことを言っているにもかかわらず。当たり前のことですが、それはコミュニケーションが取れていないからです。

 コミュニケーションとは、コーチが一方的に話を伝えるだけでは意味がありません。一方通行ではなく、双方向であるべきです。私にとっていいコミュニケーターとは、『聞くことができる人物』です。

 昔のコーチたちは、選手の言うことなど聞いていませんでした。自分のやり方以外は受けつけない、といった感じでした。しかし、時代は変わったのです。コーチも選手の話を聞く必要があります。それもコミュニケーションスキルです」

【日本人の血が流れている誇り】

── ゲインズHCは日本語を話しませんし、選手たちも多くは英語を理解できません。言語の壁に不安はありませんか?

「すばらしい通訳がついてくれることになっていますから、問題はありませんよ。それに私は、選手たちの多くをすでに知っていますから、『あの新しいHCは誰だ?』とはなりません。2009年以来、日本のバスケットボールに関わってきましたし、選手たちの成長も見てきました。だから問題があるとは思っていません。

 私がすべき作業は、彼女たちの話を聞きつつ、いいコミュニケーションを取ることです。もちろん、私のことをあまり知らない若い選手たちも入ってくるでしょうが、ベテランたちの手助けもあるので、徐々に私というコーチ像もわかってもらえるでしょう」

── ゲインズHCの祖母は日本人で、ご自身が「ヤスト」というミドルネームを持っていることでも、日本と深いつながりを感じます。ゲインズHCにとって、日本とはどのようなものですか?

「日本は私にとって『誇り』で、自分のなかに日本人の血が流れていることを隠したこともありません。この国のチームを率いることができるのは、実に名誉なことです。私の母は、いつも私に日本で何が起きているか、人々がどのように暮らしているか、日本の歴史などを教えてくれました。それを今でも、私は感謝しています」

── 日本に対して恩のようなものを?

「はい、間違いないです。女子日本代表のHCとなったので、今はこのチームを世界に知らしめたいですし、それこそが日本への恩返しだと思っています」

<了>


【profile】
コーリー・ゲインズ
1965年6月1日生まれ、アメリカ合衆国・ロサンゼルス出身。ロヨラ・メリーマウント大からNBAドラフト3巡目・全体65位でシアトル・スーパーソニックスに指名される。ニュージャージー・ネッツ、フィラデルフィア・76ers、デンバー・ナゲッツ、ニューヨーク・ニックスの4チームに在籍し、晩年には日本リーグのジャパンエナジーでもプレー。引退後は指導者となり、2009年にはWNBAフェニックス・マーキュリーをリーグ優勝に導く。2022年から男子日本代表のアソシエイトHCを務め、2025年3月より女子日本代表HCに就任する。現役時代のポジション=シューティングガード。

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